第28話 2人のこれから

 長い──長い戦いだった。吸って吸われて……どれほど時間がかかっただろう。


 坑道の方では轟音が響き渡り、とてつもない怪物が出現して……それでも僕は休まずにツボの魔力を吸い続けて、やっと停止させることができた。ドロドロと天に昇っていた瘴気は止み、徐々に光が差し込み始めている。




「タツーーーーー!!」


 

 シンの声が聞こえる。魔力を吸いすぎてゲップが出そうになりながらも、僕は大きくその声のする方へと叫ぶ。


 

「シーーン!! ここーー!!」


 恐らく聞こえたのだろう、シンがこちらに向かってきている。地鳴りが鳴り響いていた村は、いつの間にか静寂が広がっていた。お互いの声がよく聞こえる。



「タツ!!」

 

 シンが展望台の上にいる僕の元へと慌ててやって来た。



「やぁシン、お疲れ様」

「お疲れ……って、ここで何してたんだ?」


 僕は静かになったツボを指差す。



「瘴気雲を出してたツボと戦ってたんだよ。いやぁ、凄まじい激戦だったけど、もう大丈夫だと思う」

「そ、そうか……俺はてっきり何かあったのかと」


 

 シンがホッと息を吐き、額の汗を拭う。激戦ぶりをアピールしたんだけど、何か思ってた反応と違う。もっと褒めてもらえると思ってた。


 

「で、どうする? 止まってるようだけど、一応割っとくか?」

「そうだね……再起動したら面倒だもんね」



 僕が頷くと、シンがツボの前に立ち、嵌め込まれた宝石部分に蹴りを放つ。僕の時とは違い、あっさりとツボは割れ、チリとなって消えてしまった。


 うーん、悔しいです。



「これでよし、と」

「全部……終わったのかな?」


 辺りを見回してみるけど、どこでも戦闘は行われていない。出現した化物もいなくなり、村全体を日光が照らしてくれている。



「そうみたいだな。とりあえず、カザンのところへ行こう」

「うん」



 僕はシンと共に、展望台を下り、カザンさんのいる方向へと歩き出す。程なくして、カザンさんの姿が見えたので名前を呼びながら手を振る。それに気付いたカザンさんが、手をあげながらこっちに歩いてくる。



「いよぉ、終わったみたいだな」

「あんな化け物を倒すとは、さすがだな」


「へッ、当たり前……と言いたいとこだが、倒したのは俺じゃねぇ。まぁ詳しい話は後でする」


 ……そういえば、カザンさんの他に2人ほどいたような。自分の事に必死であまり見る余裕はなかったけど。


 

「後始末はこの国の人間に任せて、俺たちは引き上げるぜ」

「え、もう行っちゃうの?」


「あぁ、本国ではまだ仲間が戦争中なんでな。1日でも早く帰りたいんだ」

「そうか。確か、“ライヴィア王国” だったよな?」


「そうだ。ところでお前ら……これからどうするんだ?」

「え?」

「どうするって……」


 僕とシンは目を合わせる。特に考えてなかったけど、村がこんな状態になっちゃったんだ。コウタ達を弔ったり、復興を手伝ったり────




「単刀直入に言う。俺と一緒に来ないか?」


 

 その言葉に、僕もシンも “え!?” と言う声が飛び出た。正直思ってもいなかった言葉だ。困惑する僕達にカザンさんは言葉を続ける。


 

「と言うより、来てもらわないと困る。俺も……村の連中もな」

「村の連中が?」


 

 カザンさんが周りを見渡す。誰もいないのを確認するかのように。


 

「言い難い事だが、ヴィクター達がこの村に攻め入った理由はお前達だ」

「お、俺達が?」

 

「そうだ。それが全てじゃねぇが、お前達を探していたのは確かだ」



 カザンさんの言葉に声が出ない。


 ……僕達のせいでこの村が襲われた? 僕達のせいで、コウタ達は殺されたの?



「言っとくが、お前達に罪はない。お前達もこの村も、巻き込まれただけに過ぎないんだからな」

「……なぁ、カザン。お前達はこの村にを取りに来たんだろう? それって何なんだ?」


 

 シンの質問に、カザンさんが少し眉をひそませる。


 

「誰かに聞いたのか? ……まぁ隠す必要もない。俺達が来たのはお前達に会うためだ」

「…………」


 

「まぁ色々あって戦う羽目になったがな。お前たちの事を知るには丁度よかったぜ」

「なぁ、カザン。お前は俺たちの事を何か知っているのか?」


「知らない……と言えば嘘になる。だが会うのは初めてだ」

「どういうことだよ」


「悪いが、これ以上は俺からは何も言えん。ただ言えるのは、このままお前達がこの村にいれば、再び奴らが来るってことだけだ」

「……それが本当だとして、俺たちがお前の国に行ったらどうなる?」


「奴らの標的が、俺たちの本拠地 “パラディオン” になるだろうな」

「じゃあ……どこにも行けないじゃないかよ……」



 泣きそうに俯くシンに、カザンさんがビシリと親指を立てて言い放つ。


 

「俺を誰だと思ってるんだ? 俺は “全滅のカザン“ 様だぜッ。お前達に寄ってくる敵なんざ一網打尽にしてやるよ」


 その頼もしすぎる言葉に、シンが顔を上げる。


 

「それによぉ、敵には既に言ってあるんだ。お前達はパラディオンにいるってよ」

「なッ……何勝手なこと言ってんだ!」


「へッ。で、どうする?」

「シン……どうする?」


 

 僕達の問いに、シンがため息を吐く。


 

「どうするも何も……行くしかないじゃないかよ」


 呆れたように笑いながら答えるシンの言葉に、カザンさんがニヤリと笑い返す。



「よし、じゃあ行くとするか」

「ま、待ってくれ。村の人達に話したいことがあるんだ……」


「シン、さっきも言ったがお前達が気に病む必要はないんだぜ?」

「いや……世話になったんだ。話だけでもさせてほしい」


 シンが真っ直ぐカザンさんに言い放つ。そのシンの覚悟を察したのか、カザンさんは頭を掻きながら振り返る。



「分かった。村の外にいるから、終わったら来てくれよ」

「あぁ、ありがとな」


 カザンさんはヒラヒラと手を振りながら歩き去って行った。



「行こう、タツ」

「うん」


 歩き出したシンに付いて、僕も歩き出す。

 向かう先は東門。村のみんなが続々と戻ってきている。


 この3日で、イズモ村が受けた被害は計り知れない。

 その責を……シンは背負おうとしている。


 今までのシンなら、僕を待たせて自分だけで話をしに行っただろう。でもシンは、僕に "行こう" と言ってくれた。

 


 不謹慎かもしれないけど──僕にはそれがとても嬉しかった。

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