第9話 パジャマパーティ【前編】
オウガたちとの話は終わり、僕は一人で街に繰り出していた。記憶を取り戻した僕たちのことを、フラウたちにも説明しておこうと思ったんだ。
シンはラヴニールさんと修行のことで話があるみたいだったので、フラウたちの所には一人で向かうことにした。リリィたちと一緒にルリニアさんの家にいるみたいなので、そこでみんなに説明しよう。ちなみに傭兵団のメンバーはいつもの【マリナー】って店にいるみたい。後でシンと合流するから、カシューたちにはそこで説明する予定だ。
「ここかな?」
一軒家の中には見知った魂が視えた。五つの魂の中には、美しい虹色の魂が二つ。僕がドアノッカーで数回扉を叩くと、中から女性の声が聞こえてきた。ルリニアさんだ。
「はーい」
扉を開け、顔を覗かせるルリニアさん。その白い瞳が僕を不思議そうに見つめている。
「あ、こんばんわ! 僕、タツです」
「え、タツって……」
名乗ってみたけど、更に困惑させたみたいだ。まぁ子供の姿しか知らないと、今の僕の姿は意味不明だよね。
「えーっと、なんて言えばいいだろう────」
「ルリニア、どうしたのよ?」
僕が説明に困っていると困惑するルリニアさんの後ろから新たな声が聞こえてきた。リリィだ!
「よかった! リリィ! 僕だよ僕!!」
「新手の詐欺かなんか? って、タツじゃない。久しぶりね」
リリィが僕を見ると、特に驚くこともなく僕だと分かってくれた。その理解の速さに正直びっくりしている。あと久しぶりって何だろう?
「まだ一日も経ってないよ?」
「あれ、そうだったかしら? なんかすごい久しぶりに感じたのよね──って、あんたその姿前見た姿じゃない。子供の姿はどうしたのよ?」
「いやぁ、色々あって。そのことも含めてみんなに説明しに来たんだ」
「ふーん、よく分かんないけどまぁいいわ。みんないるしとりあえず上がりなさいよ」
「え、え……本当にタツくんなの?」
相変わらずルリニアさんは困惑しているけど、リリィが話を進めてくれた。家に上がらせてもらい部屋に案内される。そこは紅茶とお菓子の甘い香り、そして石鹸のいい香りがふんわりと漂い、フラウとオルメンタさん、そしてフルティナが談笑していた。
ちなみに今気づいたんだけど、みんなパジャマ姿だ。胸元に猫の可愛らしい顔と、肉球の模様がたくさん付いている。
「あれ、その
「タツ? でもその姿は……」
「え、タツ? 誰が?」
三人とも困惑している。いきなり受け入れてくれたリリィが少しおかしいんだね。でも、フラウも僕の今の姿には見覚えがあったようで安心した。
「うん、タツだよ! こっちが元の姿なんだ!」
「そうなんだ。タツ、見ない間に大きくなったんだね」
「見ない間って、一日も経ってないよ?」
「え、そうだっけ? ずっと会ってなかった気がしたから……」
フラウが首を傾げてうーんと唸っている。さっきリリィにも言われたけど、なんか時間軸でも狂ってるのだろうか?
「で、何があったのよ?」
「タツくんにも紅茶入れますね」
席についたリリィが前のめりに聞いてくる。ルリニアさんが新たなカップに紅茶を注いでくれて、僕が口を開こうとするとフルティナが何かを差し出してきた。
「はいこれ。タツの分ね!」
「……なにこれ」
聞いてはみたものの、どう見てもみんなが着ているのと同じ猫パジャマだった。これをどうしろと……
「今日はみんなでパジャマパーティー中なんだ! だからタツもそれに着替えてね!」
「え!? や、やだよ! 女性用じゃないかこれ!!」
「ダメだよ! パジャマパーティーはパジャマの女の子しか参加できないんだから!」
「じゃあどっちにしろ僕はダメじゃん! 僕は男だよ!!」
「あっはっは! いいじゃないタツ。さっさと着替えてきなさいよ」
「さ、サイズは大丈夫だと思うよ?」
「どうぞ、隣の部屋を使ってください」
「……ぷッ」
誰からも僕に援護はなかった。オルメンタさんはくすくすと笑ってるし!
