第7話 シンの選択
執行者のリーダーであるグラスはオウガと同盟関係。アラテアさんとルジーラちゃんは昔からの俺の知り合いだ。まぁ200年以上前だから忘れられてる可能性もあるが……忘れられてたら流石に傷付くな。
とはいえ、執行者と争う必要はもうないんじゃないか?
「なぁ、アラテアさんもルジーラちゃんも俺のことを覚えてくれてると仮定するなら、もう戦わなくていいんじゃないか?」
「それは無理だろうぜ」
俺の意見をバッサリと切り捨てたのはカザンだった。
「な、なんでだよ? アラテアさんだって治癒士として活動してるんだし、ルジーラちゃんだって話せばきっと──」
「あの女が昔どうだったかは知らねぇが、今のあいつならよく知ってるぜ。……あいつは戦いそのものを楽しんでる。あいつにとってそれを邪魔するものが敵なんだ。話したところで反感を買うだけで、戦いをやめるとは思えねぇな」
「戦いはやめれなくても、こっちの味方にはなってくれるかもしれないじゃないかッ」
食い下がろうとする俺に、今度はオウガが優しく言い聞かすように言葉を発した。
「シン。君にとってルジーラは200年前のままなんだろう。でも今のルジーラは明確な王国の敵だ。数えきれないほどの王国の騎士がルジーラに殺されてるんだ」
「う……」
……確かにオウガの言う通りだ。俺は眠っていた間の200年間に何が起こっていたのかは全然知らない。そんな事情を知らないヤツが、昔知り合いだったからと言ってもなんの説得力も無い。多くの仲間が殺されてるのに味方なんかにできるわけがない……でも、それでも────
「……それでも、一度は話しておきたい。アラテアさんにも俺が生きていることを伝えたいし、すぐにライザールに────」
『それは止めておいたほうがいいだろう』
今度はディアが俺の言葉を遮ってきた。
「なんでだ? 早く二人に伝えないと余計な争いが────」
『ライザールはテクノスによって監視されているとオウガが言ったはずだ。もしお前たちがその領域内に入れば、すぐさまテクノスによって居場所は感知される。奴らはどんな手を使ってでも残ったお前たちの力を手に入れようとするだろう。過去や天津国での出来事のように、ライザールの領民を巻き込んでも構わないと言うのなら話は別だが』
正論すぎてぐうの音も出ない。俺のせいで友達やコウタたちを巻き込んでしまったんだ。あんなのは二度とごめんだ……。
「ちょっと! それはシンのせいじゃないんだから言い方考えてよ!!」
タツがディアにぷんぷんと怒っている。だがディアは────
『ならば言い方を変えよう。お前たち二人はお互いの為なら何でもできると考えているようだがそれは誤りだ。第三者を人質にとられればお前たちは途端に動けなくなる。過去に友人を巻き込み殺されたことを悔いているのなら、ここは大人しくふぎゅッッ!!』
説明していたディアの脳天に、隣にいるラヴィのチョップが炸裂していた。ディアは聖少女とでも言うべき可憐な姿の少女なのだが、目ん玉が飛び出したギャグ顔みたいになってたぞ……。
『ら、ラヴニール……なにをする』
「あなたはもう少し人の感情について勉強しなさい。二人ともごめんなさい……ディアは女神セルミアによって分かたれた善性とは言っていますが、人の感情の機微に疎いのです。これでもマシにはなったのですが……悪気があるわけではないので、どうか許してあげてください」
「い、いや。別にいいんだ」
『私は二人に今の立場を説明しようと────』
「黙りなさい、次は真っ二つにしますよ。それよりもあなたにはすることがあるでしょう?」
ディアってセルミアの分身みたいなものだよな? そんな女神にチョップかまして挙句に真っ二つって……。ラヴィって大人しそうに見えるけど、実は結構過激なのだろうか?
…………いいねぇ。って、そんなこと考えてる場合じゃない。することって何だ?
