3話 イジメ

 美術部の翌朝、私は校舎裏に呼び出されていた。


「ねぇ須藤さん、スミスさんが調子に乗らないようにしてよ」

「な、なんで私なんですか?」


 いつも教室で笑顔を振り撒いている十文字さんとは違い、冷徹な雰囲気を纏う十文字さんが睨みを利かせてくる。


 やっぱり女子のイジメは怖いなぁ、なんて呑気な事を思っていると、私の後ろにある壁に壁ドンならぬ足ドンをして退路を絶たれる。


「だって須藤さんあの子と仲いいでしょ?」

「い、いえ、全然」


 私があからさまなモブ演技をすると、十文字さんは満足気に笑って二人の少女が写った写真を見せてくる。その二人というのは、もちろん私とスミスさんだ。


 それにしても十文字ネットワークがここまで規模を増しているなんて驚きだ。昨日たまたま一緒に帰っただけなのにその瞬間さえも知っているんだから。


「わ、分かりました、でも言うだけですからね」

「話が早くて良かった、須藤さんとは良い友達になれそうだね!」


 そう言うといつも教室で振る舞っているような優しい態度で返してくれた。


「はぁ、面倒事には首を突っ込みたくないんだけどなぁ…」


 彼女達が去ったあと、私はボーっと校庭で遊んでいるバカ男子を見ながら呟く。


 もしこれで十文字さんの納得するようにいかなかったらイジメられる。つまり、スミスさんを止めなければ私の平和な学校生活は無くなるというわけだ。

「やるしかないかぁ」


 私は溜息混じりに言って教室に戻った。


「おはよう、天音」

「おはよう」

「その顔色、どうしたの!?」


 イケないイケない、私としたことがどうやら顔に出ていたらしい。

 桜のことだ、真実を言えば心配して何かしてしまうに違いない。


「…今日ちょっとアレの日で」

「ご、ごめん…何かあったら言ってね」


 女子あるあるだからそんなに心配されないものだと思っていたが違ったらしい、これは少し悪いことをしたなぁ。


 それから、休み時間ごとにスミスさんと喋る機会を伺っていたものの見事に陽キャバリケードによって阻まれて、あっという間に放課後になってしまった。


「ソレで、話ってナンデスカ?」

「まぁその、あんまり十文字さんのテリトリーを荒らすのは辞めたほうがいいと思うよ?」


西日のさす放課後、スミスさんは訝しげに聞いてくる。

 

やはり、こういう陽キャとは合わない。だって普通、本題に入る前に少し会話するでしょ!?


「私、千尋ちひろに何かシマシタカ?」

「この前、彼女達のオモチャに手出したでしょ?」

「でも、それはあの方がイヤガッテいたからですし」


 正義のヒーロー、世間一般からはそう評価されるかもしれない、だけど世の中にはいつ彼女たちのオモチャにされるかと怯えている人達だっているわけだから決してその行いが正しいとは限らない。


「じゃあさ、その子は助かったとしても次の日には違う子がオモチャにされるかもしれないとは考えなかったの?」

「その時は私がタスケマス」

「あっそ。まあ、一応忠告はしたから」


 結局彼女がどんなに頑張ってもイタチごっこだ。正義感が強いって面倒くさい。


 その後、私は桜の待つ美術部へと向かった。


「今日は随分と遅かったね」

「うん、ちょっと会いたかった人がいて」


 そういうと、彼女は何やら意味深な笑みを浮かべて言った。


「それなら私のことなんて置いて帰ってよかったのにぃ」

「何を勘違いしてるのかは知らないけど私は恋愛に微塵も興味は無いから」

「冗談だよぉ、冗談」


 私が少し怒った顔をするとすぐに訂正に回る。本当によく見てるなと思う、彼女の観察力は通常の人間よりも遥かに長けている。

 まぁ彼女自身、元々イジメられていたから自然とそんな能力が身についたんだろう。


 ピロン♪


 スマホが電子音をならして十文字さんからのラインが来たことを教えてくれる。


『スミスさん、全く辞めるつもりはないみたいだね。須藤さん、彼女の机に落書きと教科書破っといてよ』


 メッセージにはそう書かれていた。


 正直、面倒だしやりたく無い。けれど私の学校生活のためだ、やるしかない。


「ごめん桜、トイレ行ってくる」

「うん」


 桜は私の生理を気にしてくれているのか、言及せずに応じてくれた。


「はぁ、面倒だなぁ」

 そう言いながら机に落書きをしていく、もちろんいつも私が書いているような細くて薄い字ではなく男子のような汚くて濃い字だ。

 別に罪悪感はない、彼女のせいで私自身被害をこうむっているのだから。


「よし、コレぐらいかな」


 私は急いで美術部に戻って、絵を描いた。


「お腹大丈夫?」

「うん、収まったみたい」


 私は嘘に嘘を塗り重ねた。でも、今の自分は嘘でできているから問題は無いと思う。


 それから私は終始無言で描き終えて学校を出た。


「今日も絵、ありがとう」

「もう、何十枚も描いてるけど置く場所あるの?」

「うん、描いて貰うたびに壁に貼ってるよ」


 想像すると少し気持ち悪いな、だって壁一面に自分の姿があるってことだ。私だったら捨ててるね。


「ねぇ、私思うんだよ、そろそろ十文字さん達の嫌がらせが始まるんじゃないかなって。教科書にイタズラされたり机に落書きされたり……」

「いや、流石にそこまではしないと思うけどなぁ」


 たまに桜は感が鋭い。本当は心の中を見透かされてるんじゃないかって思ってしまう。


「もしかして、天音がやってたり…なんてね、冗談冗談」

「………」


彼女は笑っているが全くと言って笑えない。なんでこう彼女はこういうときに限って頭が回るんだろうか?

そんな事を言われたら不安になってくるだろうが。


 その時の曇り空はまるで私の心を表しているかのようで気持ちが悪かった。



―――後書きに興味のない方は飛ばしてください―――


どうもこんにちはイセです。


今話も最後まで読んでいただき、本当に感謝です。

さて、次話からはスミス視点に移り変わるので、ご理解の程よろしくお願いします。

作品名は『天音は興味深い』です。


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