11話 バイト

 日曜日、私は先輩についてコンビニでバイト研修をしていた。


「アリスちゃん、成長スピードスゲェな」

「アリガトウガザイマス」


 この筋肉強面イケメンの男性は店長の田中さんだ。少し怖い顔をしているがとても優しい店長さんだ。


「店長さんはここで働いてドノクライ、なんですか?」

「そうだな、俺がバイトから昇格したのが二年前位だから、十年くらいだな」


 つまり、田中さんはバイトを八年間やっていたという事になる。なんて忍耐力だろう。そんな先輩に教えてもらえるのだ、頑張らなくちゃ、と思う。


「あっ、お客さんだ、先ずは俺がやるからそれを真似してみてくれ」

「ワカリマシタ」


 それから田中さんは一連の作業を素早くこなして一人目の接客を終えた。


「さっきレジは教えたと思うから今度はアリスちゃんがやってみてくれ」

「ハイ」


 少しして昼休憩中であろうサラリーマンが顔を出した。


「「イラッシャイマセ!」」


 私は、田中さんを見習って笑顔で挨拶する。でもその男性は急いでいるのか、せかせかと商品を選んでレジに商品を持ってきた。


 買ったのは緑茶と白身魚弁当で教えて貰った通りバーコードを読み取ってゆく。


「お弁当、温めマスカ?」


 あれ?聞こえなかったのでしょうか?

 男性は私の方を見てボーっとしている。


「お兄さん、お弁当、温めマスカ?」

「ん、ああ、すまない、お願いするよ」


 男性は金縛りにでもかかってしまったかのように肩が上がって緊張しているように見える。


「君、毎週ここで働いている、ですか!?」

「まだ研修中ですけど一応日曜日は、ここにキマス」


 なにやら言葉がおかしかったが店長さんが言うにはお客さんは神様らしい。だから触らぬ神に祟りなし、と言うように指摘はしなかった。


 少し話をしているとすぐに電子レンジが終わりを告げる音が聞こえてくる。


「それじゃ、オシゴト、頑張ってクダサイ!」

「は、はい!また来きます!」


 レジに来てから終始様子がおかしかったけれど少し気が和んだら良いなと思いながら彼を見送った。


「アイツ、絶対アリスちゃんに惚れてるな」

「流石にこの一瞬じゃそんな事オモイマセンヨ」


 店長さんは意味深に頷いている。


 まぁでも確かに私が知らない人からラブレターを貰うということは一目惚れというのは珍しくないのでしょうか?


「いーや、あの目は完全に惚れてる目だ。俺もあんな時期があったなぁ〜」

「店長さん、お客さんキマシタヨ」


 私は昔を思い出して感慨深くなっている店長さんを現実に引っ張り出して接客をする。


 けれど、来るお客さんは男女いとわず顔を赤くして帰っていった。


「今日来たお客さん達、きっと来週の日曜も来るぞ?みんなアリスちゃんの美貌にメロメロだったからな!」

「流石に女性は違うと思いますけど…」


 店長さんは再び意味深な頷きをして満面の笑みを浮かべる。


 どうやら店の利益が上がるのが嬉しいみたいだ。というかもうバイトの時間を過ぎています。つい楽しくてやっていましたが流石に疲れました。


「店長さん、私、もう時間なので」

「あぁ、すまんすまん、残業代はしっかり付けるから許してくれ」


 それから私はバックヤードで私服に着替えて店を後にした。


「店長さんも優しかったですし、楽しかったデス」


 バイトのおかげで凄く充実した日曜日になった。


 私は立ち止まって兄からのLINEに返信をする。


「ええっと、『あの店では働くな、出てくる客全員顔を赤くして危ない店だ』って!?そんな事ナイデスヨ!」


 お店の事をバカにされて流石に少しムカッときたので『お兄様なんてキライです』と送った。


 というか、バイトを勧めてきたのはお兄様ですし反論する権利はないと思います!


 そう心の中で抗議しながら家に帰り風呂に入った。


「ハァ、今日は疲れマシタ」


 私はお風呂から上がったばかりの体を冷やすために瓶ジュースを持ってベランダに向う。


「ん、オイシイデスネ」


 ジュースはピーチ味で店長さんのオススメだとか。というか店長さん体格と違って可愛いものが好きなんですね。そんな事を思いながら今日の自分に満足して鼻歌を歌う。


 やっぱりこの歌は良い。元々母が歌っていたもので、いつの間にか私はこの歌が気に入っていた。


「アレ?天音、どうしたのですか?」


 隣のベランダから窓を開ける音がして少し顔を出すと、気持ちが悪そうな顔をしながら出てくる天音がいた。


 天音のことだ、きっとなにか面倒な事があったに違いない。


「いや、ただ風に当たりたくて」

「私もデス!」


 ルールは覚えている、日曜日は必要以上に関わらないこと。だから私は再び鼻歌を歌って自分と世界を隔絶した。


 ふと、天音を見ると沈みかけている夕日のおかげか少し笑っているように見える。まぁ、天音がこんな事で笑うわけがないのだが…。


 でも、彼女が笑っている所はなぜだか想像できてしまう。何でだろうか?元々笑うような性格だったのだろうか。


 わからない、分からないけれど、それでも良いと思う。だって始めから答えがあったら面白くない。私自身で天音という人間を発見してみたいのだ。




――――――――――――――――――――――――――


どうもこんにちはイセです。

今回も読んでいただきありがとうございました。


個人的にスミスの兄貴めちゃキモイと思います……ブラコンもここまでくるとヤバいですよね


次話は『美術部で…』です。

次話は皆さんが望むものを用意出来たと自負しておりますので是非お越しいただけたらと思います。


最後に、♡、ブックマーク、★、コメント、マジでお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る