第23話 作戦の終わり

 案内されたのは先生の家だった。

 リビングは相変わらず整頓されたごく普通の部屋だった。

 首に巻かれた紐がほどかれる。


「そこに座って待っていて。準備をしてくるよ」


 先生がその場を離れた。

 亜里沙がすかさず動き出す。部屋の棚を物色し、何かを探している。

 悠馬も立ち上がり、辺りを探索し始める。

 引き出しには亜里沙と二人で写った写真が入っていた。

 

 先生の足音が聞こえる。

 二人で何事もなかったように席につく。


「ごそごそ物音がしてたんだけど……」


 二人で無言を決め込む。

 先生は苦笑し、その手に持った箱を机の上に置いた。

 それは長辺二十センチほどの段ボール箱だった。


「これ、お土産」

「いらない」

「まあまあ、そう言わず」


 拒否する悠馬に先生は箱を押し付けてくる。

 目の前に置かれた段ボールが揺れた。

 ガムテープで蓋をされているが、その中で何かが蠢いている。


「中に化け物が入っているから、帰ったら開いてね。何もしなくても飛び出ると思うけどさ」

「こんなものを受け取るわけがないだろう」


 亜里沙の言った通りだ。

 だが、先生だってそれを分かっているはずだ。

 先生は嫌な笑みを浮かべる。


「でも、悠馬は受け取るよ。断れば亜里沙が死ぬからね」


 悠馬は机の上に手を伸ばす。

 そして、その箱を自分の方に手繰り寄せた。


「それでいい」

 

 先生の笑顔は威圧的だった。口を開こうとした亜里沙を制する。

 きっと、悠馬が断れば先生は本当に亜里沙を殺すだろう。

 

 踏切で投げ捨てることができないだろうか。

 そう思ったが、先生はアンデッドたちを引き連れてついてきた。


「踏切が開く」


 やはり、先生の言葉通り、遮断機が上がった。

 踏切の向こうに先生の影を感じながら、悠馬は自分の世界で段ボールを開いた。

 

 出てきたのは蜥蜴の形をし、頭部に一つ目が付いた化け物だった。

 コンクリートの上を這って行くそれに向かって、悠馬はナイフを投げつけた。


 命中はした。

 だが、その化け物は分裂し、二つになって茂みへ消えていった。


「ごめん」


 亜里沙の謝罪に悠馬は首を横に振る。


「謝るのはこっちだよ」


 それ以降、二人は言葉を交わさなかった。

 

 作戦は失敗に終わった。

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