登場人物紹介 3人の執行者(更新版)

【グラス】


身長:172cm

年齢:???

性別:女

出身地:軍事国家ライザール 

共鳴魔力:クリスタルウィスプ(万能)

 

備考:A・Sオールシフター神域者ディビノス/ヴィクター/魂の盟約(オウガ)


 

 地獄に堕ちた女神セルミアを現世に降臨させるための儀式──ディセント計画の最初の被験者。儀式の直前、セルミアの狂気に侵された教団の者によって性的暴行を受けた為に儀式は失敗。純潔の肉体を求めるセルミアによって拒絶された。

 怪物を身に宿しながらも生還したグラスではあったが、魂を著しく損傷しており記憶の欠如と精神の変質が起きてしまった。美しい女性であるグラスだが、ヴィクターとなったグラスの真の姿は別にある。またグラスという名前も仮称であり、本名は記憶と共に失われている。



 【クリスタルウィスプ】と呼ばれる魔石を構成する魔力物質を共鳴魔力に持っている。操作・生成・吸収ができる万能状態であり、魔晶石を自ら作り出すことができる。その魔晶石に自らの魔力を貯めることができ、多くの魔晶石を温存するグラスの魔力量は実質無限である。


 ヴィクターとなり幽世に繋がりを持つグラスは、空間跳躍エーテルダイブを得意としている。道標として魔晶石を配置しておくことで、多人数での跳躍も軽々とこなす。ゲヘナ城塞においてシンたちを転移させたのはこの力である。



 アラテアとルジーラとの初邂逅の際、同調を得られなかった場合は二人を始末するつもりだったグラスは、すでに儀式の間に魔晶石を配置していた。グラスは搦手を得意としており、グラスが姿を現す時は既に仕込みが済んでいる時である。


 戦いとなった場合は二人を特殊な空間へと転移させるつもりであった。その空間はグラスの魔晶石によって構築された空間であり、いわばグラスの魔力で満たされた処刑場である。相手の魔力を相殺する “反魔力アンチマジック” を得意とするグラスの空間では、敵対者の全ての魔力行使が不可能となる。

 グラスはディセント計画の副産物である多くの妖魔を従えており、しかもグラスの魔力による超強化バフが施されている。魔力が使えない状態で大量の妖魔とグラス(魔力無限状態)を相手にしなければならず、空間に跳ばされた者の生存は絶望的である。


 ただし、グラスにとって誤算だったのはルジーラの存在であった。レガリアに目覚めたばかりとはいえ、同じA・Sであるルジーラは相手の魔力を捕食する術に長けており、グラスの反魔力がルジーラに通用したのかは不明。また多くの妖魔もルジーラにとっては餌になる可能性があり、更に同じくA・Sであるアラテアの加勢もあれば、恐らく勝敗は五分五分……どちらが勝ってもおかしくない状況だった。

 

 それがアラテアの機転により戦わずに済んだということは、まさにエデンスフィアの歴史の明暗を分かつ重要な分岐点であった。

 事実、もしアラテアとルジーラがこの時戦いに敗れていれば、現代はもっと混迷を極めていた。(*アラテアとルジーラの項目で言及)

 

 逆にグラスが敗れていれば、既にディセント計画は成功し、邪神セルミアが降臨していたことだろう。それは、執行者であるグラスが敢えてディセント計画を失敗に導いているからである。

 グラスはディセント計画を行うことで、アラテアたちの様な生き残りを執行者の仲間に引き入れている。そして殉教者の肉体によって蘇った妖魔を使い魔として使役している。

 女神セルミアも抹殺対象としているグラスがディセント計画を成功させる時────それは、セルミアを滅ぼす算段がついた時である。

 

 

 グラスは自身が被験者となったディセント計画によって大切な何かを失ってしまったが、それが何なのかを思い出すことはできない。グラスはただただ心の奥底に残った想いを頼りに、力を求めて暗躍し続けている。


 力を手に入れなければ……もっと強く握れる力を手に入れなければ────僅かに残った大切なものが手から零れ落ちてしまうという正体不明の焦燥感がグラスを常に苦しめている。だがその感情を表に出すことはなく、グラスはまるで機械のように淡々と目的に向かって行動している。その過程で生じる犠牲にグラスの心が動くことはない。


