14話 私はカウンセラーじゃないっての

 土曜日、今日もまたスミスさんは部屋にいる。


「スミスさん、まだ家にいるの?」

「ハイ、」


 スミスさんが一言だけなんて珍しいなと思う。

 正直、一時の感情で始めた気まぐれだと思っていたのに、こんなに関わる事になるとは運が悪い。てっきり最初の一週間で飽きて辞めるものだと思っていた。


「スミスさん、まだ勉強終わんないの?

 もう3時間もこれじゃ流石に飽きる」

「マダ」


 何故か彼女の癖である口調が発動していない。

 それにまた一言、なんだか今日のスミスさんは変だ。


「私の宿題作る労力も考えてよ」

「………」


 今度は無視。私もするけど、スミスさんがやると気持ち悪い。何より彼女に『無視』というワードは似合わないから。


「今日のスミスさん、なんか変だよ?」

「………」


 いつものスミスさんなら言い返してくるのに……、なんて少し寂しく思いながら、ただ絵を眺めているだけの漫画のページをめくる。


「スミスさんのバカ」

「ツ………」


 帰ってきたのは小さな舌打ちだけ。


 どうやらよっぽどご立腹らしい。こんなに機嫌の悪いスミスさんは見たことがない。


「あのさ、何があったかは知らないけど、それをこの部屋に持ち込まないでくれる?

 常識的に考えてスミスさんの行動は不適切」

「ナニモ知らないクセに、デス………」


 今日に関してみれば流石に私はこんな態度をされる筋合いはない。たとえ命令だとしても勉強を教えてくれ、と頼んできたのはそっちだし、なおさらだ。


 これはもう話しても意味がない、と会話を諦めて私はほぼ途中からというような感じで漫画を読みだした。




「ハイ、」


 しばらくして、スミスさんはグラフや式が数ページにもわたって書かれたノートを渡してきた。


 ほら、言わんこっちゃない。こりゃ1時間以上確定コースだ。


「時間かかるけど文句言わないでよ」

「ハイ」


 あまり乗り気ではないけれど秘密くさりがある以上は従うしかない、と諦めて小学生の時買ってもらった小さな椅子に腰掛ける。


 平和な学校生活を望んでいただけのはずなのに、私はなんでこんな面倒くさい事にまきこまれているんだろう?


「ま、考えるだけ無駄か」

「………」


 まだ機嫌が悪いのか、それとも私の独り言だと分かっていて無視しているのか、定かではないけれど、ただ一つ分かるのは、スミスさんは何かを忘れたいがために今日、私の家に来たということだ。


「スミスさん、今日は命令しないの?」

「命令をするのはワタシデス、天音に『命令して』と言われてするわけがナイデショウ」

「あっそ」


 こっちが下手に出ていればいい気になって……私までイライラしてくる。

 もう早く終わらせて追い出そう、このままじゃ私までおかしくなってしまいそうだ。


「やっぱり命令シマス。

 天音は今から物になってクダサイ、喋らず、感情のない人形のように」

「作題しなきゃだから早く終わらせてよ」


 思い直したように言って、スミスさんは後ろから抱きつくような体勢で私の耳元に口を近づけた。


 さっそく文句を言いたいところだが命令だから仕方がない。


「天音は心底どうでもいいかもしれませんが昨日、喧嘩をシマシタ」


 なるほど、それなら確かにこれまでの態度に説明がつく。でも、少し気になるのはスミスさんがはたして、喧嘩なんてするのか、ということだ。

 私の前だとダメな人間になってしまうけれど、学校でのスミスさんは比較的温厚で怒っているところどころか、イライラしている素振りさえも見たことがない。


「相手はバレー部の友人デ、発端は友人からの注意デシタ。

 私の不注意を指摘してくれたのにもカカワラズ、その時の私はスポーツ事、という事もあって、少し強い口調で言い返してシマイマシタ」


 バスケ部の友人というと十文字さんに命令されて忠告した後にすれ違った子だろうか?


「私は最低な人間デス。私が全部悪いのに変な意地でアヤマレナイし、今日は勉強を教えてもらう為にキタノニ、やる事といえば天音にアタルコト。本当に私、人間としてオワッテマス。

 天音、本当にスミマセンデシタ……」


 そう言うと、スミスさんは耳元から顔を離して再び漫画を読み始めた。


 今の話を聞く限り、スミスさんがそこまで思い詰める必要はないと思う。

 スミスさんはマイルドに言っているけれど、その友人の口調が強すぎたんじゃないだろうか?

 そうじゃないとスミスさんが言い返す理由が見つからない。


「ねぇ、スミスさんはこれからどうしたいの?」

「分からないデス。でも、今回は私が悪いのでアヤマリマス」


 まぁ、なんというかスミスさんらしい考え方だ。

 でもそれじゃまた同じ事の繰り返し、謝ってばかりじゃ現状は何も変わらない。


「私は部外者だし口出しする権利はないけど、私の意見としては、仲直りをして一回話し合うべきだと思う。そのやり方じゃまたスミスさんが私に当たる日がくる」

「でも、今回の事は全部私がワルイノデ……」


 スミスさん、喧嘩した事とか無いんだろうか?

 仲良くなるのはこんなにも得意なのに喧嘩をすると急に不器用になって、人との距離感が分からなくなる。本当、手のかかる子だ。


「未練たらたらの顔でよく言うね。

 正直言って、今のスミスさんの顔は二度と見たくない」

「そ、ソンナハズ……」


 そう言ってスミスさんは自分の顔を触って確かめる。


 私もその顔は知っている、私が物心ついた時にパパがしていた顔だ。きっと、お母さんの事で引きづっていたんだろう。


「次、そんな顔で私の家に来たら入れないから」

「わ、ワカリマシタ、自分に正直になって本心をブツケテキマス」


 そう言った顔は少し前を向いていて、これなら大丈夫だろうと思えた。


「うん、スミスさんはそんな顔が似合ってる」


 スミスさんよりも不器用な私が彼女を応援するのは、これが限界だった。




――――――――――――――――――――――――――


どうもこんにちは、イセです。

この度は最後まで読んでいただきありがとうございました。


なんか、この話は結構後から気づいて全部書き直したので、次の話との繋がりが見えないと思います……すいません


次話は『仮装は人を変えるらしい』です。

是非明日も立ち寄っていただけると嬉しい限りです。


最後に、★、♡、コメント、ブックマークお願いします。

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