第5話 世界の真実と魂の変質(腐)【後編】
影を深めたタツの口から、禁忌の正体が明かされる。
「……同人誌だよ」
「……はぁ?」
「好きな漫画やゲームが終わっちゃうとさ、なんでもいいから続きが見たくならない?」
「あー、俺はどっちかっていうと終わりが近くなるとやりたく無くなる派だけど、その気持ちも分かるな」
「母さんはある乙女ゲーにどハマりしてね。全キャラを攻略し尽くして途方に暮れていた時に、ネット仲間からイベントや同人誌の存在を知ってしまったんだ」
「なぁ、母さんの話してるんだよな? 俺の中の母さんのイメージがどんどん崩れていってるんだが……」
「まだまだ序の口だよ。母さんは関連するイベントに積極的に参加するようになった。そして同人誌の存在を知ったことで、母さんは更なる世界に手を伸ばし始めた。それでもいずれ終わりは来る……それを終わらせたくなくて、遂には仲間と共に創作に乗り出してしまったんだ」
「ま、まさか……」
「そう。サークルを立ち上げて同人誌を描き始めたんだ」
「……ちなみにジャンルは?」
「BLだね」
「おいいぃぃ!! 何やってんだ星の守護者!!??」
「ちなみにサークル名は【エデンスフィア】だったらしいよ」
「ふざけんな! もうこの世界の名前聞いただけで母さんのオタク姿がチラついちまうよ!! そりゃ星の枠組みから外れるわ!!」
シンの頭の中では、ペンライトを振りながらキャーキャー言う守護者の姿が顕現し始めていた。
「ま、まぁまぁ。それだけ世界が平和だったってことだよ」
「ぐ……そうかもしれないけど……聞きとうなかった……」
ガックリと肩を落とし消沈するシン。だがタツは更なる追撃を開始した。
「でね、ここからが本題なんだけど────」
「おいおい、まだあるのかよ!?」
「僕の顔さ、女の子っぽいって言ったでしょ?」
「え、あぁ……うん……まぁ……」
「それね、母さんの趣味が大きく関わってるんだよ」
「BL本とか乙女ゲーとかそういうこと?」
「どれを参考にしたのかは分からないけど、多分そうだと思う。僕を創り出した時に思いっきり趣味を反映したんだよ。シンとは正反対の容姿にしたかったんじゃないかな?」
「……ま、まぁ美少年といえば美少年だし……醜男よりは良かったんじゃないか?」
「まぁそうなんだけどね。つまり僕の容姿に対する責任の “半分“ は母さんなんだよ」
「半分? じゃあもう半分は?」
「シンだよ」
「……はいぃ〜??」
耳に手を当て大きく体を傾けるシン。だがそんな事にはお構いなしに、タツは悪い笑みを浮かべながら話し続ける。
「もう半分はシンのせいなんだよ」
「ちょっと待て。なんで俺のせいなんだよ!?」
「シンが名前を分けてくれた時に、僕は人間になったんだ。その時に僕の人間としての成長が決定付けられたんだよ」
「……どゆこと?」
「つまり僕の姿は母さんの趣味がベースだけど、シンの思いに沿って成長していったんだよ。男の娘がいいな、とでも思ったんじゃないの?」
「いやいや待ってくれ! 俺はそんなこと考えてねぇよ!! 大体あの時はまだ3歳だぞ!? 男の娘がどうとかなんて考えるわけないだろ!?」
「ほんとにぃ〜? 可愛い弟が欲しいとかは考えたんじゃないの?」
「そ、そんなことッ……いや、可愛い弟が欲しいとは考えたかもしれないッ……いやでもッッ────わからん……わかりません!!」
パニックに陥るシンを楽しそうに見つめるタツ。そしてトドメを刺すべく、タツがシンに近付いていく。
「まぁいいよ。でさぁ……どう?」
「へ……ど、どうってなにが??」
「顔だよ顔。僕の顔────シンの好み?」
艶やかに頬を染め、その頬に細い指を絡める。美しい金色の瞳を潤わせ流し見るその姿は、美少女と言っても過言ではなかった。そんなタツに対してシンは────ドン引きした。
「……馬鹿かお前」
「ひ、ひどい! シンが僕をこんな顔にしたのに!!」
「それは母さんの趣味だろ!? 俺にそんな趣味はない!!」
「そういえばさっき僕のこと抱きしめてきたよね?」
「ぶッ────そ、それは……あの場面はそれ位するだろ!?」
「カシューとも仲が良いよね?」
「あれは普通に友達だろ! 確かにボディータッチは多い気もするが……」
「はッ────ま、まさか……だからオウガの事も聞いてきたんじゃ……」
「ちッ、ちが……き、聞きたくない………聞きたくなーい!!」
耐えきれなくなったシンが坂を全速力で駆け降りていく。
「うおおおぉぉぉぉ!!」
「あはは! 待ってよシン!!」
雄叫びを上げ走り去るシンを嬉しそうに追いかけるタツ。もちろんタツが言った半分は冗談だった。しかしシンには効果覿面だったようだ。
“これでシンがオウガの性別に言及することは無くなるだろう。でも少しやりすぎたかな?“ と思いつつも、元気に走る親友の姿を見てタツは安心していた。
羞恥心────シンが感じたこの感情。感情を光と闇に二分するとするならば、一般的には闇に分類されるであろうこの感情。だが、その闇が転じて光となることもある。闇の感情が成長の契機となり、精神を強固なものにすることもあるのだ。
心を許せる者が側にいれば、それはより顕著になるだろう。
タツには視えていた。煌々と、力強く輝くシンの魂が。
二人が冗談を言い合い、笑い合えるうちは────その魂が闇に染まることはもうないだろう。
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