9話 気になる音

 彼女が来た翌日、いつもより遅い起床でリビングへ向かうとパパがコーヒーを飲みながら求人サイトを眺めていた。


「おはよ、パパ」

「うん、おはよう天音」


 私に気づくと、パソコンを閉じて微笑み返してくる。


 なんでこう親というのは子供の前でカッコつけたがるんだろうか?これじゃ会社も家も同じようなものだ。


「お昼ご飯、何か食べたい物はあるかい?」

「別に、私は良いよ。パパの好きな物食べよ」


 毎週日曜日になるとパパは決まって私に問いかけてくる。


 本当に優しすぎる。私を産んですぐに家を出ていってしまったお母さん、けれどパパは他の友達と同じように、いやそれ以上に愛情を与えてくれた。でも今は、それが心配でならない。人に気を遣いすぎていつ壊れるか分からないから。


「じゃあ、いつものお店行こうか」

「わかった」


 これも私達の仲じゃテンプレだ。

 パパの言う『いつもの店』は私の母親と初めて出会ったというイタリアンレストランだ。


 まだ根に持っているのか、ただ味が好きなのかは分からないけれどパパは毎週日曜日、私を誘って食べに行く。


「天音、お隣さん越してきたみたいだけどどんな人だった?」

「引っ越し挨拶の粗品は変だったけど良い人だったよ」


 私はフワフワとした人物像を伝える。

 だけど決して同級生でした、なんて言ってはいけない。それを知ればパパは挨拶に行くに違いない、それも結婚挨拶のように緊張して。


「そうか、お隣さんとは仲良くするだよ」

「うん、わかってる」


 パパは少し真剣な顔をして言った。きっと色々苦労の末の顔なんだろう。濃いクマがそれを物語っている。


「そういえば、卵焼き、美味しかった。でも今度からはいらない」

「そう言ってくれると頑張って作った介があったよ」


 パパは嬉しいそうだけれど、私に『今度からいらない』と言われた事で少し寂しそうな表情も見せる。気を使われていると思われたのだろうか?


「やっぱり余裕がある日は作って」

「分かった、パパ頑張るよ」


 そう言ったパパの顔は笑顔に満ちていた。娘に言われることがそんなに嬉しいんだろうか?

 ま、こんな事で笑顔になってくれるならいくらでもするけれど。


「パパ、どうせ今日もあんまり寝れてないんでしょ、お昼になったら起こすから寝てきなよ」

「パパは大丈夫さ、天音こそ学校で疲れているんじゃないのか?」

「寝てきて、それじゃないとお昼は食べに行かない」


 そう言うとパパは寝室へ消えていった。睡眠は大切だ、平日は3時間ほどしか寝ていないだろうし倒れられたら困る。


「はぁ、暇だし絵でも描くか」


 私は部屋に戻って鞄からスケッチブックを取り出す。

 皆に絵、あげすぎたかも。スケッチブックには紙が1枚挟んであるだけだった。


「買って来なくちゃな」


 お金は余るほどあるけれど面倒だ。近くの文房具屋に行くのは良いが、それだけのために行きたくはない。ま、ご飯を食べに行く帰りにでも買えば良いか。


 部屋には鉛筆が紙を滑る音だけが木霊こだましている。学校で描く時は相手の話を聞いたり廊下の音で聞こえない音だ。2番目に落ち着く音だ。


「ん?2番目?」


 自分の思った事に疑問が湧き出てくる。


 私はなんで2番目、なんて表現をしたんだろう。私の中の1番は何なのだろう?


 私は悶々とした心情の中、描きすすめた。


「ん、かんせーい」


 こうは言ったものの、絵には私の心情が表れているかのように少し歪んで見える。描いたのは私の部屋だ、見れば見る程に修正点が見つかる。


「あぁ、なんでこんなにモヤモヤするんだろう」


 私が思う1番を見つけないと何もかも手につかないような気がする。貧乏揺すりの音、電気を消したり付けたりする音など、試してみたけれどどれも当てはまらない、ただの雑音だ。


「ホントに何なんだろ」


 私は机にスケッチブックを残してベッドに寝転ぶ。あぁ、そろそろパパの事起こさないとだっけ?


 私はパパを起こしてで昼食をとった。


 けれど、食べてる最中も帰ってきても頭は1番の音を探している。こんな些細なこと、早く忘れてしまえ!

 そう思って漫画を読んでみるが1文字も頭に入ってこない。


 何かの音楽だろうか?いや、それなら勉強の時にしか聞かないし……わからない、分からないけど思い出さなければ行けないような、そんな気がする。


「ちょっと外の風にあたるか」


 考えすぎてヒートアップした脳を冷やすようにベランダに出てみる。外は冷たい秋風がふいていて丁度いい。

 あぁ、思い出した、この歌だ。今聞こえてくるこんな落ち着く歌だ。


「あれ?なんで?」


 私の思考は一瞬ショートした。私の隣の部屋から聞こえてくる歌がまさに私が追い求めていた歌だったのだから。


「アレ?天音、どうしたのですか?」


 ベランダから顔を出したスミスさんは、片手にジュースを持ったタンクトップ姿だった。

 そうだ、この前美術室で聞いたこの鼻歌が私の1番好きな音色だ!


「いや、ただ風に当たりたくて」

「私もデス!」


 私とスミスさんのルールに日曜日は、呼ばないし関わらないというルールがある。だからそれ以上の会話は無くスミスさんは、鼻歌を歌っていて、私はそれを聞いていた。







――――――――――――――――――――――――――


どうも、こんにちはイセです。

今回も読んでいただきありがとうございました。


今現在貯めを消費しながら書いてるのですが、毎日投稿となるとかなり消費しますね……正直言ってキツイです!


まぁでも、あと一ヶ月保たないくらいは頑張れるので明日も立ち寄っていただけると幸いです。


それと、7話ミスって再投稿してしまった事謝罪申し上げます。


次話は『アソビ』です。

申し訳ないのですが、ブックマーク、♡、★、コメントお願いいたします。

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