第9話 邪龍との戦い

「なッ────」


 突如目の前に現れた龍に、俺は驚き後ずさった。


 でかい……恐らく全長20メートルは優に超えるその巨体が、この狭い空間にどうやって出現したのか。そして、邪龍と言うのも憚られるその黄金の鱗に、俺は息を呑んだ。


 だがその龍は唸り声を上げ、同じく黄金に輝く瞳を俺に定め、口からは灼熱を思わせる炎をチラつかせている。明らかに俺に対して敵意を向けている。間違いない……こいつが邪龍だ。


 俺はすぐさま、腕輪に備えられたボタンを力強く押した。ピピッという音が腕輪から鳴る。恐らくこれで、父さんとサンディス団長に邪龍発見の合図が送られたはずだ。


 2人が今どこにいるのかは、方角は分かるが距離は分からない。だがサンディス団長なら、恐らく数分のうちにここまで駆けつけてくれるはずだ。


 腕輪の音に反応したのか、邪龍が咆哮を轟かせる。木々がざわめき、俺の身体にビリビリとした衝撃が走る。大木のような腕を振り上げ、その鋭い鉤爪を俺に振り下ろす。だが、その巨体ゆえなのか、緩慢な攻撃を危なげなく躱し、邪龍の背後に回り込む。

 


(何だこいつ……随分とろいな)


 ズンズンと音を響かせ方向転換する邪龍。相変わらず唸り声を立てながら、俺を睨みつけている。


 

(団長を待つまでもない……これなら俺でも殺れる)


 そう思い、俺は邪龍の身体を確認する。その胸には、虹色に輝くコアのような物が存在しており、ただならぬ魔力を放っていた。


 

(おいおい、これ見よがしの弱点じゃないか。動きもとろい……攻撃を躱し、懐に潜り込んでから【地天流】を叩き込んでやる!)


 俺が救国の英雄になる──そんな言葉が頭を過ぎる。俺は意を決して邪龍に向かって走り出した。邪龍は再び腕を振り上げるが、そんな攻撃に当たるほど、俺は鈍重じゃない。


 邪龍の攻撃を余裕をもって躱した俺は、虹色のコアが輝く胸元へ潜り込み、両足を力強く地面に踏みつけた。大地に流れる地脈の力を、自身の魔力と絡め吸収していく。その七色の魔力が両足から俺の身体へと流れ込み、拳に集まっていく。


 

「はあぁッ!!」


 気合いと共に、俺は拳で邪龍のコアを打ち抜く。俺の拳によってコアはひび割れ、やがて崩れ落ちた。邪龍の断末魔の叫びに呼応するように、コアから勢いよく魔力が噴き出してくる。


 その魔力が、俺の身体へと入り込んでくる。その温かく、優しささえ感じる魔力が、俺の五体を満たしていく。


 

(なんだ!?)


 ────邪竜と目があった。その目は慈しむような……懺悔するかのような悲しみを帯びた目だった。俺はその目から視線を逸らすことができず、ただ見つめ続けた。


 

(どうして……?)


 俺の頭の中で疑問が浮かぶ。邪龍がなぜこんなに簡単に倒されたのか、そしてその目の意味は何なのか。だがその答えを見つける間もなく、邪龍が目を閉じた時──俺の視界は白い世界に包まれた。

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