第23話 龍乃神 VS 鬼神火山

 赤く染まった世界────熱風吹き荒れる灼熱地獄の中で、鬼と相対する老人と子供。鬼神と化したカザンの戦斧を、その老人は生身の腕で受け止めていた。


 いや、生身ではない。その腕の表面には金色に輝く鱗が、傷つくことなく斧を受け止めている。時間にして1秒にも満たない僅かな時間。だが両者の力の拮抗は、まるで永遠とも錯覚してしまう程にせめぎ合っていた。


 その永遠を破壊するように、カザンの戦斧の刃が発光する。次の瞬間、轟音と共に爆発が両者の間で発生する。弾き飛ばされる両者────巻き上がる粉塵に3人の姿は確認できない。


 カザンが粉塵を振り払い姿を現す。その深紅の鎧は所々が焼け焦げている。だがすぐにその傷は消え去り、再び血のような光沢を持った鎧へと姿を戻す。


 

 落ち着きつつある粉塵の中から、金色の光が漏れ出す。そこには老人と子供の姿は無かった。

 


 全身に────顔に至るまでを黄金の鎧に身を包み、光り輝く翼を生やした、龍の如き戦士が1人佇んでいた。



 2人のあまりの変貌に、動きを止めるカザン。……鬼の顔に変化はない。だが熱気による陽炎のせいか、その顔は笑っているように見える。


 

「レガリア……」

 


 魂には型というものがあり、型に適合する物質・概念というものが存在する。それは火であったり水であったり、感情であったりと様々で、適合するものを持たない者も存在する。


 その自分の魂に適合するモノのことを、共鳴魔力レゾンという。


 そしてカザンが口にしたのは、玉璽レガリアと呼ばれる神から与えられし力、王足り得る者だけが持つことが出来る魂を具現化した武具、共鳴魔力の結晶。


 常人ならばその重圧に圧倒され、戦うことすら本能が拒否するだろう武具────

 


「へッ、おもしれぇ」

 

 だが、カザンには全く怯んだ様子はない。なぜならば、カザンが手にする戦斧・身に纏う深紅の鎧もまた、レガリアなのだから。



 再び間合いを詰めるカザン、一撃一撃が必殺の威力を持った攻撃……それを幾度となく繰り出す。


 繰り出される度に爆発を伴う斬撃を、その戦士は避けることなく真っ向から受け止めていた。戦士の鎧とカザンの戦斧が合わさる度に、耳をつんざく衝突音と火花が散らばる。そして火花が消え去る刹那に、カザンの戦斧が爆発を起こす。


 幾度目かの爆発で、爆煙に紛れて2人は距離を取る。


 飛び退きざま戦士が放った光を纏いし蹴りが、巨大な龍の鉤爪の様に地面とカザンを抉り取る。三本の巨大な溝が地面に、そして山に穿たれる。だが、カザンの鎧には引っ掻き傷程度の跡しか残せていない。


 お返しと言わんばかりに、カザンのレガリアに嵌め込まれた紅玉────【感情炉 怒涛核どとうかく】が輝き出す。

 カザンの周りの地面から、真っ赤に燃え上がる岩石弾が空中へと飛び上がる。そして標的を戦士へと変え、隕石の如く頭上に降り注ぐ。


 その攻撃を難なく躱す戦士。尋常ではない熱を持った岩石弾が着弾した地面には、底が見えないほどの大きな穴が開いている。

 回避を終え、カザンへと視線を戻す戦士。だが、カザンは既に次の攻撃の準備を始めていた。


 

 腰を深く落とし、肩に担がれたレガリアが、怒涛核が激しく発光している。地面が揺れている……そう錯覚するほどの力が、戦士の身体を強烈に叩き始める。その異常事態に、戦士が初めて防御の構えを取る。



 

 高まっていく熱、その力がピークに達した時……世界は一瞬無音になった────



 

 振り下ろされるカザンのレガリア────閃光が世界を包む。大地が轟音と共に激しく揺れ動き、炎の柱が瘴気雲を突き抜ける。

 破壊のエネルギーがカザン自身を、戦士を……そしてそれを安全圏から見張っていた虫2匹を、一瞬にして飲み込んでいった。




 

 ────光が収まり、爆発の中心が見えてくる。中心は意外にもクリアで、その圧倒的な爆発で全てが吹き飛んだ様子が見て取れる。

 

 そして新たにできた巨大なクレーターの中心には……ボロボロにひび割れた鎧のカザンが、1人立っているだけだった。

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