第2話


 「一応、構想は練ってみた」


 俺は赤坂に告げた。


 「ほう。では聞かせて貰おうか」


 もう、この態度にイライラしても仕方ないのでスルーした。



 気が付けば1月も終わり、2月……節分を迎えていた。

 豆を投げつけてやりたいという気持ちも生まれたが、生憎ここに豆は無い。

 あったとしても、片付けるのが面倒なのでやる事は無いだろう。

 食品ロスが騒がれるこの時代、恵方巻が勢力を強めてきた理由も頷けてくる。



 沼田はいつも通り炬燵でゴロゴロしていた。

 こいつはマジで、いつも何しに来てるんだろう?


 「取り敢えず……粗削りだけどな。

――ある貴族の令嬢がいた。その令嬢は見目麗しく、だが、それを鼻にかける事も無く、誰に対しても柔和な態度で、多くの者から愛されていた。しかし、それは彼女の入念な計画の中で生み出された”技術スキル”であり、偽りの姿。彼女の真の目的は”ある者達”を追い出す事だったのだ。

――という話はどうだ?」


 実に話を展開させ易そうだ(自画自賛)、それにある程度の深みも出せる……気がする(個人的感想)。

 含みを持たせた曖昧な表現により”令嬢”を善にも悪にも出来る。

 AIに対抗した訳では断じて無いが、ファンタジー色は出さないようにした。


 この具材をどう調理するかは、お前次第だ!赤坂!!


 と、俺はやりきった感を出しながら赤坂に問い掛けた。


 「なるほど……。悪くは無いが、何というかありきたりだな」


 阿保かっ!!

 敢えてありきたりに纏めたんだよっ!!

 お前の案じゃAIですらギャグっぽいモノ(1話を参照)を提案したわ!!


 「あのなぁ……」と、俺が文句を言おうとしたところ――


 寝転んでいた沼田が唐突に起き上がる。

【以下、沼田の台詞は読み飛ばしていただいて構いません】


 「それだけだとさ、なんか現実的過ぎるんだよね。需要が無いとまでは言わないけど”非現実”感が足りない気がする。昨今のWEB小説のトレンドだけで言えば、読み手が求めているのは、自分では体験出来ないと思っている世界に、自身を投影する事なんじゃないかな?だからこそ、異世界転生のような”自分が別の何かに生まれ変わる物語”とかが支持されているんだと思うんだ。そう考えると、せっかく”スキル”っていう非現実要素があるのに、それまで現実に落とし込んじゃうのは勿体ない気もする。舞台は現代でも中世でも異世界でも良いとは思うけど”スキル”には、もう少し魅力と捻りが欲しいとは思うよ。ただ”可愛い”を演じてるだけなんて設定じゃ、”スキル”って呼ぶは誇大広告かもしれないね。タイトル詐欺と言われても間違いじゃないよ。だってそれは”可愛い”に期待する読者への裏切りに繋がるかもしれないし。”萌え”なんて言葉は既に古い表現だとは思うけど、少なからずそれに期待する読者もいるだろうし、どんなスキルなのか期待する人もいるかもしれない。それを、ただ可愛く演じてるだけってのには少し拍子抜けするかなぁ?……って、あくまで個人的な意見だけどね。」



 「おっ……おう」


 語った沼田は再び寝転んだ。



 晴天の霹靂とはまさにこの事だ。

 俺は沼田の言に深く感銘を受け、ぎこちない返答しか出来なかった。



 「沼田ってこんなに早口で喋れる奴だったんだ」と……。


 内容は全く入って来ていなかったが……。

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