 グラスの言葉に一切の嘘はない。テクノスの討滅を条件にオウガと魂の盟約を交わしたグラスは、間違いなく自分の命を賭してオウガを助けるだろう。幽世を管理する神テクノス、セルミア、メルキオールの三柱を排する為に────




 

 グラスの目的はただ一つ────幽世と現世を一体とし、地獄で苦しむ全ての魂を解放することである。


 

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【アラテア・ルミナリス】


身長:170cm

年齢:242歳(肉体年齢24歳)

性別:女

出身地:ソレイシア公国 

共鳴魔力:慈愛の精神(万能)

 

備考:A・Sオールシフター神域者ディビノス/ヴィクター/異名持ちノムトール/加護(癒しの神アウラント)

異名:糸紡ぎの聖女アラテア


 

 婚約者であったダインと家族同然の存在であったシンの死を知り一時期は喪失状態となっていた。だがレヴェナントの襲来によって多くの怪我人が出ていること、そして子供を身籠っていることを知り治癒士として立ち直る。


 皇都エルドランをレヴェナントに襲わせたのはサンディスの陰謀であったが、サンディスが行動不能となったことで今まで制御していたレヴェナントが更なる暴走を始めた。応戦する騎士たちから多くの怪我人が続出し、焼け落ちた皇都エルドランは怪我人で埋め尽くされた。

 人々はそれを邪龍の報復と考え、サンディスの陰謀を知らぬアラテアもまたそう考えた。身重の体にも関わらず、アラテアは寝る間も惜しんで怪我人を治癒し続けた。だがこの身を削る治癒行為こそが、慈愛の精神を共鳴魔力に持つアラテアの治癒士としての力量と名声を更なる高みへと押し上げていく。


 月日は流れ、未だ収束せぬレヴェナントの暴走の中アラテアは一人の女の子を出産した。食料の乏しい皇都エルドランでは赤子を育てる余裕などなく、ましてや治癒士として多忙を極めるアラテアでは更に困難だった。だがルジーラを始めとした修道院の子供たちの助けもあり、母親と治癒士をギリギリのラインで両立させていく。


 しかし皇都エルドランにて疫病が蔓延するという更なる悲劇が起こる。その結果アラテアの多忙さは苛烈を極め、もはや過労死寸前であった。この時、みなが心穏やかに過ごせていればアラテアも耐えることができたであろう。だが、この疫病すら邪龍の呪いだと考えた住民たちは怨嗟の言葉を吐きながら死んでいった。それによりアラテアの力の源でもある “慈愛の精神” が失われていったのだ。更なる死を迎えた皇都エルドランは、やがて【忘都エルドラン】と呼ばれることになる。



 忘都エルドランの復興を諦めたアズール騎士団第一大隊長 “レオニード” の指揮によって、【城塞都市バラノス】への移転が始まる。無論アラテアも軍属の治癒士として従事するよう頼まれたが、アラテアはこれを拒否した。一人でも復興を諦めない者がエルドランに存在する限り、そして自分の治癒を待つものがいる限りエルドランを離れるつもりはなかったのだ。


 だがここで一つの提案がアラテアにもたらされる。その提案とは、『物資の乏しいエルドランでこれ以上赤子を育てるのは不可能。城塞都市バラノスは物資も豊富でセルミア教の修道院も存在している。ここを離れられないアラテア殿の意思は尊重するが、バラノスへ赤子だけでも預けてはどうだろうか?』 というものだった。

 その提案をしたのはアズール騎士団第三大隊長 “ギアロス” だった。かねてより密かに想いを寄せていたアラテアの身を案じてのことだった。


 ダインとの子を見知らぬ誰かの養子に出すということにアラテアは苦悩した。だが、薄汚れた布に包まれた我が子を見て決断に至る。赤子をギアロスに託し、同じく移転を拒否した修道院の子供たちとエルドランに残る事となった。

 二度と母を名乗らないという戒めを自分に課す非業の決断ではあったが、この時の決断によって赤子は無事成長していき子孫を残していく。そしてその末裔こそが、ノヴァリス四姉妹の次女 “ルリニア” である。



