終章 再び追憶の旅へ
話が終わり、俺たちが案内された部屋は中々に豪華なものだった。まるで一流ホテルのようなこの部屋は他国からの来賓客用の部屋だという。どうやらフラウエルも同じ来賓客用の部屋に泊まってるみたいだが、今はルリニアさんの家に行ってるらしい。
タツはフラウエルたちにも思い出したことを話しておきたいと言って、ルリニアさんの家に行ってしまった。タツに"どうする?" と聞かれたのだが、俺は俺で用事があるため一緒には行かなかった。
とはいえ……今日中にラヴィに修行のことを話そうと思っていたんだが、正直そんな気分ではなくなってしまった。今はベッドに腰掛けながらあることに考えを巡らしていた。
あること────それはもちろんオウガの事だ。あいつは元凶であるテクノスを倒すために、一人で貧乏くじを引こうとしている。もちろんその考えに至るまでには色々な葛藤があったのだろう。
でも、悲しみに満ちたラヴィの顔を俺は見てしまった。オウガの決めた事だから仕方なく従っている……そう感じてしまった。
新参者の俺がでしゃばることじゃないのだろう。俺にはオウガがどうやって生きてきたのかも知らないのだから。でも……見て見ぬふりをできる性分でもないんだ。俺になにかできることはないだろうか……オウガが一人で死なずに済む方法はないだろうか────そんなことを悶々と考えていると、扉がコンコンとノックされた。
「は、はい!」
「私です、ラヴニールです。突然申し訳ありません……少しよろしいですか?」
突然の訪問客に驚いた声を上げてしまった俺に、ラヴィが申し訳なさそうな声で謝ってくる。慌てて扉を開けると、やはりそこには申し訳なさそうな顔をしたラヴィが立っていた。額には赤い宝石に変化したディアが飾られている。
「ごめんなさい……どうしてもシンに言っておきたい事がありまして……」
「え、いやいやいいんだよ! ささ、むさ苦しいところですがどうぞ!」
「あ……少し狭かったですか?」
「え!? あッ、いやそうじゃなくて! なんでもないナンデモナイ!!」
緊張して変なことを口走ってしまった。自室に女子が来るということ自体が俺にとっては異常事態なんだよ。
「いやごめんごめん。豪華な部屋だったから妙に舞い上がっちまってな。俺には勿体無い部屋だよ」
「そうですか。それならよかったです」
お互い向かい合うようにソファーに腰掛ける。ラヴィの手には細長い木箱が握られているのだが、話とやらに関係があるのだろうか?
「シン。話というのはオウガのことです」
「……」
今までオウガのことで悩んでいたのを見透かされたような気分になって、身体がびくりとしてしまい鼓動が早くなった。だが幸いというべきか、ラヴィは目を閉じている。意を決する為なのか、言うのも辛いことなのか────
「……オウガの言ったことに嘘はありません。オウガが助かる道は……もうないのです」
「ほ、本当にそうなのか? なにか方法はないのか?」
あれだけのメンバーが揃っているんだ……なにか方法があるかもしれない。そう思い口にした疑問に、ディアが答えてくれた。
『オウガの受けた呪いは負の感情によって死に至る原初の呪い……その呪いを更に強化したものだ。呪いはオウガの魂と完全に癒着し、オウガの成長と共に強大になっていく。今のオウガの魂はテクノスと繋がる地獄炉のようなもので、オウガの魂は常に地獄の狂気に晒されている。狂気による変性は母であるツキナギのレガリアが食い止めているが、いつまでも食い止められるものではない。呪いを解く方法はテクノスを倒すか、オウガが死ぬしかない』
「そ……んな……」
それじゃあ結局振り出しに戻るしかない……他になにかないのかよ!?
『万物を司る星の守護者ならオウガの魂から呪いを取り除く事ができたかもしれない。だが、力の大半を失っていたお前たちではそれは不可能だ。僅かな希望ではあったが、それも夢と消えてしまった』
「あ……」
そうか……だから俺たちを仲間にしようとしてたのか。カザンは当初俺たちを殺す気だったようだが、それは星の守護者の力を自分のものにする為だった。俺たちを敵とし、自分の共鳴魔力である怒りを減少させる事なく守護者の力を手に入れる……きっとそれがオウガの為になると思っていたんだろう。
だが、俺たちが力を失っているせいでその希望も無くなってしまったってワケか────
────ピシッ
目を伏せる俺に聞こえてきたのは、何かに亀裂が走るような音だった。顔を上げるとラヴィがディアを指でつまみ上げており、真紅に輝く宝石の体には頭から尻にかけて真っ二つに亀裂が入っていた。
『ラヴニール! 死ぬッ……死んでしまう!!』
「次は粉々にしますよ」
慌てふためくディアに冷めた目を向けるラヴィ。宝石だから硬そうに見えるけど、実は脆いのだろうか?