『二人とも、少し触れるぞ』
俺とタツの胸に、ディアの手が添えられる。以前感じたようなむず痒い感覚が全身に広がり、タツも “のわぁ” と声をあげていた。
『ノイズも無くなりかなり安定している。タツの存在も確立されているから消えるようなことはないだろう。だが、力が戻ったわけではない。以前聞いたカザンとの戦いでお前たちが使ったレガリアは、やはり使わない方がいい。その姿こそが本来のお前たちだが、弱った状態で再び一つになればまた戻れるとは限らないからな』
「あぁ、分かったよディア。ありがとう」
俺が素直に礼を言うと、少しだけディアが笑った気がする。無機質に感じるけど、中身はどうあれこの子も人間なのかもしれない。
しかし分かっていたことではあるが、やっぱりレガリアは使えないか……。結局サンディスの時とカザンの時の二回だけしか使えてないけど、あの力が自由に使えれば相当な戦力アップなんだがなぁ。
『お前たちには選択肢が二つある』
「選択?」
『そうだ。一つは、このまま戦いを忘れ二人で穏やかに暮らすことだ。日常を生きていく上では、力を失っていても何の問題もない』
戦いを忘れる、か……。確かにそれもありだ。俺も別に戦いたいわけじゃない。日本での生活のようにタツと生きていけるなら、それに越したことはないんだ。
「シン、あなたからは多額の寄付金を頂戴しています。あなたが望むなら、このパラディオンに住居を用意し支援させてもらいますよ?」
考える俺にラヴィが提案してくれる。至れり尽せりの好条件だが……
「多額の支援金って、いつの間に寄付したの?」
「ダイコクからもらった太陽石を全部寄付したんだ。重かったし」
「えぇ! そ、そんな……僕の【真・太陽のかりんとう計画】が────」
「邪悪な計画を事前に潰せたのは結構なんだが、一応ラヴィに欠片とか粉末はタツにあげるように言ってあるぜ」
「はい。入用の時は言ってくださいね」
「あ、そうなの? じゃあいいや!」
いいのかよ。俺が言うのも何だが、タツも太陽石の資産的な価値には興味がないんだな。タツは昔から宝石とかが好きだったけど、やっぱりそれは龍だからなのだろうか? 龍は光る物が好きって言うもんな。……それはカラスだっけ?
『二つ目は、力を取り戻すことだ』
「まぁそうだよな。でもどうやって? 修行とかで戻るのか?」
『シンの場合は人の成長と同じく多少は戻っていくだろう。だがタツは違う。失われた守護者の力が自然に戻ることはないだろう』
「え……じゃあどうすれば?」
『現実的なのは、力を持つ者から奪うことだ』
「う、奪う?」
おいおい、穏やかじゃないな。それってつまり殺して取り込むってことだよな?
『タツ。お前は既に気付いているだろうが、お前の失われた守護者の力は時を経て人間に受け継がれている。その者たちから力を取り戻すしか方法はない』
「うん。オウガとガウロンは間違いなくそうだもんね」
オウガの未来視、ガウロンの魂を視る力────確かにこれらは守護者と同じ力だ。とはいえ、二人とも完全な力ではないらしいが。
……っていうか、そんなことはどうでもいい。こいつらから力を奪うなんて話にもならない。きっとタツもそう思ってるはずだ。
「俺の肉体と魂なら渡してもいいんだが、生憎先約がな」
申し訳なさそうにオウガが言うが、端からそんなつもりはない。それより先約って何だろうか?
「タツ」
「どうしたの、ガウロン?」
壁際で腕を組んで立っていたガウロンの手には、いつの間にか巨大な弓と短剣が握られていた。
「これはお前の肉体の一部から作られた武器だ。これを取り込めば、お前の肉体の脆弱さも幾分かは解消されるんじゃないか?」
サンディスとの戦いで砕けたタツの身体。その砕けた胸殻や鱗で作られたのが、ガウロンの持つ武器だと言うのだ。確かにその武器を取り込めば、タツは自分の肉体を少しは取り戻せるだろう。でもタツは────
「ありがとう、ガウロン。僕の未来視の力は無くなっちゃったけど、それでも感じるんだ。その武器は……必ず必要になる。だからそれはガウロンに持っていて欲しいんだ」
「────そうか」
微笑むタツに、ガウロンは納得しその武器を引っ込めた。折角の好意だったが、タツがそうしたいと言うなら俺も反対する気はない。
「とにかく、お前たちから力を奪うなんてあり得ない」
「そうだね。じゃあ、どうしようかシン? お言葉に甘えてひっそりと暮らす?」
────俺は考えた。……いや、考えたフリだな。考えるまでもなく答えは決まっているのだから。こいつらの戦いも、俺たちとは無関係ではない。それなのに俺たちだけ平和に暮らすなんてことはできない。
「いや、後者でいく」
「後者? 力を奪うってこと??」
────どっちみち、あいつらが俺たちを探しているならいずれは戦うことになるのだろう。なら……こっちから会いに行ってやろうじゃないか。
「あぁ。守護者の力を取り戻す」
「で、でも……誰から?」
──── 200年に渡る因縁……父さんの仇。生きてたんなら、今度こそ俺の手で引導を渡してやる!
「サンディス・ヴォルクシュタイン────くれてやった守護者の力だが、肉体という利息もつけて返してもらうぜッ!!」
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