6話 贖罪

 翌日、私がいつもよりも早く登校すると、静まり返った教室に一人、私の机をピカピカに拭いている天音がいた。


 やっぱり、彼女の髪は綺麗だ。


 見惚れること数秒、私は彼女の元へ行って話しかけた。


「オハヨウゴザイマス!」

「……おはよう、アリスさん」


 いきなり大きな声を出したからだろうか、天音は体をビクリと震わせた。


「それを天音せんせいがケシテイタラ、彼女に怒られるのでは?」

「これはアリスさんに関係ない、それと学校で先生って呼ぶの辞めて」


 天音はいつもよりも冷たい声で言い放つ。


 まぁ、彼女のなりのケジメのつけ方なんだろう。でも、私だって天音せんせいがしたくもない事をさせられるのは違うと思う。


「ワカリマシタ、じゃあ勝手にたまたま千尋をぶっ飛ばすことにします」

「………」


 天音は『好きにすれば?』とでも言うような呆れ顔をしている。


「今日はバレー部なので勉強会はナシデス」

「うん、わかった」


 そう言うと、天音は雑巾を洗いにトイレに行ってしまった。


 私も落書きを消すために来たのにやることがありませんね。あの状態じゃ天音は私と話すのを面倒くさがりそうですし、次に来た生徒と喋ってみるのも良いかもしれませんね。


 それから少しして、十文字さんとその彼氏、山田君が登校してきた。


「オハヨウゴザイマス」

「おはよ」

「おはよう」


 十文字さんは適当に、山田くんはお辞儀までしている。はたから見るとお嬢様と、その世話をしている執事にしか見えない。


 彼女が教室に入ってきて始めに見たのは私の机だった。幸い天音のカバンは彼女の位置からは見えないところに掛けてあって彼女が来ていることはバレていない。


「アリスさん、机が少し濡れているけれど、どうかしたの?」


 多分、天音がちゃんと落書きしたのかを確認したいんだろう。私は十文字さんの疑いの目を晴らす為、天音に被害が及ばないように言葉を選んで喋らなければならない。


「……ら、ラクガキがあって…」

「そんな、酷い!誰がそんな事を」

「確かにそれは酷いな」


 私が即興の演技を披露すると、山田くんと千尋は心配そうな顔をする。でも、千尋の顔には少し笑みが含まれている気がして気持ちが悪い。


「犯人探しなら私に任せて!」

「俺も手伝うよ」


 きっと千尋はここで犯人が天音だと言う事を明らかにして自分の好感度を上げに行くつもりなんだろう。それにいいイジメ相手も見つかる。


「いえ、今下手に動いたら今度はこんなことじゃ済まないかもしれませんし、ダイジョウブです」

「わかった、でも他に何かされてたなら私に相談してね」

「俺じゃ心許ないかもしれんが俺も力になるぞ」

「は、はい、アリガトウゴザイマス」


 そう言うと、彼らは先程来たばかりだろう友人のところへ行ってしまった。山田くんは終始心配そうにしていたが、千尋は振り向く瞬間残虐な笑みを浮かべていた。


 時刻は8時、私が来てから既に30分が経過していた。


 そういえば天音、雑巾洗いに行くって言って帰ってこないな、何かあったのだろうか。いや彼女のことだ、千尋達が来るのが窓から見えたんだろう。


「後で文句言ってヤリマス」


 そんな事を言っていると私の友人達も登校してくる。


 仲良くしてくれるのは嬉しいが、私は聖徳太子じゃ無いから十人単位で一斉に喋られると気疲れしてしまう。最近では他クラス、他学年からも人が来ていて、この包囲網の終わりが見えない。


「アリス、宿題終わった!?」

「ナントカ終わりました」


 元々千尋に付いていた、しっかり者の木葉このはが話しかけてくる。

 千尋が私を恨む大きな原因の一つに木葉が私と仲良くしているのが気に入らないんだろう、木葉は気遣いが出来て千尋のおだて役に回ってくれるから彼女の存在を肯定するには十分な素材だった。


「でも、この前は分からなすぎて全部答え写してきたって言ってなかったっけ?」

「カテイ、教師というモノをつけました」


 天音が教えてくれている、なんてことを言えば天音は怒るに違いない。なんせ彼女は平和主義者だから。


 今思っても不思議な関係だと思う。天音は平和を望んで千尋に従ったはずなのに、自らそれを自白して良いように使われているのだから。


「もー、お金持ちはすぐお金で解决するんだから」

「いえ、その人にもイロイロ事情があるみたいでお金は払ってないデス」

「別に言ってくれれば私が教えたのに」


 私達が話していると、隙を見て戻ってきたであろう天音が暇そうに外を眺めているのが見える。


 まるで、そこだけ空間が分離しているように彼女の居るところだけ静かに思える。


「アリス、須藤さんの方ばかり見てどうしたの?」

「あっ!な、なんでもアリマセン」


 木葉の声で天音がこっちを見てきたがそれも一瞬、すぐ外に目を反らした。


 なぜだか最近、天音と関わる機会が多かったからか天音の事で頭が一杯になる時がある、私は彼女の殻を破ってみたいと思っているのかもしれない。


「おっはよー!」


 私が天音から目を逸らすと沢山の友人が私を取り囲んでいた。皆が皆喋っているから何を言っているのか聞き取れない。


「ちょちょちょ!一人づつ喋ってクダサイ!」


 そう言うと皆は順番に話し出す。その話の内容のほとんどが私の宿題についてだった、私が宿題を終えられることがそんなにも驚くことなのかだろうか?


「ほら皆、スミスさんを困らせないの、HR始めるわよー」


 教室に入ってきた先生によって皆それぞれの席に戻ってゆく。


 あぁ、今日も騒がしい1日が始まるんだろうか。








―――後書きに興味のない方は飛ばしてください―――


どうもこんにちは、イセです。

今作も読んでいただきありがとうございました。


正直、今回は展開が早すぎたり難しい描写が多くて読みづらくなってしまったと思います……上手く書けるように精進します…


さて、次話は『命令』です。

是非、明日も立ち寄っていただけると幸いです。


最後に、『こんな作品に……』なんて思う方もいらっしゃると思いますが、ブックマーク、★、♡、コメントお願いします!

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