亀裂が入って心配だったが、程なくしてその亀裂は跡形もなく修復されていった。
「シン、ディアの言うことは気にしないでください。オウガはあなたたちの助力には本当に感謝しているのです。もちろん私もです」
「いや、いいんだ。ディアの言うことも分かるんだ。もしタツが力を取り戻せば……オウガの呪いも解くことができるかもしれない」
────そうだ。とするならば、俺たちが優先すべきは力を取り戻すことだ。サンディスを倒して守護者の力を取り戻す……これを第一に考えるべきなんだ!
「俺たちはすぐにライザールに行くよ。さっさとサンディスを倒して力を取り戻す……そうすればオウガの呪いも────」
『言ったはずだシン。テクノスがいる以上ライザールに侵入するのは不可能だ。行けばライザールの全ての戦力がお前に向けられるだろう。お前の慕うアラテアとルジーラが向かってくる可能性もある。話に聞いた五人の大隊長も、
「ぐッ……じゃあオウガも俺たちと一緒に行けばいいじゃないか! 戦えない相手なら逃げて逃げてッ……サンディスをやっちまえば問題ないだろ!?」
『それができないからラヴニールも悩んでいるのだ。オウガは既に自分が生き残ることを諦めている。自分のために仲間が苦しむ選択をオウガは決してしない。だからこそオウガは、お前たちのためにテクノスを先に倒すと宣言したのだ。たった一人でな』
……せっかく解決の糸口が見つかりそうだったのに、なんの意味もなかった。結局、オウガが意思を変えてくれなきゃどうしようもないってことか。
「シン……本当にありがとうございます。オウガのために苦難の道を選ぼうとしてくれるあなたには感謝しかありません。あなたは────本当に優しい人ですね」
「え……」
「シン。あなたも察しているように私たちはオウガの決定に従ってはいますが、決して納得はしていません。私もカザンも、ガウロンも……最後までオウガの隣で戦いたいと思っています。……ですが、オウガの言うことは全て正論。外敵などの私たちを取り巻く環境を考えるならば……オウガの言うことが正論なのです。オウガがテクノスを倒しその後に備える……それが一番なのです……でも私はッ────」
目を伏せ言葉に詰まるラヴィ。冷静な姿しか見たことのなかった彼女がこんなに感情を顕にするなんて……
「あなたの置かれた現状を考えるなら、人に構ってる余裕などないと思います。でも……それでも無理を承知でお願いしたいのです。オウガを……説得してもらえませんか?」
「俺がオウガを?」
「オウガとあなたは似ています。自分の死を悟りタツの為に戦ったあなたの言葉なら……タツの想いによって蘇る事ができたあなたの言葉なら────オウガも耳を傾けてくれると思うのです」
「……」
「私たちではもう……オウガの心を変えることはできない。あなたにとっては迷惑な話です……でも私にはもう……縋ることしかできないのです……どうかお願いします────」
頭を深々と下げるラヴィ。やっぱりラヴィとオウガは、ただの王子と従者の間柄ではない。きっと恋人関係なのだろう。好きな人が死んでいく姿なんて見たいはずがない。
俺はタツの為に死ぬつもりだった。でも、タツからすればそれがどれだけ悲しいことなのかを思い知った。だから俺は、俺のために死のうとするタツの手を絶対に離さなかったんだ。
俺には愛する人の為に死のうとするオウガの気持ちも分かるが、ラヴィの気持ちも痛いほど分かる。愛する人に置いていかれる位なら、一緒に地獄でもどこへでも行きたいと願う気持ちが……。
────なら、俺の答えは決まっている。
「ラヴィ、頭を上げてくれ。俺にどこまでのことができるか分からないけど……やってみるよ」
「────ッ……あ、ありがとうございます」
最善の方法は分からない。でも、まずはオウガに一人で死ぬのをやめさせるのが先決だ。オウガを説得し、みんなでハッピーエンドを迎えるんだ。
そしてその為には知らなくてはならない。オウガが呪いを受けた経緯を、仲間との出会いを……今の考えに至った原因を────
「ラヴィ、教えて欲しい。オウガに昔何があったのかを────」
「わかりました。少し長くなりますが、王子として生まれたオウガが今日に至った経緯を……全てお話しします」
───────────────────
これにて間章完結となります。……と言いながら、あと二話分だけ投稿する予定です。
一つは登場人物紹介の更新版、そしてもう一つはあるキャラクターの結末についての話となります。
その二話を投稿した後、第四章である『オウガ追憶編』を開始します。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます! 引き続きお付き合いしていただければ嬉しいです!
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