第10話 パジャマパーティー【中編】
猫パジャマを着たことでパジャマパーティーへの資格を得たタツこと僕。迂闊にも命の危機に瀕したけど、思い出したことをここにいるメンバーに話すことにした。
「────斯々然々と、そういうわけなんだ」
「……あんた、カクカクシカジカで済ませられる内容じゃないわよ」
「そうだよ……そんな酷い目に遭ってたなんて────」
「でもシンのおかげでまた一緒にいられるし、僕は現状に満足してるんだ」
「うぅ゛……よがっだねぇダヅゥ……」
「……ぐすッ……………」
……な……なんかお通夜みたいな雰囲気になってるんだけど。自分なりにソフトに話したつもりだったんだけどなぁ。皆が悲しみに暮れる中、オルメンタさんだけは腕を組み申し訳なさそうな顔をしている。
「オルメンタさんは、僕が星の守護者ってこと知ってたんだよね?」
「……うん。星の守護者を仲間にするっていうのは、オウガ様とラヴニール様の当初からの作戦だったからね。でも────」
目を伏せ言葉を濁すオルメンタさん。多分オルメンタさんが気にしてるのは────
「カザンのことを気にしてるの? カザンのことならシンと三人で話はついてるんだ。結果的にはカザンに助けられたし、気にしなくて大丈夫だよ!」
星の守護者を仲間にするのが、天津国にやってきたカザンたちの目的だった。
でも、カザンは僕たちを殺しにきてたんだ。それはオウガの命令とは反するカザンの独断。カザンにはカザンなりの考えがあったみたいだけど、戦いの中でその考えを改めてくれた。どうもオルメンタさんは、カザンの考えに気付いていたみたいだね。
「すまない……カザンの考えには気付いていたんだけど、私には止めることができなかった。あいつは “怒り” を共鳴魔力に持っている。常に誰かを敵視して生きてきたんだけど、その最たるものが “星の守護者” だったんだ。残酷な運命を操るヤツがいるんなら、必ず俺が……ってね」
「うん、カザンから聞いてるよ。星の守護者に関してはライザールもそうだけど、間違った情報が蔓延ってるからね。ちなみに僕には運命を司る力なんてないからね?」
「じゃあ何ができるのよ?」
リリィが紅茶を飲みながら聞いてくる。素っ気ない感じだけど、そこはかとなく目が輝いてるように見える。もしかして星の守護者の力に興味があるのかな?
「えーと、ほとんど力を失っちゃってるから少ないけど……火を吹いたり魂の色を視たりできるよ。一応空も飛べるけど、龍の姿になるのは無理だね。魔力源さえ確保できたら
「魂の色を視れるんだ? あ、そういえばゲヘナでも陣地で色々視てたもんね」
隣に座っているフラウが、微笑みながら僕の目を覗き込んでくる。
「うん。フラウの魂ってものすごく綺麗な色なんだよ。
「え……えッ……そ、そうなの? なんか照れちゃうな────」
モジモジと顔を真っ赤にするフラウ。うーん、なんて綺麗な魂なんだろう。
「ちょっと! あたしもA・Sなんだけど!?」
「え!? も、もちろんリリィの魂も綺麗だよ!」
嘘でもお世辞でもなく、リリィの魂も見惚れるほどに綺麗だ。ただ、何を間違えたのかリリィは怒っている。い、一体なぜ……。
「そういえばタツはよくここが分かったね? その魂を視る力で分かったの?」
「う、うん。見知った魂のある家に来たんだ。この街全体くらいなら視ることができるからね。ふっふっふ、どこに隠れようとも見つけ出せるよ」
フルティナの質問に自信満々に答えた僕だったが、女性陣の空気が変わったのに気付いた。
「……あんたねぇ。いけしゃあしゃあと言ってるけど、あんたがやってるのは “覗き” よ」
「え゛ッ!?」
の、ノゾキ!? そんな馬鹿な!! 僕はそんなつもりじゃ────
「そ、そんな大袈裟なことじゃあ────」
「いや、フラウ。これは深刻な問題だ。初犯なら罰金程度で済む話だが、タツの場合は街全体の人間を覗き視たと自白した。このパラディオンでは犯した罪の数によって刑罰が加算されていく。数万人規模の覗き行為ともなれば、最悪 “死刑” もあるかもな」
「し、死刑!?」
ニヤリと笑いながら僕に死刑を仄めかすオルメンタさん。
ぼ、僕はなんてことをしてしまったんだ!! 今度からはバレないように気をつけないと────
「タツ……せっかく目覚めたのに死刑だなんて……お気の毒に……」
「ティナ、悪ノリしちゃダメですよ。みんな、
「何言ってんのよルリニア。こういうのは最初が肝心なのよ。しっかり釘を刺しておかないとまた覗くわよ、こいつ」
「ぎくッ! うぅ、お許しを……僕はどうすれば……?」
嘆願する僕を見たリリィが、小悪魔のような笑みを浮かべてふんぞりかえる。
「ふふ、そうねぇ。とりあえず魂を視るのは禁止よ。どうしても視なきゃいけない時は、あたしの許可を得てからにしなさい」
「え……リリィの許可がいるの?」
「師匠の言うことを聞くのは弟子として当然でしょ」
「弟子? ゲヘナでは確かにリリィの助手をやってたけど、弟子ってわけでは────」
「細かいことはどうでもいいのよ。で、どうすんのよ? 断るってんなら衛兵を呼ぶわよ」
「わ、分かったよ! リリィの言う通りにするよ!!」
「賢い選択ね。まぁこれで師匠を蔑ろにした罪は許してあげるわ」
満足気に頷くリリィ。いつの間にか弟子になってるし、主従関係を強いられた気がする。ある意味 “魂の盟約” では?
それにしても……魂を視るのは僕のライフワークみたいなものなんだよね。それを禁止されたとなると、ものすごくフラストレーションが溜まりそう。
「そうだ! タツのその能力を【ソウルゲイズ】と名付けよう!」
「なんかカッコイイけど禁止されちゃったし……」
「た、タツ。ほら、元気出して! このお菓子すごく美味しいんだよ」
フルティナが僕の能力に名前を付けてくれて、フラウが小皿に乗ったお菓子を差し出してくれる。フィナンシェってやつかな? ナッツが乗っていて、甘い香りが鼻腔を刺激してくる。
「……ありがとう」
お言葉に甘えて、そのお菓子を一口頬張る。まず最初に感じたのはバターの風味だ。しかもただのバターではなく、香ばしい香りがする。焦がしバターってやつなのかな? 外はカリッと中はしっとり……この上品な甘みの正体は蜂蜜だ。これもただの蜂蜜じゃない……すごく高貴な香りがする。バターのリッチな風味と蜂蜜の高貴な香りが口の中で渾然一体となって奥深い風味を作り出している。またこのナッツの歯応えが心地よく、素晴らしいアクセントになっている。
……とまぁ、色々言ったけど要約すると────ものすごく美味しい!!
「なにこれ! すごく美味しい!!」
「ふふん、当然でしょ。あたしが作ったんだから」
リリィがその美しい髪をふわりと手で払い、鼻を高くしている。自信満々に冗談を言う師匠の姿が可笑しくて、僕はつい笑ってしまった。
「あはは、リリィは本当に面白いなぁ」
「あんたぶっ飛ばすわよ!!」
目を吊り上げ激昂するリリィ。
えッ、冗談じゃなくて……本当にリリィが作ったの!?
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