葉山なつみの日常
sakusaku
あいみょんと小松奈々の中点から、ややあいみょんよりの私
この世でもっともくだらない話題の一つに、「芸能人の誰に似ているか?」が挙げられる。誰だれに似ていると言われたところで「だから何?」って感じだし、挙げられた芸能人が私の知らない人だったりした日には「そもそもそいつ知らねぇよ」と言いたくなる。仮に知っていたとしても、自分にとってあまり印象のよくない芸能人だったりするとあまり気分が良くない。そしてたいてい場合、他人から言われる「○〇に似ている」は自分の期待通りにはならない。
「なつみってさ……前から思ってたんだけど、誰かに似てるよね……」
ある日の昼休憩。向かいに座るみきぷるーんは私の顔をじろじろと観察しながら言った。
「誰かって、誰よ」
「うーん……喉元まで来てるんだけど思い出せない。うわー誰だろう。でも似てるんだよなあ」
みきぷるーんは筆箱サイズの弁当箱につまったウィンナーをつまんで口に放り込んだ。もぐもぐと咀嚼しながら「誰だろう~」と唸っている。一方の私は「誰かを明確にしてからしゃべれよ」と心の中でつっこみながらブロッコリーのバター和えをかじる。
「思い出せそうで思い出せないのが一番いらいらするんだよな~。誰だろ~。なつみは誰だと思う?」
いや、私に聞かれても。知らねぇよ。
「昨日テレビに出てるのをみて、あっ、なつみじゃんって思ったんだよなあ。うーん……」
このままだと昼休みが終わるまでみきぷるーんに永遠みつめられそうだ。
そこで私はこんなことを言ってみることにする。
「みきぷるーんってさ、清原果耶にちょっと似てるよね」
「ええっ!? いや、わたしあんなに可愛くないよ。ぜんぜん似てないって~」
とかいいながらみきぷるーんはけっこう嬉しそうだ。
清原果耶とは朝ドラ「おかえりモネ」の主人公を演じた20代前半の若手女優で、正直みきぷるーんは清原果耶に似ても似つかない。けどみきぷるーんが嬉しそうなら何よりだ。ちなみに私が思うに、みきぷるーんは女芸人のヒコロヒーに似ている。本人には絶対に言えないけど。
「あっ! 分かった!」
そこでみきぷるーんが唐突に叫ぶ。その声があまりにも大きかったから、箸でつまんだミートボールを落としてしまった。
「小松奈々! なつみは小松奈々に似てるんだ!」
お、おう……。
やったらやりかえす……というところなのか、またなんともハードルが高いやつを出してきたものだ。小松奈々と言えば誰もが認める美人さん。そんな人と私が同系列に扱われるだけで、小松奈々に対して全く面識がないにも関わらずなんとなく申し訳ない気持ちになる。
「いや……私なんて小松奈々に全然似てないよう……」
そう口にして、ついさっきみきぷるーんが言ったのとほぼ同じセリフを言ってしまったことに気が付いた。自分がみきぷるーんレベルの反応しかできなかったことがちょっと悔しい。
「葉山が小松奈々に似てる? それはないわあ」
そこへ、私たちの会話を聞いていたらしい男子たちが突如乱入してきた。
「いくらなんでも小松奈々は盛り過ぎだろ」
「え~じゃあ誰に似てると思うの?」と、みきぷるーん。
「あれだよ、あいつ」と、男子A。
「おう、あいつだよな」と、男子B。
「あいつあいつ」と、男子C。
そこでなぜか一瞬だけ気まずい沈黙が流れた。
男子たちはお互いの顔を伺いながら「これって言っていいやつなんだっけ」と確認しあっているのが目の動きでなんとなくわかった。確実に失礼なやつが来るなと思いながら私が「あいつじゃわからないよ。言ってよ」と促すと、男子Cがなぜか半笑いの顔で言った。
「葉山ってさ、あいみょんに似てるよな」
みきぷるーんが「あ~」と言いながら何度も頷いた。
***
家に帰ってから鏡で自分の顔を見た。
もう数えきれないくらい見たであろう自分の顔。でもあまりにも当たり前すぎて、顔のパーツひとつひとつを注意してみたことってあまりない。鏡で確認して思ったことは、「私ってけっこう目が離れているんだな」ということだった。
今度は小松奈々とあいみょんをグーグルで検索して顔を比較してみる。するとなぜか「小松奈々 あいみょん 似ている」という予想検索が表示され、さらに二人の顔のパーツを比較したサイトなんかが出てきた。
小松奈々はやっぱりかわいい。かわいいともいえるし、美人ともいえるし、そしてなによりミステリアスで艶っぽい雰囲気がある。それに対してあいみょんは……「うーん……」って感じだ。めちゃくちゃブスというわけではないけれど、美人かと言われれば間違いなくNOだ。そして二人に共通していえるのは「目がちょっと離れている」ということだ。
私が閲覧したサイトによると、小松奈々とあいみょんの顔は「爬虫類系」に分類されるらしい。めちゃくちゃ失礼なカテゴライズだけど、なるほどあと感心させられる。そんな私も小松奈々とあいみょんと同じく爬虫類系なのだ。同じ直線上にいるのに、小松奈々ではなくあいみょんのいるところまですべってしまったのが残念でならない。これもすべてわたしの目の離れ具合が小松奈々のそれよりも若干あいみょん側なのが原因に違いない。
私は鏡の自分に向かって、ふっ、と微笑んだ。小松奈々みたいに。でもなぜか鏡にうつる私は「マリーゴールド」のPVに出てくる微妙にブサイクなあいみょんなのだった。
***
翌日の昼休憩。
「なつみ……なにしてんの?」
「いや、目のストレッチ? 的な」
「あははは。なにそれ。変顔の練習かと思った」
左右の人差し指で目の端をぐいっと引っ張る。
みきぷるーんが言うように、今の私の顔はそうとうおかしなものに違いない。でもこうすることで、離れすぎてしまった目の位置を少しでも正常に戻したかった。
両手を離していったん休憩していると、みきぷるーんが私の顔をみつめながら満足そうに言った。
「やっぱりなつみはあいみょんに似てるよ」
今は、な。
そのうち小松奈々になってやるから待ってろよ。
葉山なつみの日常 sakusaku @sakusaku_3939_hayama
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