第7話 謎の奥義書【前編】
ライヴィア王国の王立書庫にて、1人の少女が口に手を添え館内を練り歩いていた。
(うーん、何かオウカが喜びそうな書物はないでしょうか)
心の中で王子であるエルヴァールの真名を呼びながら、その従者であるラヴニールは書物を物色していた。
(やはりエルキオンの書物でしょうか……色々な魔導具を載せた辞典なんか面白いかもしれませんね)
エルキオンの書物に狙いを定め、それらが並べられた一角へと歩き出す。普段なら気にも留めない書物の数々。だが、エルヴァールとの話のネタを求めるラヴニールは、背伸びをしながら一番上の棚にまで目を向ける。
(……あれはなんでしょうか?)
棚の一番上に四角の木箱が乗っかっているのが見える。小柄なラヴニールでは手が届かず、やむなく司書の女性に声をかけた。
「ソニアさん、すみません。エルキオンのコーナーにある木箱の中身はなんでしょうか?」
「あらラブちゃん。あの中には、本じゃなくて巻物とか本の形を成していないものを入れてるの。正直大したものは入ってないけど、気になる?」
「はい。よければ中を見てもいいでしょうか?」
「いいわよ。ちょっと待ってね?」
司書を務めるソニアという女性は常連であるラヴニールとは顔見知りで、品行方正なラヴニールに常々感心していた。そんなラヴニールの頼みに嫌な顔をするはずもなく、台座を手に件の木箱の元へと向かう。
台座に乗り難なくその木箱を下ろしたソニアが見守る中、ラヴニールが木箱の蓋をあけ中身を確認する。カビ臭い匂いが箱から湧き出し、色々な紙や皮が巻かれて入れられている。古いものが多いらしく、触ると崩れてしまいそうな物もあった。
「うわぁ、ボロボロになってるわね。まぁ元々古いものだし重要な書物でもないんだけどね」
「……これは」
そんな中、ラヴニールの目を引いたのは一つの巻物だった。他の巻物と違って目に見えて新しい。巻物を掴んでみるが決して崩れることはなく、しっかりとその存在を保っている。ラヴニールはその巻物の表紙に書かれた文字を読みあげた。
「地天流……奥義書……」
汚い字で書かれたその巻物に、ラヴニールはなぜか興味を惹かれた。巻物を紐解きその中身を確認する。その中には地天流の基本となる構えが構図と共に記されており、地脈の力の事などが要領を得ない文章で書かれていた。
(武術の指南書? とはいえ、あまりにも稚拙な……)
子供の落書きにも劣るその中身に目を通していくラヴニール。そして、文末に記された名前を口にする。
「ダイン・ブレイブハート……」
その名前には覚えがあった。以前読んだアリアス事典という【
(大地の英雄 ダイン────
「ラブちゃん、多分それは偽物よ」
ソニアが巻物の真偽に悩むラヴニールに言い放つ。
「ダイン・ブレイブハートは200年以上前に亡くなってる英雄よ? だとするなら、巻物が劣化する事なくそんなに新しいなんておかしいもの」
「確かに……そうですよね」
200年以上前に記された奥義書ならもっと劣化してないとおかしい。そう頭では理解しつつも、ラヴニールはこの稚拙な奥義書に心を惹かれていた。
「ソニアさん、この巻物……借りて行ってもいいですか?」
「え、いいけど……じゃあ一応著名だけしてくれる?」
貸出名簿に著名し、巻物を手に帰路へつくラヴニール。
ラヴニールはエルヴァールと共に剣の稽古に励むこともあった。だが、その度にしこりのようなものを心に感じていた。それは初めてエルヴァールと手合わせした時に感じたもの──── “私に剣は合わない” というものだった。
従者である以上、護衛としての任も全うしたいと常々考えており、自分の力を最大限に発揮できる何かを探していたのだ。
この奥義書はそんな自分に合った戦闘スタイルへ導いてくれるかもしれない。そんな希望を抱き、足早に王宮へと帰るラヴニール。
かくして────転々と流され続けた奥義書が200年の時を経て、1人の天才少女の手へと渡ったのであった。
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