第8話 オウガの余命
「そっか! サンディスはシンの守護者の力を持ってるもんね!」
「あぁ。ぶっ殺して、ついでに肉体も奪っちまおうぜ」
俺たちがレガリアを使う時────それはサンディスを倒す時だ。
あいつの肉体をレガリアに取り込むのは気持ち悪いが、背に腹は変えられない。それに今も力を消化できずに苦しんでるみたいだが、恐らくあいつの肉体は守護者の力に順応し始めているはずだ。力を取り戻すにはこの上ない素材……あいつを倒せば、きっとタツの脆弱さも解消されて、俺単体でもレガリアを使えるに違いない。
「みんな、俺たちの方針は決まった。アズール騎士団 団長のサンディスを倒す────それが俺とタツの目標だ」
俺の決意表明に、オウガが微笑みを浮かべた。
「ふふ、なら俺たちの向かう先は一緒だということだ。その点も踏まえて話をしようか」
「あぁ。俺は今すぐサンディスを倒したいし、アラテアさんたちにも会いたい。でも、テクノスが監視するライザールにのこのこ行くわけにはいかない。ってことは────」
「そうだ。まずはライザールの守護神────テクノスを討つ」
神を討つ────口にするのも憚られるその言葉からは、絶対の自信が感じられた。
確かに……味方にはカザンがいる。はっきり言ってカザンの強さは次元が違う。カザンならきっと神すら倒してしまう……そう思えるほどだ。
……あれ、でもタツはラヴィが一番強いって言ってたよなぁ。カザン抜きでってことか?
「ゲヘナ城塞で手に入れた地獄炉。今から約一年後────その地獄炉を使ってテクノスへの道を繋ぎ、奴を討つ」
「一年……か。どうして一年後なんだ?」
俺としては今すぐにでもテクノスを倒してライザールに行きたいんだが。
そんな俺の疑問に、ラヴィが答えてくれた。
「今、ライヴィア王国は長年の戦争で疲弊しきっています。このままテクノスを倒せば、ライザールはテクノスの施した魔導具は使えなくなり大きな勝機となるかもしれません。ですが、ライザールはアズール騎士団の本隊を温存しています。その戦力と今戦えばライヴィアもタダでは済みません。そして、両国が弱りきったところを狙ってくる国が一つあります」
「もしかして【天蓬国】か?」
「そうです。天蓬国の襲来に備えるためにも、今は国力の回復に専念しなければならないのです。ライヴィアは度重なる内乱で多くの領土がガラ空きとなっています。今は陛下のご意向の元、新たな人事で国を建て直す時なのです」
そうか、これは俺たちだけの戦いじゃない……。国の明暗を分けた戦いなんだ。俺たちが勝手に戦いを引き起こせば、国が滅ぶかもしれない。王子であるオウガが、それを良しとするはずがないんだ。
「分かったよ。一年後にテクノスを倒す……全てはそれからなんだな」
「あぁ、そういうことだ」
俺が確認するとオウガが満足したように笑顔になる。オウガはテクノスの呪いをその身に宿している。だがテクノスを倒せばその呪いも解けるとラヴィが言っていた。
「よし! なら一年後にみんなでテクノスをぶっ倒して、オウガの呪いを解く!! そういうことだな!?」
鼓舞するように俺が元気よく声を上げると、何故か部屋は静まり返った。
え、何だこの空気は……。タツも訳が分からないようで、俺の顔をチラチラと見ている。俺たちが困惑する中、オウガが目を閉じ、微笑みを浮かべたまま口を開いた。
「シン、そのことなんだが……テクノスのいる地獄には俺一人で行く」
「え?」
一人で? なんでわざわざ。カザンもいるのに、みんなで行った方がよくないか?