 そして更に月日は流れ、アラテアはセルミアの器として選ばれた。儀式によって修道院の子供たちはルジーラを除く全員が死亡し、自身も怪物を宿す身となった。だが現状を把握しグラスに同調したことで戦いは避けられ、アラテアは戦う決意と共に生まれ変わった。

 記憶の欠如や精神の変質を起こしてはいないが、その表情はどこか影を落としている。


 現代において、治癒士が使う “治癒魔法“ と呼ばれる術式は全てアラテアが構築したものである。【ラ・アウラント】と呼ばれる集団治癒魔法は地脈の力を通して多人数を治癒する術式で、それは亡きダインの “地天流” を模倣したもの。

 治癒士の少女フラウエルは、この【ラ・アウラント】でリリシアの毒に侵された二千人近くの仲間を一気に解毒するという離れ技を披露したが、これは全員が単一の毒に侵されていたという状況だからできた事である。


 もしこれがアラテアならば、二千人全てが別々の症状だったとしても治癒が可能。それほどまでにアラテアの治癒士としての技量はずば抜けており、生きながらにして伝説の治癒士と呼ばれる所以である。

 魔力量ではフラウエルに分があるかもしれないが、200年以上もの時を治癒士として研鑽を積んできたアラテアの技量に比肩し得る治癒士は存在しない。


 しかし緊急事態でもなければアラテアは【ラ・アウラント】を使おうとはしない。医師と共にできる限り患者一人一人と向き合い、話し合い、心の安寧を得てから治癒に臨むことを信条としている。それこそが患者にとって肉体のみならず、魂の治癒に繋がると確信しているからだ。その高潔な精神は、フラウエルを始めとした治癒士たちに受け継がれている。


 その治癒士の名声と共に、アラテアは多くのセルミア教信者から信仰心を獲得している。もはやほとんどの信者がセルミアではなくアラテアを崇拝している。そしてその結果、セルミアによる狂気の伝播が停滞しているのである。

 もしアラテアがいなければセルミアの狂気は末端の信者にまで伝播し、世界は狂気に満たされていたであろう。もっとも、それこそがグラスの狙いの一つではあったが。これによりセルミアは大きく力を減少させることになる。



 多くの悲劇を受け、戦う決意をしたアラテア。治癒士として……聖女として活動する一方で、アラテアは獲得した異能の力で悪を断罪している。壊れてしまった魂を救うにはそれしかないのだと自分に言い聞かせながら────。

 ヴィクターとなったアラテアは魔力糸を操る能力と共に、空間跳躍エーテルダイブを獲得した。その二つを組み合わせることで、瞬時に魔力糸を空間に張り巡らせることができる。

 アラテアの魔力糸の硬度は凄まじく、大岩であろうと切断できる斬光線である。治癒においては絹のように柔らかな糸であるが、攻撃においては恐るべきものとなる。


 

 慈愛の精神こそがアラテアの力。慈愛を教義とするセルミア教の信仰心がアラテアに集まっていることで、アラテアは神に匹敵する力を……いや、既に神を超える力を手に入れた────





 アラテアの目的はただ一つ────ダインとシンの仇である邪龍を完全に滅ぼすことである。


 

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【ルジーラ】


身長:146cm(レガリア装着時:180cm以上)

年齢:232歳(肉体年齢14歳)

性別:女

出身地:エリュイ 

共鳴魔力:負の感情・孤独感(吸収)

 

備考:A・Sオールシフター玉璽保持者レガリアホルダー神域者ディビノス異名持ちノムトール/加護(豊穣の女神ルクシュリア)

レガリア名:焔冥のレガリア ブレイズ・ソウル

異名:死の翠星ルジーラ


 

 エリュイと呼ばれる大自然豊かな国で生まれたルジーラは、弱肉強食という理念の元に退屈な日々を送っていた。というのもルジーラはA・Sとして生を受け、生まれ付き強大な力を有していた。菜食主義者であるルジーラは敢えて動物を狩ろうとは思わず、そして強大なルジーラに襲いかかる動物も皆無であった。ちなみにルジーラは果物好きである。

 

 “白黒つける“ ────生来より、勝者と敗者を決める戦いを好むルジーラであったが、戦う相手がいないという上記の理由でストレスは溜まる一方だった。部族間の争いは多少あったものの、それでもルジーラからすれば大したものではなかった。そんな日常に我慢できなくなったルジーラは、エリュイで採れる魔石の輸送船に単身で密航し国を出た。



