第3話


 「……分かった。沼田の意見も参考にして”可愛い”スキルについては、俺ももう少し考える事にする」


 分かったとは付けたものの、早口過ぎて沼田の言っていた事を咀嚼出来てはいなかった。

 まぁ、何かしら気に入らなかったのだろう。

 意にそぐわぬ事があった場合、咄嗟に言葉に出してしまう事もあるだろう……。


 「それが得策かもしれんな。やはり”スキル”という言葉を使う以上、現代のトレンドに合わせる必要性はあるのかもしれん」


 赤坂は頷きながら、もっともらしい事を言う。

 あの訳の分からない早口を理解していたのか?

 ただ、適当にそれらしい事を言っているだけなのか?


 「何が言いたいんだ?」


 俺が問うと赤坂は答える。


 「要するにだ、WEB小説の読者層が”スキル”という言葉で連想するものは、世間一般で使われる”スキル”とは違うという話だ」


 思わず「へぇ」と、感心してしまいそうになったが、まだ油断する訳にはいかない。

 相手はあの赤坂だ。


 「そこには超常的な要素が必要だと?」

 「だろうな。そうする事で”非現実感”を生み出す事が出来るし、受け入れられ易いのかもしれん」


 ほう、何やら赤坂なりに考えているようではあるな。



 先程あれだけ饒舌に語った沼田は、我関せずで寝転んでいる。

 本当にこいつの生態は意味不明だ。

 よく考えると、どういう友人だったかも覚えていない……。


 それはさておき、赤坂の言葉に興味を抱き、話を続けた。


 「じゃあ、赤坂ならどんな”可愛い”スキルを想像するんだ?『無い』は無しだぞ」


 俺は赤坂に質問する。


 先に退路を絶っておいた。

 釘を刺しておかなければ、返って来る確率が最も高いのは『無いな』という言葉だろう。


 そのくらいは今までの流れで想像出来た。


 「……あまり舐めてくれるなよ。元々は自分が言い出したことだ。何の考えも無いとは言わんさ……」


 赤坂は意味深に、真剣な表情で言う。


 やはり、何かしらの考えはあったのか……。

 まぁ、それが当然だろう。

 基本的には全部自分で考えるべきものだとも思うし。



 しかしながら、説明こそしていなかったが、赤坂はそれなりの学がある奴だ。

 だからこそ、こんなマンション(※創作色々論4話を参照してください)に住んでいられる程の収入がある。


 さて、いったいどんな設定を考えていたのか……。


 期待と不安が入り混じる。




 「令嬢が、そのスキルを使うと…………相手は……こう……『キュンッ!』となる」


 赤坂は気持ちの悪い動きで、似つかわしくない擬音語を発した。


 …………


 「はっ??」


 聞き直す事しか出来なかった。


 何言ってんだ?コイツ?


 「だから『キュンッ!』と、なるのだ」


 赤坂は再び、先程よりは小さいが同じ動作と言葉を発する。

 同年代として、見せられているこちらの方が恥ずかしくなる。


 「……はっ??」

 「言葉の通りだ」



 呆気に取られた俺は、赤坂についてもう一つ語っていない事を思い出した。


 そういえば理系に傾倒してる奴だったなと……。

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