5話 先生と生徒の関係

 あの後、私は諸々の用事を済ませ宿題に着手していた。


「ん〜難しいデス」


 もとより数学は得意ではないが、日本語と一緒に出てくるとここまでややこしくなるなんて聞いてない。


「もう、ワカリマセン!」


 私は宿題の1ページ目すら手を付けずに投げ出してしまった。


 これで、教えてくれる人がいれば話は別なのに……。

 私はベッドに寝転がってスルーし続けていたLINEの通知を処理していく。一番多くの連絡をくれるのは兄だ。子供ではないのにお風呂に入ったか、とかちゃんと食べてるか?なんて事ばかり送ってくる。

 心配してくれることは嬉しいと思うけれど、毎日のように『彼氏できてないよな!?』なんてメッセージを送ってくるからちょっと面倒くさい。


「お兄様こそ早くカノジョ作ってクダサイ!」

 私は本人に届くはずの無い言葉を漏らした。


 天音も家だと私のように少しダランとしているのでしょうか?


「ん?天音、ソウデス!

 天音に教えて貰うことにしましょう!」


 思ったら即行動、早速彼女のインターホンを押しに行った。


『な、なに?』

「勉強、勉強を私に教えてクダサイ!」

『なんで私が』

「取り敢えずさっきのことも含めて話したいのデス」

『………』


 少し経って、鍵が解除される音と共に扉が開いた。顔を出した天音の髪は湿り気を帯びていてお風呂から出た直後だということが分かる。

 もうちょっと時間を考えたほうが良かったかな?


「立ち話も何だし、ちょっと上がってよ」

「ワカリマシタ」


 家に親御さんはいないのか、静かな空間が広がっていた。案内された天音の部屋は勉強机とベッド以外の物が無く、清潔感のある広々とした部屋だった。


「飲み物持ってくるから、そこのベッドにでも座っていてよ」

「ハイ」


 そう言うと天音はキッチンへ向かった。


 彼女らしい部屋と言えばそうだが、もう少し物を置いてもいいんじゃないだろうか。私の部屋なんてお人形さんや化粧道具など可愛いものが揃っているというのにこの部屋は簡素すぎる。


「はい、こんなのしかなかったけど」

「日本の食べ物は全て美味しいのでダイジョウブです」


 天音は、サイダーが入ったグラスとポテトチップスが乗ったちゃぶ台を持ってくる。


 日本の文化ではポテトチップスは『こんな物』で括られるようなものなんでしょうか、それとも、礼儀というものなのか。

まぁどちらにせよ、美味しければよいのです。


「それで、要件はなに?」

「勉強を教えてほしいデス」

「どうせ教えないと秘密をバラすんでしょ?」


 そんな事は思いもしなかった。が、彼女がそれで教えてくれるなら良いかもしれない。


「分かってるジャナイデスカ」

「でも、いくつか条件を付けさせて」

「ワカリマシタ」


 もとより天音の空いてる時間に教えてもらおうと思っていたから条件なら問題は無い。


「教えるのは日曜日を除く週2日、アリスさんが私に連絡すること」

「ワカリマシタ」


 でもそれは条件というか常識のようだ。これじゃ不平等で嫌だ。


 天音はそう言うとLINEのQRコードを提示してくる。


「私もされてばかりじゃ悪いですから何か天音に得になるような条件をつけてクダサイ」

「……それじゃあこの前みたいに火曜日は絵を描かせてよ」

「ワカリマシタ」


 そんな事で良いのでしょうか?

 私としてもあの美術部の雰囲気は好きだったし特に問題は無いですが。


「言っとくけど私、頭そんなに良くないし教え方も適当だから」

「問題ないデス」


 それから1時間ほど教えてもらって家に帰った。天音は適当と言っていたが教え方が上手くて凄く分かりやすかった。


 でも、彼女と私を繋げているのは『秘密』だ。私が口外したり自分から言い出せばこの関係は終わる、そんな薄っぺらい関係でしか無い。


「うん、今のうちにナカヨクなっておきましょう」


 はたして彼女は縛るものが無くなったら離れていってしまうのだろうか。そんな疑問がフツフツと湧いてくる。


「考えても答えが返ってくるわけじゃ無いデス、考えるのは諦めマショウ」


そして、気を紛らわすために今日天音から出された宿題に思考を移す

 教わる前とは明らかに解く速度が上がってることが分かる。天音自身そんなに頭は良くないと言っていたけれど、余程頭が良くないとここまで分かりやすい説明はできないと思う。


「今週は後一回、か」


 火曜以外の平日は全てバレー部が入っている、入れるならば土曜日。日曜日は天音が決めたルールの事もそうだがバイトの予定が入っている。

 母や、お兄ちゃんから社会勉強のためにバイトはしたほうが良いと言われているから仕方がない。


 まぁでも、日本のバイトには興味があるから特に苦とは思っていない。


「そうだ、天音がくれたスイーツがあるんデシタ!」


 すぐに切れてしまった集中力を取り戻すためにショートケーキを取ってくる。


 もしお兄ちゃんがいたらこんな遅い時間に食べたら太るって食べさせてくれないんだろうなぁ。なんて、少し家族が恋しくなる。


「ん、オイシイ」


 やっぱり日本の食べ物はどれも美味しいものばかりだ。どうゆう作りをしたらこんなにも安価で美味しくなるんだろうか。


 そんな事を考えていると、いつの間にかショートケーキは無くなっていた。


「ヨシ、もうひと頑張りシマスカ!」


 今の私なら天音という難問でさえも解けてしまいそうだ。








―――後書きに興味のない方は飛ばしてください―――


どうもこんにちは、イセです。


今作も読んでいただきありがとうございました。

前回と前々回は出来がイマイチだったかもしれませんが、今回は上手くできたような気がします。(これはイセの偏見ですので、読者様方が違う意見を持つことの方が多いと思います)


さて、次作は『贖罪』です。

是非、明日も寄っていってください!


おこがましいかもしれませんが、♡、ブックマーク、★も、お願いいたします。

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