諦めた僕は、仕方なくそのパジャマに着替えることにした────
「なかなか可愛いねこれ」
今は秋。少し肌寒くなってきたこの季節にちょうどいいふわふわ感。サイズもぴったりで意外にも動きやすく、寝るのにも適していそうだ。女性陣からもお褒めの言葉が飛び交ってきて、正直悪くない気分。シンに見られてるわけじゃないしヨシとしよう。
僕は改めてパジャマ姿のみんなを見る。みんな髪飾りもなく髪をほどいた状態で、まるで別人に見える。それに、パジャマ姿の女の人ってなんか妙な可愛さというか色気があるよね。
フラウとリリィの胸に描かれたニャンコは引き伸ばされ、どこか笑っているようにも見える。まるでそのニャンコが二人の魅力を誇示しているかのようだ。リリィは普段からラインが強調された服だけど、フラウって着痩せするタイプなんだなぁ。僕の知る限りじゃA・Sの人たちってみんなスタイルいいんだよね。母性の塊っていうか。
ルリニアさんは落ち着いた雰囲気と共に、少し紅潮した頬と時折覗かせる白い瞳が大人の魅力を醸し出している。年はリリィやシンと一緒のはずなのになぁ。あと、ルリニアさんって記憶の中で見たアラテアに似てるんだよね。シンに確認するべきか否か……。
フルティナも普段のトレードマークであるポニーテールをほどいていて、その薄紫色の綺麗な髪が肩にふわりとかかっている。それだけでこんなにも雰囲気が変わるのかと、僕は少しだけ背筋がゾクリとした。綺麗なオッドアイを輝かせ笑っている姿は、彼女の健康的な魅力とでも言うべきか。
オルメンタさんはすごく……うん、オルメンタさんは……なんていうか……はは……ねぇ?
「タツ、今お前から失礼な波動を感じたんだが。何か言いたいことがあるのか?」
「ヒィッ!」
オルメンタさんが腕を組み、眉をぴくぴくさせながら僕を睨みつけている。顔は笑っているが、その殺意の波動に僕は小さな悲鳴をあげてしまった。悲鳴をあげたのはカザンを初めて見た時以来だ。
「お、オルメンタさんもオッドアイなんだね!」
「だからなんだよ」
あッ、ダメだこれ! 何言ってもダメなヤツだ!! 誰かヘルプお願いします!!
「タツの反応も仕方ないでしょ。あんたのパジャマ姿似合ってないんだから」
「そ、そんなことないよ! オルちゃん可愛いじゃない!」
「女子の言う “可愛い” は信用しちゃいけないって雑誌に書いてあったよ!」
「てぃ、ティナッ。何で今それを言うんですか!?」
「お、お前ら……」
ぶるぶると拳を震わせるオルメンタさん。正直オルメンタさんって凛然とした騎士ってイメージだし、顔立ちも整ってるからどっちかっていうとカッコいいって感じなんだよね。そんな麗人がこのメンバーの中で可愛いパジャマを着ていると、やはりどうしても浮いてしまう感じがする。
「いいだろ! 私だってパジャマ位可愛いの着たいんだ!!」
「猫柄がダメなのかな? しょうがない、ボクがオルちゃんに似合うパジャマを作ってあげるよ!」
「え……本当かティナ?」
「うん! 鎧の模様とかどうかな?」
「それじゃ普段と変わらないだろ!」
この後はしばらくオルメンタさんに似合うパジャマの柄の話になった。ちなみに僕は “和柄” を提案したんだけど、みんなには伝わらなかった。オルメンタさんに似合いそうなんだけどなぁ。
「はぁ、とりあえずタツは後で殺すとして……何か用があったんじゃないかタツ?」
ため息をつきながらオルメンタさんが目配せしてくる。そうだった、みんなに思い出したことを話に来たんだった。
でも、話終わったら僕殺されるんだよね? 話すのやめようかな……。
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