第19話 ぎこちのない日常

 それでも日常は続く。

 

 いつ先生が襲撃してくるか分からない。

 だが、学校に行かないわけにもいかない。

 向こうの話をすれば、どんな目で見られるか想像に難くない。

 

 数学の時間、いつもの教室で授業を受けている。

 窓から黒峯ヶ丘の方に目を向ける。


 こうしている間にもあの集落は滅びているかもしれない。

 そんなことを毎日毎時間考えながら学校で何気ない時間を過ごす。

 

 集落内は踏切の話で持ち切りだ。

 遮断機は時折開いているが、向こう側には誰も行かない。

 

 また、話は集落内にとどめられているようだ。

 こんなおかしなことは集落の恥とでも思っているのだろう。


「先生の力の根源はあの化け物だということだな」


 亜里沙の言葉に頷く。

 アレのことについて、亜里沙に話した。

 憎しみや怒りを体現することは言わなかったが。

 

 伝えたのは、先生はアレを喰らったはずだということ、アレの心臓を突き刺せば動きは止まるということ。

 その二点だ。

 

 学校帰りに吉駒駅前の図書館に立ち寄った。

 亜里沙の提案だ。

 あの神社のことを調べることができないか、というものだった。

 

 郷土史の中に昔話があった。

 何でも願いを叶えてくれる神様がいた。

 その神から与えられるお神酒を飲むことにより、人々はその御利益を得たと書かれている。


「あの黒い血のことじゃないだろうな……」


 亜里沙が小声で言った。

 

 ページをめくろうと手を伸ばす。指が触れ合った。

 顔を上げ、微笑もうとする。だが、違和感を覚えた。


 きっとできていない。

 廃神社に行ったあの日からうまくいかないのだ。

 

 亜里沙が悲し気にこちらを見ている。

 耐え切れなくなって顔を逸らした。


 亜里沙と作戦ともいえない作戦を立てた。決行は土曜日だ。

 先生が悠馬の家にやってきて一週間以上が経つ。もう延ばすことはできない。

 どれだけ恐ろしくとも、あの場所へ向かうしかないのだ。

 

 悠馬はリュックに荷物を詰め込む。

 といっても、アンデッドたちを引き付けるためのダミーの荷物だ。

 本当に大事なものはウエストポーチに入っている。

 数本のナイフは街で簡単に手に入った。

 

 悠馬はベッドに転がる。

 心臓は早鐘を打っていた。

 だが、眠気は襲ってくる。


 悠馬は目を閉じ、眠りについた。

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