第47話 ロストテクノロジー。
「な、な、なんじゃこりゃ~~~!」
室内の空気が震える、ここが盗聴対策がされている部屋で良かった。
「はっ! す、すまない! 気が動転してしまった! ナイヤ、いや、ナイヤさん! この収納袋は生産が可能なのですか!」
トトリアさんが壊れた!
「ト、トトリアさん? いつも通りで良いですよ、何だかむず痒いので、あと質問の通り生産可能です。
今渡したのが最低容量で、最大10倍まで可能です」
「・・・・・・ナイヤ、話せる範囲で良いから質問に答えてくれ、この収納袋をどうしたい?」
真剣な表情で聞かれたが、ボクとしては興味本位でしかなかったので容量10倍まで行き着けばもう満足なのだ。
「う~ん、質問に対して質問で返してスミマセン、トトリアさんはどうして欲しいですか?」
「・・・正直な話を言うと職人ギルドでレシピを登録して欲しい、コストを抑えてあると言っていたよな、ナイヤの行動を深読みすると下位ダンジョンの素材で製産可能と思っても良いか?」
「そう思って貰ってかまいませんよ、(虚偽)元々この街に来た目的の一つがこのレシピの再現だったので、古いレシピを解読して必要な素材がここのダンジョンで入手出来ると、調べがついたので実際に作ってみようと訪れました」
即興でついた嘘ではあるが問題は無いだろう。
「必要でしたらレシピの登録も
「こちらが出来る最大限で聞こう、何でも言ってくれ!」
何だか覚悟を決めた顔付きだなあ、そんなに重要な物なのか?
「ボクの存在を最大限隠して下さい、トトリアさんの反応からしてとても重要な事だと認識しましたので、状況によってはボクは躊躇わずに姿を消します」
「・・・分かった! オレの命を掛けてもナイヤを守ると誓おう!」
「え? 命はいらないですよ、そんな個人の重い思いは良いですから組織として情報統制して下さい! 実際ちょっと事が大きくなりそうで後悔してきているので・・・トトリアさん、無かった事になりません?」
「ごめん、無理だわオレもこれを無視出来るほど心臓は強くない、ギルマスも巻き込むが良いか?」
「・・・信用出来ます?」
「う~ん、変人だが善人だ! このダンジョン都市ウルグド立ち上げの初期メンバーの1人でハイドワーフの女性だ」
・・・なんか大物との会談になりそう、帰って良いかな。
その後ボクはトトリアさん案内の元、冒険者ギルドウルグド支部ギルドマスター、クレイル・ブリザーさんの執務室へと向かった。
「それで、トトリアさん私に話とは?」
豪華な執務室で対面の席に座り優雅にお茶を飲むハイドワーフの女性?・・・うん、女性だね、今は座っているが身長が優に2メートルはあり、ゆったりとしたフリル一杯のゴシックロリータのドレスを身に纏ったゴリゴリマッチョな女性だ。
大胸筋もといお胸も大きく女性らしさを前面に出しては居るがゴツい、そして違和感が半端ない、いけない人を見た目だけで判断するのは良くは無い事は分かってはいるが、最初のインパクトがトトリアさん分かっていて情報を出し渋ったな。
・・・何かを話し合っているが、ギルマスが気になって話が入ってこない、その衣装は趣味かな? 異世界人がが絡んでいる?
「・・ヤ、ナ・ヤ、ナイヤ! 聞いてるか? ・・・そんなにギルマスが気になるか?」
「・・・す、すみません、知り合いのドワーフと全然違っていたので驚いてしまって」
「ふふっ、良いのよ気にしてはいませんから、そもそもドワーフと言っても、ハイドワーフは別種族なのよ、あまり知られてはいないけれどね、良く驚かれる事があるからもう慣れていますよ、ですからナイヤさんも気にしないでね」
見た目に反して丁寧で淑女っぽい、反応も青いので敵では無い。
「それでは話を戻しましょうか、トトリアさんはナイヤさんが持ち込んだマジックアイテムについて、私にナイヤさんの情報規制をして欲しいと言う事ですね、まずはそのマジックアイテムを見せていただけますか、お話はそれからです」
ボクはクレイルさんに収納袋(容量2倍)を渡す。
渡された品をジッと見つめ、丹念に隅々を調べるクレイルさん。
「・・・成程、ロストテクノロジーですか」
ロストテクノロジー? 随分と地球世界寄りの言葉だなあと思っていたら。
「!?、あらごめんなさいね、ロストテクノロジーとは親友が教えてくれた言葉で、失われた技術と言う意味らしいのよ。
過去に存在した偉大な技術、彼女の彼氏が好きだったわね」
思い出に浸るクレイルさんにトトリアさんが問いかける。
「ギルマスが親友と言われるのはもしや『聖女メグミ様』ですか、ダンジョン伯のお一人でカマモト家の初代当主、そして3英雄のお一人」
ん? 3英雄? ・・・ネクラマンサー尾根倉命は存在を消されている?
