スミスさんは意地悪だ

7話 命令

 彼女、アリスさんの行動力は凄まじかった。あの日イジメられていたら自分が助ける、と言った通り、日に日に移り変わってゆく被害者を救っていった。


「ここ、間違ってる」

「課題としてシュクダイを私にやらせておいて良く言えマスネ」


 そして今、私は少女漫画を読みながら勉強を教えているというわけだ。


 正直、あまり人を家に上げたくはない、けれど人の家に上がるというのはもっと嫌だ。慣れない所は好きではない。クラスのド陽キャが家に居るということも不自然なことだから出来れば帰ってほしい。


「天音、勉強を教えて貰った後もこの家に居て良いデスカ?」

「……うん、良いよ」


 嫌だ。

 そう言おうとしたけれど、言えなかった。だって私の学校生活は彼女に握られているも同然、今や学校中から人気を集めるスミスさんが言えば私なんて一瞬にしてカースト最下位に落ちる。


 スミスさんと私は、秘密と言う名の鎖で繋がれているだけでそれが無くなれば二人共違う方向に分かれていくような関係性だ。なんせ、私と彼女は正反対だから。


「デキました」

「それで全部合ってる、次はコレやってよ。得意でしょ?英語の宿題」


 アリスさんは呆れた顔をして私の英語の宿題を進めていく。私としてはこんな宿題をやったところで学力には何も響かないと思っている。結局試験を跨げば忘れてしまうような内容ばかり、こんな作業やらない方がマシだ。


 漫画を読む手を止めてスミスさんを見ると英語の方は流石というかスラスラと解けていて間違いが見当たらない。

 それにしてもお手本のような綺麗な字だ。


「ねぇスミスさん、この前一人暮らしって言ってたよね」

「ソレがどうかしましたか?」

「いや、私は物心付く前からお母さんが居なかったから分からないけど、やっぱり家族がいないって寂しいのかなって」


 やはり英語の宿題は余裕なのかアリスさんは手を止めること無く口を開く。


「ソウデスネ〜、寂しいですが少し楽しいと思います」

「家族に気にせず物事が出来るからってこと?」

「ソウデス」


 確かに私もパパが家にいないと食が疎かになったり掃除もしなくなる。つまり親は私達子どもの制御装置に過ぎないということになる。

 そう思うと小学校の頃、お母さんがいる家庭に憧れを抱いたのはあまり意味のない事だったのかもしれない。


 私は、部屋を出て新たな漫画を求めてリビングの本棚へ向う。


「ソレ、私も読んでイイですか?」

「別にいいけど……勉強はもう良いの?」


 集中力が途切れたのか、宿題が終わったのかは定かではないが私についてきたスミスさんが本棚に並んでいる漫画を凝視している。


「今日はもう3時間はやったのでダイジョウブです。それにどうせ天音がシュクダイを作るときはヒマですから」

「確かに読んでた方がこの前みたいに隣で見られる事もなくて助かるよ」


 そうだった、私は彼女の宿題を作成しなければならなかった。

 始めは彼女がやっている途中に作れば良いと思っていたのだが、彼女のペースによって作題を変えなければいけないのだから面倒くさい。


「ねぇ、一番上の段の2番目の本取って」

「コレですか?」

「違う、反対側からみて2番目」


 私からは届かない位置にある漫画の続きを取ってもらう。背伸びをしたら取れないこともないのだがそれを見られるのは少し癪に障る。


「ありがと」

「じゃあソレ、後で私に読んでクダサイ」


 彼女は何を言っているんだろうか?

 私が読みたいから取らせたのになんで彼女に読んでやらねばならないのだろうか?

 第一ここは私の家だ、断る権利くらいあるはずだ。


「ヤダ」

「じゃあクラス中、いや学校中にイイフラシマス」

「気が変わった。コレ、読んであげる。でも、作題が終わってからね」


 そう言うと彼女は満面の笑みを浮かべた。まさか彼女がこんな事をする人間だとは思っていなかった。でも彼女の、単純で自分の気持ちに従順な所から来たものかもしれない。


 まぁどちらにせよ、やらなければならないようだ。彼女はもうその気になっている。


 私は部屋に戻ると作題を、スミスさんは先程私が読んでいた少女漫画の一巻に意識を落としていた。


 彼女を見ると、とても話しかけられる様な雰囲気ではなく、凄く集中していた。だから私は好きでもないお菓子を口に運んで作業を、進める。


 因みにスミスさんの理解能力は高く、前回私が教えたことを今回は難なくこなした。これは人気者ゆえ、人をさばく能力と同じく問題をさばく能力も向上したものなのだろうか?


「オワリマシタカ?」

「もうちょい……」


 30分程してスミスさんは一巻を読み終えたのか暇そうな声で訪ねてくる。こっちは作題しているというのに呑気なものだ。


 いやでも、それを言うなら教えている時の私もそうか。


「ヨシ、出来た」

「じゃあヨンデクダサイ」


 スミスさんは私を逃がすつもりは無いらしい、ベッドを背もたれにしてドア側を陣取っている。


「はぁ、分かったよ」

「それでイイノデス」


 漫画を開くと何度も見たページが顔を出す。これ、結構エッチな巻じゃん。


「やっぱり読まなきゃだめ?」

「ハイ!」


 スミスさんの少女のような幼い笑顔は私の表情の変化を楽しんでいるようだった。












―――後書きに興味のない方は飛ばしてください―――


どうもこんにちはイセです。


やっと、やっと題名に沿った事が書けます!

このまま、普通に暮らしていたら詐欺ですから、じゃんじゃん入れていきます。


さて、次話は『罪悪感』です。


最後に、秘密を守れないって人はブックマーク、♡、★、コメントお願いします。

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