不思議な関係性

13話 カノジョは何者?

 まさか、昨日の美術部であんな事をされるとは思っていなかった。


 今、昨日のことを客観視すると、私もスミスさんもイカれていたと思う。私自身、嫌悪感はあった、けれどそれが彼女を突き放すまで至らなかった。命令だからしょうがない、そんな思考が脳裏にあって抵抗を諦めていたのだ。


「天音、朝からよくボーっとしてるところ見るけど、どうしたの?」

「ん、いや何でも無い」


 こうして桜が来てくれているのに、何故スミスさんばかり考えてしまうのだろう。別に友達でもないのに……。


「それより、最近裁縫部の先輩とはどうなの?」

「せ、先輩!?天音、ななななんで先輩の事なんて聞くの?」


 私は感のいい桜から逃れるため、彼女が好きであろう裁縫部の先輩の話題へと舵を切る。


 彼女は驚いているが、今の動揺といい彼女が例の先輩を好いているのは明白だ。


「いや、だっていつも先輩の話してるし」

「……せ、先輩だよね、この前なんかは妹さんにあげるって言ってクマサンのぬいぐるみ作ってたよ」

「クマサンか、次は私も作ってもらおうかな」


 私がそう言うと桜は『私も頼みたいのに』みたいな目で見てくる。でも桜はただの後輩、私を止める権利はない。


「嘘だよ、わざわざ親友の好きな人を奪うような事はしない」

「す、好きな人なんて、ひひひ一言も言ってないよ!!」


 少しからかい過ぎたかもしれない、顔が燃えそうなぐらい真っ赤になっている。恥ずかしい思いをしたからか桜は黙ってしまうし、美術部という事もあり昨日の事が鮮明に思い起こされる。


 ザラザラとして気持ち悪い舌が耳の骨格に沿って這ってゆく感覚。先ず耳裏を丁寧に舐められた。耳上から耳たぶまでゆっくりと、それも何度もだ。


 もちろん絵になんて集中できるわけもなく頭は、くすぐったいと恥ずかしいで埋め尽くされていた。一応スミスさんを拒否したけれど全く効力をなさなかった。


「天音、からかったでしょ」

「うん、」


 少しして感情の整理が追いついたのか桜がジト目で私を見ていた。

 不思議とスミスさんに意地悪をした時のような罪悪感はない、やはりまだスミスさんを他人だと決めつけているらしい。そんな思いに私はホッとしていた。


 友達なんて自然界の群れに感情が加わったくらいのものだ。私は作る友達を選んでいる。なるべく大人しくて嫌いじゃない、そんな人を友達にしている。だからスミスさんみたいな人が友達だと、なんというか私が崩れていく。


「もー、天音は意地悪なんだから」

「だって桜の反応が面白いから」

「そういうところだよ」


 桜はそう言って頬を膨らませる。どうやら、かなりご立腹のようだ。私に意地悪をする時のスミスさんも、こんな気持ちなんだろうか?

 そんな思考が怒っている桜を前にして起きる私というのは少々イカれているのかもしれない。


「桜は自分といる友達が違う友達のことを考えていたらどう思う?」

「いや、特に何も思わないけど」

「それが友達までいかない知り合いだとしても?」


 私は正常なのかを桜に判断してもらおうと質問を投げかける。彼女は思ったよりも悩んでいるようで考える人のようなポーズをとった。


「別に考えるのは自由だし私にどうこう言う権利はないと思うよ」

「やっぱそうだよね」


 桜は先程とは打って変わって真面目な顔でそういった。


 やはり私は正常だ。特におかしい所はない。


「あっ、そういえばこの前の裁縫部でマフラー作ってみたんだけど天音に似合うかなぁ」

「私のために作ったの?」


 桜はコクっと頷いて朝から持っていた紙袋から水色のマフラーを取り出した。


 よく見ると桜の手に絆創膏が貼られていたり皮が剥けていたりと努力の証拠が伺える。貰えるのは嬉しいけれど、私じゃなくて先輩にあげればいいのに、と思う。


「うん、やっぱり水色にして良かった。天音にピッタリの色合いだよ」

「ありがと、大切に使う」


 暖房の効きすぎたこの美術部でつけていると暑いが外では凄く温かいんだろう。糸が何重にも編んである。


 私は貰ったマフラーを隣の机に置いて再び絵を描き始める。


「ジャジャーン、実は私のもあるんだ」

「じゃあ、お揃いだね」


 そう言って桜はピンク色のマフラーを取り出して巻いて見せる。凄く似合っている。


 次に描くときはマフラー付き桜を描こうと思う。それぐらい彼女のマフラー姿はおしゃれだ。


「あれ?色も塗るの?」

「駄目だった?」

「いや、この前までは塗ってなかったから」


 先週は塗っていなかっただろうか?

 スミスさんのを塗っていたから桜も塗っているものだと思っていた。


 桜は興味ありげに私の作品を覗き込んでくる。桜のことだ、何か感のいいことを言いそうで怖い。


「練習はしたけど失敗したらごめん」

「いいよ。もしそれが失敗していようと、いまいと私は天音の絵が好きだから関係ないし」


 なんだろう、桜にはすぐに謝れるのにスミスさんに謝るのはなんか癪に障る。さっき私が思った、『スミスさんは他人』というのに当てはまらない、異例の事態だ。


 じゃあ私と彼女、スミスさんとの関係性は何なのだろうか?


 私の思考は再びスミスさんに支配されてイライラする。本当に彼女は何なのだろうか?






――――――――――――――――――――――――――


どうもこんにちは、イセです。

今回もここまで読んでいただきありがとうございました。


天音の頭からスミスさんが離れない、これはもう意識しているのでは?と、イセは思います。


さて、次話は『私はカウンセラーじゃないっての』です。

明日も立ち寄っていただけると嬉しいです。


最後に、『天音・桜』引っ付き希望の方、♡、★、コメント、ブックマークお願いします。

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