12話 美術部で…

「もうちょっと横向いて」


 火曜日、天音はルール通り私を呼び出して絵を描いていた。


 もうかれこれ1時間ほど絵を描いているのに集中力が保っているのが不思議でならない。


「もうちょい右」

「コウデスカ?」

「そこ」


 天音は新しくしたであろうスケッチブックに色を塗っていくが、彼女のイメージに沿わないのか、天音によって美化された私が描かれている。


 特に嫌な感じはしない、彼女は自分の理想を押し付けようともしないし、なんというか分をわきまえている気がする。そういう所が彼女といる利点だと思う。


「天音はキカイのようデス」

「そ、」


 天音はどうでもいいのか簡潔に気のない返事をする。


 そういうところだと思う。何を言われても表情一つ変えずに集中し続けているところが機械と思わせるのだ。


「それを言うならスミスさんだって機械と同じでしょ?」

「ナゼデスカ?」


 天音は少し冷たい雰囲気を纏って私に抗議してくる。こういう天音は嫌いだ。いつもの無表情も嫌いだけれど、この天音は私を傷つける大きな棘を持っている。


「そもそも、人間と機械の違いって生きてるか否かの違いしかないと思うよ。だって今じゃ自分で考えられるロボットだって存在しているわけだし人間も機械と同じ」

「でも、人間には心がアリマス」


 人間は必ずしも合理的な判断は出来ないし、その意味では人間と機械は違うと思う。


「でもその心だって結局は脳の働きだよ」

「それはソウデスガ…」


 天音は屁理屈のように言葉を並べている。やはり天音は嫌いだ。なんというか人を傷つけることに抵抗がないと言うか、終わった後で後悔するたちだ。


「まぁ、スミスさんがどう思うかなんてどうでもいいし、興味はないよ」

「ソウデスカ」


 私は不機嫌に返事をして答える。自分から話題提示をしてきたのに自分勝手なものだ。こういうのは楽しくない。


「天音、私の写真を取ってしばらくそれで色の確認をシテイテクダサイ」

「やだ」


 言うと思っていた。けれど私には脅し文句があるから問題はない。


「それならバラシマス」

「はぁ、わかった」


 そういうと、天音は私の写真を取って黙々と色を塗り始める。


「ん、やめて」

「ヤレフ」


 私が天音の耳を舐めると体をビクリと震わせた。耳裏を輪郭に沿って上から下まで丁寧に舐めていって耳たぶまでいくと来た道を戻る、なんてことを繰り返している。


 やっぱり天音に命令するのは楽しいです。


「ん、」


 今のように天音が声を上げるたびに私の心は満足感に満ちてゆく。『耳を舐める』、特にエッチなこともしていないのにそれぐらいの背徳感がある行為だ。


 もしかしたら校内というのがここまで私を楽しませているのかもしれない。


「や、やめ…」


 ふいに耳の内側を舐めてみると裏側よりも敏感なのか天音は体をよじらせてくすぐったさに悶えている。


 天音はなんでこう良い反応をするのでしょうか?

 頭では分かっていても辞められないではないですか。


「そこは…ん、」


 私が耳たぶを舐めるとこれまでで一番良い反応が返ってくる。だから私はそこばかり狙って攻めてしまう。


 天音はどう思っているのでしょうか?

 命令だから仕方がないとでも思っているのか、反抗しても無駄だと諦めているのか、それは定かでは無いが彼女は従順に従っている。


 それから少しして、慣れたのか我慢しているのか、天音は再びいつもの無表情に戻ってつまらなくなってしまった。


「ちょっと、スミスさん痛い」


 私が頭をフル回転させた結果、『噛む』という結論に至った。なんせ、これ以上の事に手を出せば問題になるだろうし立場が逆転することは避けたい、なんて理性が働いたからだ。


「どうレフカ?」


 私は耳についた歯型に沿って舐めながら問う。天音は前を向いているし上からしか表情が見て取れないがきっと心底嫌そうな顔をしていることだろう。


「気持ち悪い 」

「言うとオモイマシタ」


 私が一旦彼女の耳から口を離すと天音は大きなため息をついて毒を吐いた。


 天音は珍しく本当に怒っているようでいつも真っ白な顔が微量な赤を含んでいる。


「怒るよ」


 私が再び舐め始めると一瞬描いていた筆が止まって空間が冷え切ったような声で呟いた。でも、私は冒険をしてみたくて彼女の耳を舐め続けた。


「ツマラナイです」

「そ、」


 あれからまた耳を噛んでみたりもしたけれど無反応、彼女は私を無視することに決めたのか私が諦めるまで何も言わなかった。


「満足したの?」

「十分デス!」


 何度も思うが本当に不思議だなと思う。人生でこんな事をしたのは初めてだし、生涯、天音以外にする機会も無いだろう。


 天音は開放されてさっきよりも素早い筆さばきで絵を描き上げてゆく。天音が滑らす鉛筆や筆の音は嫌いじゃない。滑らかに滑っていく音は聞いていて気持ちが良い。


「これでいい?」

「ハイ、アリガトウゴザイマス」


 天音は描き終えた絵を私に渡して帰りの準備を始める。絵には私への鬱憤を晴らすためか、これでもかと凛としたカッコイイ女性が描かれている。


「もう鐘、鳴るよ」

「ハシリマショウカ」


 下校時刻ギリギリに校門を突破する。天音は、何事も無かったかのように接してくるし今日の事は特になんでもないことなのかもしれない。


 そんな晴れやかな気持ちを表すように夕日はメラメラと燃えていた。


――――――――――――――――――――――――――


どうもこんにちわ、イセです。

今回もよんでいただきありがとうございました。


最近気づいたのですが、僕の小説って書いても情景が頭に浮かんで着ないんですよね。

これってどうすればいいのでしょう?

もしよければ誰か教えてください!


さて、次話は『カノジョは何者?』です。

是非明日も立ち寄っていただけたら嬉しく思います。


最後に、♡、★、ブックマーク、コメントお願いいたします。


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