8話 初めての◯◯

「ハヤクしないと言っちゃいますよ?」


 私は、せめてもの抵抗として、間延びした声で読む。それにも彼女は悪戯っ子のような笑顔を浮かべているから気持ち悪い。


「ねぇ、これってどこまで読めば良いの?」

「私が良いって言うまで、デスカネ?」


 いずれこの棒読みも面白くなくなって普通に読め、とか言ってくるんだろう。今日は生きてきた中で一番疲れる日かもしれない。


 私が読み聞かせていると、彼女はまるで猫を愛でるような目で私を見てくるから癪に障る。彼女はどこまで私の滑稽な様を見れば気が済むのだろうか。


「その調子デス」


 ホントにむかつく言い方をするものだ。彼女には人の心というものは無いのだろうか?

 こんな事をやらせるなんて馬鹿げている。


 まぁでも、友達ではないわけだしこんな関係性だとしてもおかしくは無いのかもしれない……


「やはりもっとしっかりヨンデクダサイ」

「はいはい」


 私は気のない返事をして彼女の命令に従う。はぁ、正直者が損をするというのは本当らしい、実際私がそうなっている。


 結局私は抵抗することができず、この地獄のような遊びを終えた。


「楽しかったデス、また次もやりましょう」

「もう家に入れない」


 そう言いながら私は乾いた喉を潤すためソーダを流し込む。パパは私の好みも知らないくせしてお菓子や飲み物を買ってくる。一週間の大半、家を空けている罪悪感からかは分からないが、お小遣いは月五万とオシャレにも気を使っていない私からすると持て余すくらいには大金だ。


「じゃあ次も脅します」

「はぁ、言っとくけどそれじゃイジメと同じ、イタチごっこだよ」


 彼女が脅せば脅すほどに私のガードは硬くなっていくし、いつかはこの関係を自ら絶ちに行くかもしれない。


「そういえばワタシ、宣言通りイジメ、防いでますよね?」

「さあね、でも十文字さんが諦めるとは思えないけど」


 最近クラスでの評判もスミスさんの手によって落ちてきている十文字さん。だから彼女は自分の持つ情報網を駆使して必ずやスミスさんを潰しに来るだろう。そうしないと彼女が中心の世界は出来ないから。


「私は彼女に今のカースト位置も皆の自由も奪わせるつもりはアリマセン」

「そりゃ素晴らしいことで」


 私は彼女の話を適当に受け流しながら漫画の三巻を手にベッドに寝っ転がっている。


 もしこの部屋が私の部屋では無かったら、ちゃんと話も聞くし相手をおだてるだろう。だけど彼女に何かを言われなければ主導権は私にある。


「スミスさんってイジメの事、どう思う?」

「もちろん、どんな理由があろうと許される行為では無いと思いマス」


 彼女が言うと説得力が違う。なんせ彼女はイジメを見つけたらどんな生徒が相手でも助けているから。


「じゃあ、なんでイジメは起こると思う?」

「ソウデスネ〜、仲いい友達でイジられキャラが居ますが、それの延長線上の話では無いですか?」


 確かに一理あると思う。でも彼女が言う理論なら元々普通の友達だったのにその中でイジメが発生した事になる。そんな事、イジメられるような大きな問題を起こさないとおきないと思う。


「私は、上と下があるのがいけないんだと思うよ。スミスさん、生きてきた中でカースト下位になったことある?

 ないでしょ。結局、スミスさん含め正義感の強い奴らがイジメられている人間を助けようって思うのは、その人が弱い人間だと決めつけてるからだと思うよ」

「そんな事はアリマセン!」


 少し言い過ぎたかもしれない。アリスさんは顔を赤くして否定した。


 まぁ、結局日本の世の中も貧富の差があるからなんとも言えないのだけれど……


「まぁ、頭の片隅にでも考え方があるって事、置いといてよ」

「天音はイジワルです」


 そう言うとスミスさんはそっぽを向いてしまった。


「………ご、ごめん……」


 別に言うつもりは無かった、けれど咄嗟に口から出てしまった。私がイジメに加担した日も同じだった。なんだか胸がキュッと締まるみたいに罪悪感が押し寄せてきた。だからその日は、善行を重ねた。まるで私の悪行を塗りつぶすように。


「ワカリマシタ、仲直りのハグをしましょう!」

「いや、いい」


 スミスさんは、また命令するときのような悪戯な笑みを浮かべていた。


 絶対にろくなことが無い顔だ。


「じゃあ命令にシマス」

「言うと思った」


 スミスさんは、手を広げて自分から来るように促してくる。でも、私から抱きつくのはムカつくから命令されるまで動かない。まぁどうせ命令されるのだから意地なんてはる意味は無いのだが。


「じゃあ、コウシマス!」

「ッ!!!」


 スミスさんはいきなり私に抱きついてきた。表情は分からないけれどスミスさんの少し高い体温が伝わってくる。そして、男子なら喜ぶであろう胸が私に押し付けられた。


「これで仲直りデス」


 耳元でそう囁くと彼女はそっと体を離した。


 顔が熱い、きっと今私の顔は真っ赤に高揚しているに違いない。ハグなんて初めてだったし、こんなに恥ずかしいものだとは思わなかった。


「そういう素直な顔は好きです」


 そう言うと彼女は何も無かったかのように漫画を読み始めた。








――――――――――――――――――――――――――


どうもこんにちは、イセです。

今日も今日とて後書きを書いています……


今回の作品でやっと、命令というキーワードが出てきてホッとしました。(お前が言ってどうする!)

題名詐欺罪とかにかけられたら何も言えませんからね……


さて、次話は『気になる音』です。

是非明日も立ち寄っていただけたらな、と思います。


最後に!

もっと天虐が見たい、逆にスミスさんをイジメて欲しいという方は★、♡、ブックマーク、コメントお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る