第8話 謎の奥義書【後編】

 国境沿いでライザールの侵攻が激化する中、王であるグスターヴも王宮を離れることが多くなった。慰問・激励……騎士達の士気向上のために王は各地を転々としていた。


 そんな中、同じく国境沿いにてライザールと戦っている狩猟民族がいた。【ティエンタ】と呼ばれるこの山岳地帯は足場が悪く、慣れぬ者には移動することすら困難な地帯だった。

 そのような場所にライザールは “地獄炉” と呼ばれる魔導具を設置し、レヴェナントと呼ばれる死兵を操り国境沿いを荒らしていた。ティエンタの民はそのレヴェナントを速やかに処理し、ティエンタを抜けて街にレヴェナントが行かないように警護に当たっていた。



 ティエンタの民は、元々は【天蓬国】からの流民であった。天蓬国はライザール同様に色々と悪さをする国なので評判はよくない。その為ティエンタの民の評判もよくはなかった。当の本人達は風評など気にせず王家に忠誠を誓ってくれているのだが、ティエンタの民の心を知る国王グスターヴは心を痛めていた。


 そこに王妃ツキナギが提案した。“多忙な陛下の代わりに私がティエンタへ慰問に行きましょう。ティエンタへの道は悪路ですが、幼少より山で鍛えられた私なら問題はありません“ と。

 重臣達が反対する中、王はその提案を受け入れた。王妃が行くなら名代としては十分すぎる。更に戦士としても優秀なツキナギが行けば、更に現場の士気は上がるかもしれないと考えてのことだった。


 ツキナギは舞い上がった。もしかしたら一戦交えれるかもしれない……そんな期待が身体中から漏れ出ていた。この時のツキナギの瞳は、金色に輝きまくっていたという。



 そして、ティエンタへの慰問の話に食いついた者がもう1人いた。エルヴァールの従者ラヴニールである。


 ラヴニールは先日【地天流 奥義書】という巻物を手に入れた。その稚拙な中身には地脈の力というものについて書かれており、ラヴニールはこの地脈の力に興味を持ち何度かその力を感じようと試みたのだが、残念ながら失敗に終わっていた。


 “街中では人工物が多すぎて地脈の力が弱いのかもしれない。更に舗装された道路を間に挟んでいては、余計に感じることはできない。“ と理論づけ、自然が豊かで地脈の力を感じ取れる場所を求めるようになった。


 従者として多忙なラヴニールは特権として休日を与えられてはいたが、数日間エルヴァールの元を離れることは本人が嫌がっていた。それ故遠出ができなかったのだが、このツキナギの慰問にエルヴァールと同行できれば従者としての役割を疎かにすることなく修行が出来ると考えたのだ。


 しかもティエンタは自然豊かな土地であり、尚且つ霊峰────いわゆるパワースポットとしても有名だった。地脈の力を感じる修行にはもってこいの場所だ。



 エルヴァールに事の仔細を説明し、快諾を得たラヴニールはすぐさまツキナギに懇願した。“遊びに行くんじゃないのよ?” と難色を示されたが、修行の為と告げるとあっさりと了承してくれた。


 まだ9歳の王子を紛争地帯の慰問に同行させるという暴挙に重臣達は反対した。だが、ツキナギに “私以上にエルヴァールを守れる自信があるものは申し出なさい。試してあげましょう” と諭され、反対意見を言うものはいなくなった。



 こうして無事同行を許された2人を含めたツキナギ一行は、貿易都市パラディオンを経由地としティエンタへと出発したのだった。

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