第8話 作戦開始
【綾陸国アニマライズ】────人を排し、動物だけが生息する大陸。四方は海に囲まれており、魔導船は沖合に停泊し、数隻の小型船で上陸を開始した。
魔導船との連絡手段を構築する為に、簡素な基地を設営する。先遣隊とやらの姿は見当たらないが、すでに帰国したのだろうか?
魔導船との連絡手段を確保し、基地との連絡手段である魔導具は、サンディス団長が持ち歩く。貴重な魔導具なので、一基しかないらしい。その代わり、俺と父さんには魔導具である腕輪が渡された。
「なんだこれは?」
「これは私達の魔力をそれぞれの腕輪に表示し、互いの安否を確かめる為のものだ。おおよその方角も示されているから、邪龍を発見した場合はこのボタンを押せ。押した者の魔力が音と共に明滅するから、すぐにそこへ駆けつけるのだ」
サンディス団長・父さん・俺がその腕輪をはめると、2つの細長い画面に色が表示され、それぞれに矢印が付いている。その矢印はサンディス団長と父さんに向いており、2人のいる方角を示していた。
「へぇー、便利だなぁ」
「これも我らが主、テクノス神の賜物だ。言うまでもないが、表示された色が消えたのなら、それはどちらかの命の危機だ。それを忘れないようにな」
そうだ。これから俺たちは、邪龍の3つの棲家へ同時にアプローチをかける。離れた所にいる2人の安否にも気を配らないといけない。
「よし。では、邪龍討伐作戦を開始する。0地点までは共に行動し、その後三手に分かれるぞ」
サンディス団長の静かな号令で、作戦は始まった。俺たち3人は、アズール騎士団の証である蒼鎧に身を包み、騎士団の紋章である“双頭の鷹” が刻まれた純白のマントを羽織る。
既に場所を割り出してくれていたお陰で、上陸地点から邪龍の棲家まではそこまで遠くはない。恐らく1日もあれば到着するだろう。父さんの加護 (動物除け)のお陰で何事もなく0地点へと到着した俺たちは、作戦通りに三手に分かれることになった。
ギリギリまで父さんに “油断するな、両足は地に立たせろ!” と言われた。耳にタコができるくらい聞かされた言葉だが、俺は改めてその言葉を胸に刻んだ。
国の将来を懸けた作戦なんだ、失敗は許されない。今こうしてる間にも、国ではレヴェナントとボル達が戦っている。あいつらに恥じない働きを、俺もしなければならないんだ。
俺の目的地は、僅かな木が生える山岳地帯のようだ。見晴らしもよく、気さえ抜かなければ動物に襲われることもないだろう。俺は作戦開始前に渡された腕輪を確認する。変わらず2人の魔力は表示されており、ほっと安堵する。
そして、邪龍について思案する。一体どんな邪悪な姿をしていて、どんな大きさなのだろうか。龍という位だから、火は吹くだろうし、空も飛ぶだろう。……そういえば、先遣隊が棲家を発見してくれたらしいけど、姿形については聞いてなかったな。どんな姿なのか分かれば、発見もしやすいと思うんだけど。
あれこれ考えながらひたすら進んでいると、俺は目的地である山岳地帯へと到着していた。
「…………あれ?」
何故かは分からない。だが、俺は妙な懐かしさを感じていた。初めてきたはずなのに、何故かこの山岳地帯に見覚えを感じたのだ。まるで導かれるかのように足が動き出す。山を登り、一箇所だけ木の生い茂った場所へと歩いていく。
「確かこっちに……」
ボソリと呟いた自分の言葉に、確信などない。何があるのかも分からない。でも、何かがあると感じ、その小さな森へ歩いていく。
ここにだけ木が生い茂っている……そんな違和感を感じながら、獣道なのか人が通れる道を選び、森の中へと入っていく。
どれ位歩いただろうか。半ば無意識に近い状態で歩き続け、俺は少し開けた場所に出た。そしてそこには、大自然には不釣り合いな物が存在していた。
「────家?」
そう、それは家だった。木で作られた家──その表面には苔や蔦が絡みつき、人の気配もしない。だが、外には木で作られた遊具なども存在しており、間違いなく人が住んでいたのだろう。
「なんでこんな所に家が……人が住んでたのか?」
心の中で思ったことを、改めて口にする。だが、当たり前だがそれに答えてくれる者はいない。小鳥の囀りが聞こえてくるのみだ。俺は、苔むした馬を模したであろう遊具に手を添える。
……懐かしい。やっぱり俺はここを知っている?
そう思い、俺はその家を探るべく玄関に向かって歩き出す……その時だった────
突如、風が辺りに吹き渡り、木々を揺らし葉を巻き上げる。俺は突然の風に驚き、腕で顔を防御する。
(なんだッ!?)
木々のざわめきが響く中、俺は何かの気配を感じて後ろを振り返った。
────そこには、黄金の鱗を輝かせる1匹の龍の姿があった。
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