 辿り着いた先は【ライザール皇国】。衛兵などの追手を振り切り、自由気ままに過ごしていたところをアラテアと出会う。初めて感じた自分と同じ魂の波長。同じA・Sとしてのシンパシーを感じると同時に、アラテアの持つ魔力の強大さに惹かれることになる。


 アラテアと戦うことを希望するルジーラであったが、アラテアは “力は人を助けるために使うのよ“ とルジーラに優しく諭していく。自分より遥かに強い力を持ったアラテアの言葉にルジーラは耳を傾けた。そしてルジーラはオーラント修道院の一員となったのである。



 修道院での生活は貧しかったが平和そのものだった。たまに子供同士の喧嘩が起きるくらいで、戦いと呼べるものは何一つなかった。だが、それでもルジーラは満足していた。

 年長者(この時点で11歳)として小さな子のおしめを交換し、泣く子をあやし、オルガンを練習して遊戯曲も弾けるようになった。アラテアの代わりに洗濯もこなし、料理を作ることもあった。 “肉が入ってない!” と文句を言う男の子には鉄拳制裁を喰らわせ、食のありがたみを説いた。


 

『これもまた戦いなのかな』──── 目まぐるしく過ぎていく日常にそう感じたルジーラは、修道院の頼れるお姉さんとして日常を懸命に戦っていくことになる。


 それはエルドラン陥落後も変わることはなかった。ダインとシンを亡くし失意に沈むアラテアに代わり、ルジーラは子供たちを守り続けた。延々と発生し続けるレヴェナントを近づけさせまいと、単身で戦いに赴くこともあった。だがこの行動こそが、ルジーラの内で眠っていた凶暴性を徐々に覚醒させるきっかけとなってしまう。



 そして運命の日────ディセント計画によって殉教者(生贄)に選ばれたルジーラは、攫いに来た教団の者を返り討ちにした。だが年端もいかぬ子供たちを人質にされ、子供たちの助命を条件に自分の身を差し出した。


 舌を切り落とされ、両眼をくり抜かれ、全身の皮を剥がされた。儀式の間──究極の痛みを与えられたルジーラが闇の中で耳にしたのは、聞き覚えのある呻き声たちであった。助命の約束は守られなかったのだ。


 儀式によって地獄に堕とされたルジーラの肉体には多くの妖魔が群がり始めた。全ての魔力に適合するA・Sの肉体は、妖魔からすれば【極上の復活剤】である。肉体を求める妖魔の中には、旧世界の神話に名を連ねる怪物たちの姿もあった。それらが一斉にルジーラの肉体に群がり、下卑た言葉を投げかけ肉体を奪おうとする。


 ────だがルジーラは屈しなかった。無限とも思える程に溢れ出る “殺意” を我が物としレガリアを発現させ、群がる妖魔を一匹残らず引き裂き、その魂をレガリアに喰わせた。そして同じく妖魔に群がられていたアラテアを救出し、現世に舞い戻った。



 ルジーラは子供たちを愛していた。だが、死んでしまった子供たちに対して何の感情も湧いてこなかった。悲しい、寂しい、悔しい、仇を討ってあげる……愛するものが死んでしまったら発生するであろう感情がまるで湧いてこなかったのである。ルジーラがアラテアに激怒したのも、子供たちが死んだことにではなく、この期に及んで戦おうとしないアラテアに憤ったからである。


 グラスに図星を突かれたルジーラは静かに怒りを滲ませた。だが、それと同時に狼狽えてもいた。


 

『そんなはずはない。ウチはあの子たちを愛していた……ウチはそんな人非人じゃない』



 弱肉強食を基本理念とするルジーラには、弱さゆえに死んでしまった者たちに同情することができなかったのである。だがそんな自分を否定するように、ルジーラは【戦わずに死んでしまったあの子たちに戦いを見せてあげる】という名目で戦いに身を投じていく。


 200年以上にも及ぶ殺戮の歴史────戦いの中で、遂にルジーラは言い訳をやめた。


『自分は情愛など一切持たない外道。いや、それ以下……戦いだけを好み、人が死ぬのを見て愉悦に浸る悪魔』



 【孤独感】という負の感情を共鳴魔力に持つルジーラ。それは、孤独であればあるほど強くなるという性質を持っている。言い訳をやめ、子供たちへの想いも断ち切った。唯一心を許しているアラテアも、今は自分の戦いを始めている。


