第2話 もう1人の目覚め
「────ここは?」
目を開けると……私はテントの中で横になっていた。寝ぼけ眼に周りを見渡すが、私以外には積み上げられた荷物しかない。頭部に違和感を感じ、手で探ってみる。
……私の頭部には包帯が巻き付けられている。不慣れな感じで巻きつけられたその包帯を、私はゆっくりとほどいていく。こめかみに、固まった血が少しこびり付いている。でも、既に傷口らしい傷は感じられない。
こめかみに付いた血を指で触りながら、未だぼんやりした頭で考える────
「私……なんでこんな所にいるんだっけ────」
その瞬間、昨夜の出来事がフラッシュバックの様に脳裏をよぎる。
燃える村、両親の叫び声、男達の悪意に満ちた目、響く凶悪な笑い声……。
「────────ッッ」
冷たい汗が額から流れ、指先が震える。うまく呼吸をすることが出来ない。私は何が現実で、何が悪夢なのかの区別もつかなくなっていた。私にかけられた布を強く掴む。手に感じるその質感が、これは現実なんだと教えてくれる。
私は布を剥ぎ取り、自分の身体を確かめる。……目立った暴行の跡はない。でも、頭に付いた血の跡が証明してる。
心臓がまるで警告するかの様に高鳴る。口から飛び出しそうな激しい鼓動に、吐き気がしてくる。
(ここはまさか……彼らの?)
気絶した私は、あの男達に連れてこられたのだろうか? 両親を殺した、あの男達に……。
私は立ち上がり、積み上げられた荷物を探り始めた。
(何か武器になるものは……)
でも、荷物の中からは包帯やガーゼ、布などしかなかった。私は武器を諦め、外に出ようとする。
(……誰か来るッ!?)
A・Sは、他者の魔力に同調することで可能な “気配察知“ ──そして “気配遮断” が常人よりも遥かに長けている。私も例外ではなく、外からこちらに近づいてくる2人の気配を感じ取っていた。
私は息を殺し、両手で口を抑え、入り口近くの荷物へと身を潜ませた。
(────お願いッ、入って来ないで…………ッッ)
─────────────────────
「おはようございます、オウガ様。そんなもの持ってどこに行くんです?」
「おはよう、オルメンタ。パン粥だ、あの少女に持って行くところだ」
「えッ! オウガ様が作ったんですか??」
「いや……俺は料理はちょっと……。ガウロンに作ってもらった」
視線を逸らす白銀の騎士……フルフェイスの兜からその表情は分からないが、少し落ち込んで見える。
「そ、そうなんですね。あッ、私が運びます!」
オルメンタがオウガの持つ盆を受け取ろうとする。
「いや、大丈夫だ。昨日はお前達に任せきりだったからな。これ位はさせてくれ」
「そうですか……あの子の容態はどうでした?」
歩き出したオウガの後をオルメンタが付いていく。
「俺は医者じゃないから詳しいことは言えないが……応急手当てしようと思ったら傷が治りかけててな。結構な怪我だと思ったんだが、とりあえず消毒して包帯を巻いておいた。まぁ命に別条はなさそうだ」
「お、オウガ様が包帯を巻いたんですか??」
「……俺だって包帯位巻けるぞ?」
「え、あ……いや! そういう意味じゃなくて!! 私達のトップが見知らぬ少女にそんなに献身的なのが……気になって……」
「この戦争を引き起こしたのは俺だ……俺に責任がある」
「…………。あッ、そういえば傷が治りかけてたって」
「あぁ、常人では考えられないスピードでな」
「あの子、A・Sなんですか?」
「多分な」
「結局、生き残ったのはあの子だけですか……」
2人は少女を寝かしている幕舎の前へとやって来た。オウガが幕を上げ中へと入るが────
「……あれ?」
中央に引いた布団の上に、少女の姿は無い。
「どうしました?」
「いや、あの子の姿が──」
後ろにいるオルメンタに気を取られたその時だった。荷物の脇から影が飛び出し、オウガの腰に下げられた剣を抜き去る。
「来ないでッ……来ないでください!!」
栗毛の少女が、奪い取った剣をオウガに向ける。目には涙を浮かべ、その華奢な腕は震えている。
────だがすぐに少女は、まるで雷に打たれたかのように身体を硬直させ、呆然と剣を見つめ始めた。
「貴様ッッ!」
オルメンタが剣に手をかけるが、オウガが静かにそれを手で制した。
「驚いたな、俺の “レガリア” を持てるとは。やっぱり君はA・Sなんだね? それとも……」
「ご……ごめんなさい……私…………」
少女が大粒の涙を流しながら、剣をオウガへと手渡す。
「この剣を持つことができた……それなら分かったはずだ。俺達が敵ではないことが」
少女から剣を受け取り、鞘へと剣を戻す。
「オルメンタ、いつまで剣に手をかけてるんだ?」
「へっ? あ……はい!!」
口を開け2人の様子を見ていたオルメンタが、慌てて剣から手を離す。
「名前を聞いてもいいかな?」
「────フラウエル、です」
「そうか、フラウエル。俺はオウガ、こっちの怖いお姉さんがオルメンタだ」
「ちょ、ちょっとオウガ様!」
「食事を持ってきたんだ……食べれそうかい?」
「…………はい」
少女の顔に、僅かに笑顔が戻った。
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