「テクノスのいる地獄の最深部へ行くには膨大な時間がかかる。それこそ人間の寿命では辿りつけない程だ。そこで魔力を消費して距離を稼ぐ訳だが、力を使いきればテクノスは倒せない。使えても片道分────つまり一方通行なんだよ」
「テクノスを倒しても……戻って来れないってことか?」
「そうだ。……というより、そもそもテクノスを倒すには全ての力を使い切らないと無理だろう。その時点で戻るも何もないんだ」
「ま、待ってくれよ。それなら尚更カザンと一緒に行けば魔力にだって余裕が出るかも────」
「シン」
俺の言葉を遮るようにオウガが名前を呼ぶ。俺を真っ直ぐに見据えるアクアマリンの瞳……その瞳からは並々ならぬ決意を感じた。
「シン。テクノスの討滅は始まりに過ぎない……テクノスを倒して終わりじゃないんだ。本当の戦いはそこから始まる。天蓬国を始めとした外敵、そしてテクノスによって抑えられていた者が本性を表すかもしれない。君たちの仇であるサンディス、そしてグラスもその一人だ」
「グラス……執行者のリーダー……でも、オウガの協力者なんだろう?」
「グラスの持つ能力と地獄の知識……テクノスを倒すためにはグラスの案内と力が必要不可欠と判断したから同盟を結んだ。だが、その同盟はテクノスを倒すまでの間だ。テクノスを倒せば、グラスは必ず俺たちの…… “人類の敵“ となる。その為にも、全ての戦力をテクノスに向けるわけにはいかないんだ」
将来の敵を見越しての事────俺には反論の余地もない。でも……だからといってオウガを一人で死地に行かせるなんて────
「────それにさ」
俺が目を伏せていると、突然オウガの明るい声が部屋に響く。俺が顔を上げると、悪戯っ子のような笑みを浮かべたオウガがそこにはいた。
「二人はさ、俺が王子だってことは知ってるんだろう?」
「え……あ、あぁ」
「うん……」
「王子の暮らしってどんなのだと思う?」
「え、うーん……とにかくでかい城に暮らしてる、とか?」
「ご馳走食べてそうかな?」
俺とタツの微妙な答えに、オウガはふふふと笑いを漏らした。
「大体合ってるよ。でかい王宮で朝昼晩と豪華な食事。着替えも湯浴みも召使いが全部やってくれる。何不自由ない王宮生活……それを突然訳も分からず奪われたんだ。俺には復讐する権利がある、そうは思わないか?」
「……」
俺もタツも、その質問に答えることができなかった。だが、オウガは構うことなく言葉を続ける。
「色んな建前を言ったけど、これが俺の本心さ。これは……俺の復讐だ。誰にも譲る気はない────テクノスは俺が殺す」
────本心? 新参者の俺にだって分かる。これはオウガの本心なんかじゃない。どれだけ強い言葉を使おうと、心が震えているのが分かる。もしこれがオウガの本心だと言うなら、みんなは少なからず納得した顔をするはずだ。
これが本心だって言うのなら────なんでラヴィが泣きそうな顔になってるんだよッ……。
「さぁ、この話はこれで終わりだ」
オウガが両手を合わして話を打ち切る。これ以上この事で議論する気はないのだろう。だが、俺たちが何か物言いたそうにしているのを見て、オウガが再び口を開いた。
「地獄への片道切符……それに相応しいのは俺だけ。他にも理由があるんだよ」
「え?」
「タツ、俺は未来を感じることができる。君の全盛期に比べれば取るに足らない力だが、吉凶くらいは感じることができるんだ。でも、一年後から先はまるで感じることができない。何でだと思う?」
「そ……それは……」
言葉に詰まるタツ。だが、その理由は俺にも分かった。きっとそれは────
「そうさ。呪いに負けたのかテクノスに負けたのかは分からないが、どちらにせよ俺は一年後に死ぬのだろう。でも、俺はそのどちらにも転ぶつもりはない。どうせ死ぬのなら……死を避けられない運命なら────俺は復讐の為に全ての力を使ってテクノスを討ってみせる」
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