第16話 踏切の露見

 掃除を終えた頃には、外は暗くなっていた。

 悠馬は作り置きした夕食を冷凍庫から取り出す。

 

 今日の出来事が処理しきれていないのだろう。

 悠馬はひどくぼんやりとしていた。

 

 電子レンジで解凍されていく料理を何もせずにただただ見つめる。

 庫内の明かりが消える。

 料理を取り出す。一人、ただ黙って食事をとる。

 

 静かな部屋に喧騒が流れ込んできた。

 小さくカーテンを開け、外を覗くと人々が悠馬の家の奥へ足を向け、そこで立ち止まっている。

 踏切に気付いたようだ。

 

 悠馬はカーテンを閉め、壁に背を預けた。そのまま壁を伝い、その場に座り込む。

 あの踏切は悠馬の家の奥にある。誰がどう考えても悠馬が気付かないわけがない。

 

 存在を黙っていたことをなじられるだろうか。

 それとも、あの不気味な現象ごと悠馬に押し付けられるのだろうか。

 どちらにせよ人々の悠馬に対する噂話のレパートリーが増えるのは間違いない。


「面倒だな」


 漏れた声が一人の部屋に消えた。

 今まで通り無視するだけだ。それだけのことだ。

 

 だが、今までと違う。

 

 悠馬は先生と出会ってしまった。

 この集落の人間に復讐した自分を見てしまったのだ。

 彼の言葉に揺らいでいる自分を自覚した今、これ以上憎悪を膨らませたくなかった。

 自分の選んだ道こそが正しいのだと信じたい。

 

 先生は悠馬を解放する、と言った。

 確かにこの道を選んだ自分はがんじがらめだ。絡みついた糸が悠馬の首を絞めている。

 だが、それでもいい。そう決めた。

 

 早く終わらせるべきだ。

 

 悠馬は夕食をかきこみ、片付けをすませるとダウンジャケットを着こんだ。

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