天音が嫌いだ
16話 あのカッコイイ彼
「天音は最近話題のイケメンのコト、シッテマスカ?」
「桜から聞いたけど、どうでもいいかな」
火曜日、文化祭を数日前にして私は美術部のついでに天音の家に来ていた。
木葉をはじめとする料理担当の友人全員が低身長イケメン男子を見たと言っている。イケショタとやくしている人も居て、今クラスの話題の人となっている。それも、スーツを着ていて髪が片目にかかっているとか。
スーツを着ていてカッコイイといえば山田くんでしょうか?
けれど、山田くんは180cm以上あって低身長には当てはまらない。それ以外、低身長をあげていっても、容姿は優れていない。
「木葉がイウニハ、荷物運びを手伝ってくれて、料理をホメてくれたとか」
「……へ、へぇ、名前とか聞かなかったの?」
「いえ、ワカリマセン」
一瞬、天音が固まったが、天音は女子だしあり得ない。確かに彼女のスーツ姿は雰囲気があってカッコ良かったが、天音はクラスの手伝いをしていたはずだ。
「ふーん」
こちら側に体を向けていた天音は興味を無くして、作題に戻った。
まぁ、文化祭になれば彼の正体わかるでしょう。そう思って私は漫画に思考を落とす。が、彼女の貧乏揺すりのせいで集中できない。天音の貧乏揺すりを学校では見たことがないが、彼女の家ではたまに見る光景だ。
「天音、うるさいデス」
「ここ、私の家だから関係ないでしょ」
なんとなく、素直に聞いてくれるとは思っていなかった。注意するのが上野さんだったら聞いていたかもしれないけれど、天音は私に命令されることを露骨に嫌がる。体に負のオーラを纏うのだ。
「じゃあ、命令デス」
彼女は大きなため息をついて『しょうがない』と言わんばかりに貧乏揺すりを止めた。何でしょうか、こういう反応をされるとイタズラしたくなります。
「もう一つ、私の耳を舐めてクダサイ。
これは命令デス」
「やッ、分かった」
やだ、そう言いたかったのだろう。彼女にお願いをしても聞いてもらえないのは分かっている。だから、『秘密』という切札を使って命令するのだ。
「何をためらってイルノデスカ、私も天音のを舐めた事がアルでしょう?」
「それはスミスさんが勝手にしただけでしょ、私はスミスさんみたいに下品じゃないから躊躇いの心があるの」
天音は私に抗議するような声で言って口を近づけてくる。そして、少し息をついてから耳を舐めはじめた。
最初は私がやったように耳裏だった。正直言って気持ちが悪い、けれど命令をしたのだから途中で辞めたらカッコウがつかない。
「アっ」
「スミスさんうるさい」
自分だってやられていた時は声を出していたクセに、生意気だ。やっぱりこういうのはやる方が楽しい。
「ンっ」
「スミスさん、次喋ったら漫画の角で叩くよ」
そう言ってベッドに投げ捨てられていた漫画を取って脅してくる。ここで、命令で聞かせようとしても叩かれる事は目に見えているから声を発っせない。
天音は耳裏を上下に小刻みに舐めてくる。ザラザラとした感触が骨の上を滑ると体がビクリとする。
やっぱり天音の事はキライだ。こんな風に私に逃げ場を与えないのだから。
「スミスさんのそういう顔良いね」
天音は私が前に言った言葉をそのまま返すような言い方をした。やっぱりムカつく。
そういえば、これまでにこんなにもムカつく相手がいただろうか?
そんな疑問で頭を埋め尽くして少しずつ怒りの炎が鎮火していくのが分かる。
「……スミスさん、我慢強いね」
天音はそう言って耳の内側に狙いを移す。
「ン、」
「はい、一回ね」
どうやら後でまとめて叩くらしい。やはり天音に楽しいことをやらせるのは間違っていた。本来主従は私が握るもので、私だけが命令して良いのだ。
時間が経つにつれ、だんだんと舐められることが慣れてきて気持ち悪いけれど、くすぐったくは無くなった。
「スミスさん、つまんない」
彼女はそう言って、私でも遠慮した耳の中まで侵入してきた。
段階が上がっていくから耐えることに集中していて息が荒くなってしまう。
でも、ここで私が反応すれば彼女が楽しいだけだ。天音が飽きるまでの辛抱だし、耐えられなくは無い、そう思った。
「はぁ、もういいや、つまんない」
声が漏れる寸前で彼女は耳から口を離した。
「イタッ」
「はい、2回目」
安心しきった瞬間、天音が耳に噛みついてきた。それはルール違反じゃないだろうか?
「ま、面倒くさいし、もう良いよ」
そう言って漫画を手にベッドに寝転がった。
そう言われると、最悪の事をされていたのに得した気分になって許してしまう自分がいる。
「じゃあ私もメンドクサイので許します」
「もしかして、スミスさんってM?」
イタズラな笑みを浮かべながら天音が問いかけてくる。
ムカつく、ムカつくけどこんなに笑っている天音は初めて見た。いつもより少し口角が上がったくらいだが、それでも少し彼女に近づいたと実感できる。
「ソウカモシレマセン」
「うわ、なんか今日のスミスさん気持ち悪い」
そう言った彼女の声は弾んでいて、生き生きとしていた。
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どうもこんにちは、イセです。
この度は読んでいただきありがとうございました。
なんだか百合モノって書いてて楽しいです。(お前キモいぞ!)
でも書くのは結構難しいです……
まぁ、そんな事は置いておいて、次話は『文化祭』です。
季節的には現実と全く違いますが、秋気分を味わいたい方は是非立ち寄っていただければ、と思います。
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