「・・・本人は自称聖女って主張していたけれどね、彼女は私に多くの贈り物を与えてくれたわ、親友であり心の友よ♡」
楽しそうであり少し寂しそうに語るクレイルさん、子供の様にはしゃぐが顔の怖いトトリアさん、いくつになっても英雄譚は心を躍らせるのかな。
「話しが逸れましたね、鑑定しましたが非常に良い品です、そしてナイヤさんが危惧するように危険も起こりえます。
冒険者ギルド、いえ私が後ろ盾になればこの街での表だった安全は保証出来ます。
ただし、条件もありますが如何します?」
・・・まあ当然だ、ただより高い物は無い。
条件と言っていたが、おそらく収納袋レシピの情報開示、手数料等の金銭請求、ボク自身の情報開示ってところかな、更に要求が多い様なら断って逃げよう。
「条件の内容によります、ボクからは収納袋一式の見本・レシピの提出、この件で発生する金銭の交渉は問題ありません、ボク自身の個人情報に関しては話せない事に関しては一切話しません。
ボクから提示出来る事は以上です」
取り敢えず一線は引いて置く、クレイルさんボクからの情報が有る方が話しやすいだろう。
「了承して頂きありがとうございます、私から提案する予定の条件とほぼ一致しますので、お話を詰めていきましょう。
まずはその収納袋の全てを見せて頂けますか」
ボクはコクリと頷き見本全ての収納袋をテーブルの上に置いた。
クレイルさんは一つ一つを丁寧に扱い、鑑定をしながら品質を確かめていく。
「・・・どれも良い品質です、次にレシピを拝見させて頂けますか、勿論盗用など致しませんので、ご心配であれば魔法契約も致しますよ」
この辺りの心配は無いので、レシピを収納袋分クレイルさんに渡す、今度も丁寧に一枚一枚食い入るようにレシピを読み込んでいる、ボクはその間邪魔にならない様にお茶を頂きくつろいでいた。
「この素材でここまでの物が出来るとは驚きですね、収納系のマジックアイテムは希少な素材を一流の職人が高い技術と時間を掛けて作り出す物でしたが、このレシピはそれらを根本から変えてしまう」
戦々恐々とした様な表情のクレイルさんが可笑しな考えに行かないように少し別の考え方をボクなりの観点で話す事にする。
「それ程難しく考えなくても良いと思いますよ、その収納袋は確かに安い素材と一般的な腕の職人でも作り出せますが。
所詮は容量が少しあるだけの耐久性もあまり無く飾り気の無い布袋ですから。
冒険者も一時的には使用しても、扱いを考えるとそれ程長持ちはしないでしょうから、好まれないでしょう。
それどころか収納袋に対する不満も時間が経てば経つほど、しっかりとしたマジックバッグが欲しくなる欲求になるでしょうから、棲み分けは出来ると思いますよ。
お父様が言っていました、「千里の道も一歩から」と、どんなに大きなことでも、目の前にある課題をクリアし続けることで成し遂げることができるという意味です。
まずは難しく考えずに世に出してみましょう、駄目ならその程度の物だったと諦めましょう。
元々は必要素材に対して性能が追い付けなかったマジックアイテムですから」
「・・・一つ伺いますナイヤさんは何処でこのレシピを?」
まあ気になるだろうね。
「お父様の遺品整理の最中に書斎で古書から発見しました。
初めは興味本位で解読していたのですが、その内に面白くなってしまって、気が付くと全て解読してしまい。
そうなると実際に作る事が可能なのかワクワクしていまい、出来るかなと必要素材を調べてみると。
とんだ欠陥品だと気付いてしまい、悔しかったので安い素材でも出来る使い捨ててもかまわないマジックアイテムに改良したのがこの収納袋です」
遮る暇も与えずに一気に話した。
「・・・元のレシピはまだ持っています?」
「解読して清書した物で良ければどうぞ」
『ロストアーカイブ』に記載されていたレシピを写した紙をクレイルさんに渡す。
「・・・、・・・確かに素材と製作難易度に対してこの性能は酷いわね、失敗作なのでしょう本来であれば、これは見本があったとはいえ別物ですね、ナイヤさんが作り上げたオリジナルと言っても良い!」
あれ? 流れがおかしいぞ。
「いえ、少し手を加えただけの模造品ですから気にしないで下さい、ちゃちゃっと登録して貰って、登録者の部分をボカして貰えればそれでいいので、こちらの取り分も少なくて結構ですから」
「それがそうはいかないのよ、レシピの登録は職人の権利を守る為、職人ギルドが威信をかけて進めている事なの、元のアイデアは落ち人らしいけれど、ここまで浸透させ成長させたのは職人達とギルドの功績であり誇りでもある、だからレシピに扱いに対しては厳しい審査があるのよ」
うわ、やっぱり止めようかな。
「止めるのは無しよ、職人ギルドのギルマスとはそれなりに仲が良いのよ。
話はしっかりと通すからナイヤさんは私に情報をちょうだい、ぐうの音も出ない程に説得して分からせれば納得する男だから。 実物の見本に、全てのレシピ、元のレシピもお願いね、それと解読に使用した原本って持ち歩いている?」
「全てお父様のアトリエに封印しました、遺言にも「解読した物以外は世に出すな!」と書かれたいましたので」
「答えられなければそれで良いけれど、お父様の御名前を伺ってもよろしいかしら?」
「お父様はお父様です、それ以外のナニモノデモアリマセン。
OK?」
瞳のハイライトを消して虚ろに見つめると二人は無言で何度も首を縦に振った。
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