第6話 まずは謝罪
一悶着あったが、元の姿に戻った俺とタツはセントラルの執務室に戻ってきていた。そこにはオウガ・カザン・ラヴニール・ディア、そしてガウロンを加えた五人が俺たちを待ってくれていた。
俺たちの姿に驚くみんなだったが、まずは嘘をついていたことを詫びるべく頭を深く下げた。
「みんなすまない。俺は18歳だって言ってたけど、実際は239歳だった。サバ読みの限度を超えている……本当に申し訳ない」
「僕は237歳だったよ」
恐る恐るみんなの顔を見てみるが、ガウロン以外は眉を顰めたり苦笑いしている。……やはり年齢詐称は心象が悪かったか?
「ま、まぁいいんじゃないか? 18歳で」
「許してくれるのか!?」
最初に口を開いたのはオウガだった。俺が確認すると優しく微笑み返してくれた。
「ふふ、許すもなにも怒る理由がないよ。しかしその姿には少し驚いたけど、無事思い出せたみたいだね?」
「あぁ、おかげさんでな。すまないが、俺が思い出したことをみんなに話しておきたいんだが……」
そこにいたみんなが首を縦に振ってくれた。
ここにいるみんなは信用できる。俺は自分の感情も交えつつ、何一つ隠すことなく全てをみんなに話した────
────────────────────
「────そうか、そんなことが……辛かったな」
「あぁ……だが今はこうしてタツと生きてる。それで十分なんだ」
オウガが沈痛な表情になっている。オウガもテクノスによって呪いをかけられた身────勝手な陰謀に巻き込まれたことに共感してくれているのかもしれない。
俺たちは昔のことを思い出した。だからこそいろいろな疑問が浮かんでくる。俺たちは200年以上眠っていたのだから、その間に起きた事を知らないのだ。
「教えて欲しい。今ライザールはどうなってるんだ?」
「シン。君たちを苦しめたアズール騎士団 団長サンディスは……今も生きている」
「……生きてやがったのか、あの野郎」
「協力者の情報によると、サンディスは過去に受けた傷がまだ癒えておらず動くことができないらしい」
過去に受けた傷……間違いなく俺の最後の一撃だろう。守護者の力を全部叩き込まれた事によって、あいつは相当苦しんだはずだ。200年以上経った今でも、その力を消化できずにいるらしい。
「それ以外に分かることは?」
「ライザールの国土はすべてテクノスによって監視されている。間者を送り込むことができないため、情報は無いに等しいんだ。協力者による情報が全てで、これといった情報はもうないな」
「その協力者っていうのは、ゲヘナで見た
タツの疑問に、オウガが少しだけ驚いた表情になる。
「そうか、タツには視えてたんだね。……隠していてすまない。君たちは全てを話してくれた。だから俺も協力者について話しておこう」
オウガだけではなく、他のみんなの空気も変わったのを感じる。ピリピリと肌を刺すような緊張感が部屋を満たしていく。
「協力者の名は【グラス】。セルミア教団が進める “ディセント計画” の執行者……そのリーダーだ」
「セルミアを復活させるための儀式……つまりお前達の敵なんだよな?」
「そうだ。グラスの目的はテクノスを滅ぼすこと。その点で俺たちの利害は一致し協力関係に至ったんだ」
「敵の敵は味方ってことか……でも、完全に味方ってわけでもないんだよな?」
「グラスはあくまでディセント計画の責任者で、セルミア教の全権を担っているわけではない。別の人間の意思が絡んでくれば敵対することも勿論ある。とはいえ、ノヴァリス四姉妹についても目溢ししてもらったりと色々融通は利かしてもらっているけどね」
「確かセルミアの器なんだよな。それがここに全員揃ってるのにお咎めなしなのはそういうことなのか」
「シンは、【
「あぁ、カザンから大体のことは聞いてる」
【執行長グラス】・【糸紡ぎの聖女アラテア】・【死の翠星ルジーラ】────超常の力を持つと言われる三人の執行者。もし……もしその人が……あのアラテアさんなら────
「アラテア……ルミナリスなのか?」
「シンの知るアラテアと同一人物だろう。怪物を内に宿しヴィクターとなっているが、アラテアは今も治癒士として活動している。世界で知らぬものはいない聖女だ」
「そうか……」
ヴィクターとなり、執行者という立場にいる。もう俺の知るアラテアさんでは無いのかもしれない。でも……それでもいいんだ。アラテアさんが今も生きている────そのことに俺は感謝した。
会わなければいけない……アラテアさんに。
「なぁ、その死の翠星ルジーラの特徴を教えてくれないか?」
「ん? あぁ、カザン────」
俺はそのルジーラの顔を知らない。だが、もし俺の知るあのルジーラちゃんだったら……。
オウガに話をふられたカザンが、不愉快そうに言い放つ。
「白黒の髪に褐色肌のクソガキだよ」
「……」
────間違いない。俺の知るルジーラちゃんだ。彼女もまた、アラテアさんと同じく生きていたんだ。
遠征に行くまでの一ヶ月あまりの付き合いだったけど、すごく印象に残っている。少しすれた所はあったけど賢い子で、面倒見の良い活発な女の子だった。下の子のおしめを取り替えたり、お遊戯の為にオルガンの練習もしてたっけ。喧嘩が強く、子ども達をいじめて来た年上の貴族をボコボコにしていた。
将来有望だなぁ、なんて思ってたけど……今ではトリニティとやらの一角となり、死の翠星だなんて物騒な異名と共に世界的に恐れられている────
「立派になったんだなぁ」
自然と涙がこぼれ落ちた。
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