15話 仮装は人を変えるらしい
「天音、来週文化祭だね」
「私には関係ないよ」
9月末、毎年テスト前に行われる文化祭。今年もこの季節がやってきた。
でも、こういうのはクラスの中心にいる十文字さんやスミスさんが頑張る行事だ。私達、カースト中位、下位は彼らの方針に合わせて動くだけ。
事実、まだスミスさんが転向してくる前、十文字さんの独断で決められたメイドカフェという出し物でクラスは大忙しだ。
はぁ、面倒くさい。
「うん、天音似合ってるよ」
「なんで、裏方までコスプレなのさ」
今、私は桜の手によってスーツ姿の男装をさせられている。本当は文化祭など参加したくない行事だが、カースト中位に留まるためには一応参加しなければならない。
というか、私の男装コスに需要なんてあるはずが無いというのに何故桜は着せたがるのか、意味がわからない。
「カッコイイですね」
「ありがと、でも私がカッコイイなんてありえないよ」
メイド服でバッチリ決まったスミスさんが話しかけてくる。
嫌味だろうか?
学校では雑な返答は出来ないし、本当に窮屈な世界だなと思う。
「事実デス。上野さんもそう思いますよネ?」
「うん、私も似合ってると思うよ」
そんなわけがない、私は十文字さんやスミスさんみたいに容姿がいい訳でも無いし、人気もない、そんな私がカッコイイだなんて言われるのはおかしい。
私は他のクラスメイトにバレない程度に二人を睨んでおいた。
「もう脱いでいい?」
「ダメ、スーツ着慣れとかないと文化祭の時苦労するのは天音なんだから」
確かにスーツで接客する時に上手い具合に動けなかったら迷惑がかかる。
去年はクレープ屋だったからこんなにも面倒なことにはならなかったけれど、今年は大変そうだ。
「分かった。私は暇だし皆の手伝いしに行くけど、桜はどうするの?」
「私は皆の丈とか調整しなきゃだから」
そう言って桜は裁縫部の人達のところへ行った。
はて、手伝うと言ったものの私はどこに行こうか。あまり陽キャのところには入りたくないし、大人しく装飾でもしていようか。
「ねぇ、君手伝ってくれる?
材料運ぶの結構大変なんだよ〜」
「良いよ」
この人は確か
篠崎さんは何の担当なんだろうか?
材料を運ぶと言っているし料理担当なのかもしれない。
案内された場所には薄力粉の袋が置いてあった。私自身、あまり力がないから、声をかけてくれたのに、薄力粉の大半を持ってもらう形になっていて申し訳ない。
「私達、今年もクレープやろうと思うの。君は他のクラスだろうから分からないと思うけど去年、私達5組はクレープやったんだよ」
「それで、今年もなんだ」
私は相当影が薄かったらしい、クラスにいた事すら覚えられていない。それに名前も君呼びだし、やはりカースト中位というのは目立たないんだな、と改めて実感できる。
「後は、カレーとオムライスかな」
「そんなにやるんだ」
「うん、今年は料理担当に立候補してくれた人が多かったからね」
なんというか、十文字さんから離れた事によって前よりも生き生きとしている気がする。しっかりした性格だし友人からの信頼も熱いんだろう。だからスミスさんと一緒にいても誰も嫌悪感を抱かないのかもしれない。
以外にも倉庫から家庭科室は近く、話しているとすぐに着いてしまった。
「木葉、その子誰?」
「さっき材料運び手伝ってくれた子で、試作品食べてもらおうと思って」
そんな事、聞いてない。それに何人もの人から見られることは慣れていないから少し困ってしまう。
「君、カッコイイね」
「ありがとうございます」
話しかけてくる女子は皆私の容姿を褒める。お世辞、皆そうに決まっている。いかにもモブ顔な私の顔が仮装をした程度で変わるはずがないのだ。
「ここにあるの全部食べて良いから」
「そんなに食べれないけど」
そう言いながら取り敢えず全て一口づつ味見してゆく。カレーはルーが濃くて美味しいし、オムライスは中身が半熟で私の好みの味だ。それに、チョコのシフォンケーキは甘くて美味しかった。
「ん、全部美味しい。
というか、これまで食べた物の中で一番かもしれない」
「ホント!!
もうすぐクレープも出来るから待ってて」
私の言葉を聞いた女子達からは歓声が上がり、皆嬉しそうにしている。私も美味しいものが食べられたし彼女らも味見相手が見つかってwinwinの関係って事だ。
それにしても、今は食べていないのに何故こんなにも見られるのだろうか?
少し気になったが、すぐに『文化祭でもないのにコスプレをしている事に珍しく思っている』という結論に至ったため、特に気にしなくなった。
「ねぇ君、彼女いるの?」
「いッ―――」
「居るに決まってるじゃん、夢やめなよ」
何か勘違いをしているようだから女だと言おうとしたが、夢さんのお友達らしき人に止められてしまった。因みに私が覚えていないだけで一応クラスメイトだ。
もう言うの面倒だし、このままでいいかもしれない。
「はい、1組特製クレープだよ!
今年のは改良に改良を重ねて作ったからきっと美味しいよ!」
「ん、これが一番かも」
美味しさの秘訣はこの生地にあるらしい、モチモチ食感に加えてチョコの風味があって、いい感じにフルーツの味を邪魔しないでいる。この感じ、例えるなら篠崎さんって感じだ。
「よかった、何度も試行錯誤した介があったよ」
木葉さんは試作の数々を思い出して嬉しそうに微笑んだ。
もし試食する人が十文字さんだったら……そんな嫌な想像をしてしまった。
「全部美味しかった。私、手伝い行かなきゃたから戻る。あと、文化祭頑張ってね」
「1つ聞かせて、君のクラスは何するの?」
「ダメだよ、それは暗黙の了解!」
私も同じクラスなのに……
そんな少しのショックを胸に教室に戻った。
もう少しいたい、なんて気持ちもあったが私にはあんな所、不釣り合いだ。ああいうポジにはスミスさんとか人気者が入るべきなんだから。
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どうもこんにちはイセです。
この度は最後まで読んでいただきありがとうございました。
前話となんの繋がりもなくて、ホントすいません……
あと、皆さんの想像を掻き立てるような表現ってどうすれば!?
まぁ、いつかわかるはず……
さて、次話は『あのカッコイイ彼』です。
是非明日も立ち寄っていただけると嬉しい限りです。
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