 孤高の戦士となったルジーラはまさに最強の玉璽保持者となった。もはや子供たちの仇であるグラスやテクノス、セルミアのことは眼中になく、自分と同じ人間こそが戦う相手と定め、世界中のあらゆる戦いに介入し圧倒的暴力を見せつけた。


 ロヴァニア帝国のゴーレム軍団を壊滅させ、天蓬国で争っていた二つの国を滅亡させた。50年周期で行われる、パラメル連合国の王位争奪戦に選ばれた24人の玉璽保持者────その玉璽保持者全員をたった一人で皆殺しにしたこともあった。(もっとも、パラメル連合国の玉璽保持者は二柱の神と魂の盟約を結んでいるため、参加者以外に殺されても復活するので全員無事ではある)



 人類にとっては巨悪そのものであるルジーラ。だが、星の営みという観点からすればルジーラは決して悪ではない。



 ルジーラが殺してきた戦士の中には、世界の転覆を目論む破滅願望者なども多数存在していた。本人にその気はないが、実は何度か世界を救っている。

 そしてルジーラの最も大きな功績は、戦争によって増大する人間の負の感情を自身のレガリアに取り込み、翠炎として昇華させていることにある。本来ならば負の感情を抱いたまま死んだ魂は星に還らず、星の内部に澱みとなって溜まり続ける。だが世界中で起こっている戦争に介入し、負の魂を喰らってきたルジーラによって澱みは最小限で済んでいる。


 星の守護者であるタツが、ゲヘナ城塞攻略戦においてルジーラを悪人には見えないと評したのはこの為である。A・Sとは────星が新たに生み出した浄化装置なのかもしれない。

 

 なお、ルジーラはこの時すでにシンが生きていたことに気付いている。しかしルジーラはその事をアラテアに言うつもりは無い。シンが生きていることを告げれば、アラテアは必ず全てを捨ててシンの元へ行くだろう。だが、アラテアが戦いを捨てる事はルジーラの望むところではなく、アラテアの戦いに水を差すことになる。故にルジーラはシンのことには関与しない。





 神以上の力を手にしたルジーラと戦える者は存在しない。再びやってきた退屈な日々────そしてルジーラは遂に出逢った。自分と同じく負の感情を共鳴魔力とし、戦いを至上の喜びとしながらも仲間の為とうそぶき、多くの魂をレガリアに喰わせる悪鬼に。


 強大な力を持ち、かつての自分のように振る舞うその悪鬼にルジーラは恋をした。


 

『彼ならウチを理解してくれる』


 

 孤独で強くなるルジーラではあったが、心の底から孤独を好んでいるわけではなかった。ルジーラは常に戦いの中で自分を理解してくれる者を探していたのだ。断ち切ったはずの子供たちへの感情────その感情が本物であったのかを教えてくれる者を。



 ウチの力の源はなんだろう? あの感情は本当に偽物だったの? 断ち切ったつもりで本当はずっと抱えていたのだろうか? 彼はどうなのだろう? 彼はウチと同類のはず……でも仲間のためにどんどん強くなっていく。彼の仲間への感情は本物なのだろうか? それだけで多くの人間の魂を喰らう苦痛に耐えれるの? ならウチと彼……断ち切ったはずのウチと嘯く彼……正しいのはどっちなんだろう?


 そんな疑問がルジーラの心を埋め尽くしていく。





 白黒つけなければならない────難しい事はない。戦って勝った方が本物なのだ。ウチが勝てば、やはり自分の情愛は偽物。でも彼が勝てば……



 ルジーラにはもはや敵はいない。だが、その悪鬼との戦いを邪魔するものこそが敵。悪鬼との戦いを邪魔すれば彼女の逆鱗に触れ、瞬く間に灰と化すであろう。そしてルジーラは邪魔者を排除し、まるでお見合いをするかのように悪鬼と刃を交える。

 

 今までの戦いも、悪鬼との小競り合いも……来るべき本番に向けた前戯に過ぎない────





 ルジーラの目的はただ一つ────【鬼神おにがみ カザン】との完全な決着である。

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