第5.5話 【現代】気になる疑問

 水の都パラディオン────セントラルと呼ばれる建物の一室で、シンはラヴニールからオウガの過去についての話を聞いていた。



「これが私とオウガが出会った日の話です」

「そっか……」


 オウガが女性であることを秘密にしているため、ラヴニールはそれに関わる情報は話していない。だが、それにも関わらずシンの様子がおかしい事にラヴニールは気付いた。妙にソワソワしており、何かを口に出そうか悩んでいるようにも見える。



「シン、どうかしましたか?」

「えッ? い、いや……なんでもないんだ」


 明らかにおかしかった。“まだ動揺するような話はしていないはずですが……“ とラヴニールは困惑した。だが、このまま話の続きをするのもしこりが残りそうだ。そう思ったラヴニールは優しくシンに話しかけた。



「シン、何か気になることがあるのなら構わず聞いてくれていいのですよ?」

「……いいの?」


「はい、もちろんです」

「そっか……それじゃあ────」


 気を取り直しこほんと咳払いをするシン。そして────





「一緒に風呂に入って一緒に寝てたの?」

「…………」


 シンの質問に押し黙るラヴニール。オウガが女性であることは隠していたが、お風呂と就寝を共にしていたことは話していたのだ。



(……私としたことが。思い出を懐かしむあまり余計なことまで話してしまいました……)


 返答に困るラヴニールを見て、シンが慌てたように口を開く。



「ごめんごめん! 変な質問して。 恋人同士ならそれくらい普通だよな」

(……シンは私たちを恋人関係だと思ってるようですね。彼女を男だと偽るのならそれも良いかもしれません。しかし、嘘に嘘を積み重ねればいつか必ず綻びが生まれる……私たちの関係性については正直に話しておいた方が良いでしょう)


「シン。何か勘違いしているようですが、私たちは恋人関係ではありませんよ?」

「え、そうなの?」


「はい。私はオウガをかけがえのない友人だとは思っていますが、湯浴みやとこに関してもあくまで従者としての仕事ですし、なによりその時は2人とも子供でしたので────」

「はぇ〜、従者ってそんなことまでしなきゃいけないんだなぁ」


 感心したように頷くシンとは対照的にラヴニールは内心焦っていた。ラヴニールは都市長と言う仕事柄、弁が立ち交渉事が得意な女性ではあったが、嘘をつくのだけは苦手だった。このまま従者の仕事について追求されると必ずどこかでボロが出てしまう。それを危惧したラヴニールは、自分の額に鎮座するディアに助けを求めた。



(ディア、話を逸らして下さい……このままでは……)

⦅私がか? ……仕方あるまい⦆


 主人と使い魔の間で可能な念話でコソコソと話す2人。そしてディアの身体である赤い宝石がキラリと輝いた。



『シン、オウガは男ではあるがあの通り美形だ。そんなオウガの裸体を想像し劣情を催すのは繁殖を根幹に持つ生物としては間違っているがそのような趣味嗜好が存在しているということも私は知っている。私としても正直付き合いたくはないのだがお前がどうしてもその時の話を深掘りしたいと言うのなら引いているラヴニールに代わって私がその時のオウガの様子をラヴニールの魂を解析し鮮明な記憶の情報を────』

「話の続きをしようじゃあないかッ!!!!」



 ディアの発言を遮るように食い気味に叫ぶシン。



(ディア、助かりました。今はあなたのその無神経な言葉に感謝しましょう)

⦅感謝するのなら次からは折檻を優しくしてくれ⦆

(……改める気はないのですか?)



 ────何はともあれ、シンに話す内容には気をつけようと誓うラヴニールであった。

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