第41話 ドワーフとの語り合い。


「小僧、ちょっと待て!」


 がなり声の厳つい顔のドワーフに呼び止められた。


 小僧でないので無視しようかと思った途端、“ガン!”と金属の衝突音がした。


「何しやがる! ポルア! 痛えぇだろうが!」


「何しやがるじゃないクソオヤジ! 女の子に小僧とか失礼だろうが! これだからドワーフのおっさんは他種族にデリカシーが無いって言われるんだ!」


 おおっ、女の子と認識されていたのか。


「・・・いや女と言ったらこう“ブン!”あぶなっ! ハンマーで殴り掛かるな! 流石のワシでも死ぬぞ!」


 両手で何かの形を表現しようとして所でポルアさんが片手持ちのハンマーで殴り掛かった、必死の避けるドワーフのおじさん。


「わ、悪かった! ワシが悪かったから勘弁してくれ、本当に家の女衆は手が早くてかなわん」


 まだ他にもいるんだ、おじさん大変そうだね。


「悪かったねナイヤ、オヤジは鍛冶バカだからそれ以外が壊滅的にダメでね、お袋が居てくれればまだマシなんだけれど、アタシだとどうも上手くやれなくてね、せめて店は接客だけでも何とかしたいんだけど、オヤジがこれだから客が寄りつかなくなるのよ」


「そんな事しなくても分かる奴は分かっているから問題無い! それで十分利益はある、全く母ちゃんはこの辺も良く分かって店を回しておったわい」


「こんな事聞くのも不躾ですけど、お母様どちらに?」


「ああっわるいね、良く無い方に聞こえたみたいだね、お袋は今妊娠中でもう直ぐ弟か妹が産まれるんだ、今は大事を取って他の姉妹が面倒を見ていてね」


 それを聞き、ばっとドワーフおじさんを見る、すると照れくさそうに言い訳をし始める。


 内容は惚気話なので、ブラック珈琲が飲みたくなった。


「ごちそうさまでした、どうぞお幸せに」


 と述べて、店を出ようとしたが「待てぃ!」と呼び止められる、チッ!


「どうかしましたか? ボクも忙しい身なので稼がないといけないのでこれで失礼します」


 このドワーフのおじさんこちらを認識してから索敵の識別反応が青色に変化したから、敵では無いと思うけれど面倒な味方は敵より厄介だから関わりたくはないんだよな。


「時間は取らせない、少しその剣と槍を見せて欲しい」


 ・・・あちゃ~、これだから目利きは面倒だ、槍だけでも収納しておけば良かった。


「おいオヤジ、人様の武器を見せろって無茶を言うな、いくらオヤジが凄腕の鍛冶師だからって、他人においそれと自分の身を守る物を渡せる訳がないだろう」


 ヨシ良く言ったポルアさん、そのまま言いくるめて下さい。


「ならばこの右腕を差し出す、危害を加えると思ったら切り落としてくれてかまわない、頼むこの通りだ!」


 右腕の袖を捲りカウンターに差し出すように置くおじさん。


「・・・分かりました、それとおじさんの腕なんていりませんから仕舞って下さい」


 この手のタイプは梃子でも動かないのでオモチャを与えてさっさと解放して貰おう、ポルアさんもおじさんの気迫に固まっている。


「どうぞ、但し他言無用ですよ、いざとなったら記憶を消しますからね」


 一応釘は刺しておく。


「おう分かった、職人は口が堅くなければ信用問題になるからな、どれどれ・・・」


 ボクから飾り用の剣とサンダードラゴンの短槍をニヤニヤと笑みを浮かべながら受け取り、受け取った後は真剣な表情で先ずはショートソードから見始める。


「・・・これは、・・・ほうほう、・・・なんと! ・・・」


 ショートソードを鞘に収め、次はサンダードラゴンの短槍を手に取り穂先の保護用カバーを外した途端に硬直する。


「・・・・・・こ、これは、・・・信じられん、・・・いやしかし、・・・一体どうやって、・・・いやこれは、・・・はぁ素晴らしい、・・・」


 恍惚とした表情でカバーを戻してから、剣と槍をボクに返却してくれた。


「良い物を見せて貰った、ありがとう」


「オヤジそんなに良い物だったの? アタシには普通のショートソードに見えるけれど」


 ポルアさんがおじさんに尋ねる、通常であればそう見える様にしてあるからね、このドワーフのおじさんが凄いだけだからポルアさんの反応は間違ってはいないよ。


「まあポルアじゃあ、まだまだ分からんだろうよ、長年武具にたずさわった職人でないと気付かない違和感だからな。

 ナイヤ嬢ちゃん、ワシの名はドルゴックだ、娘に後学の為に説明してやっても良いかい? 勿論他言はさせない、おまえもここで起きた事は決して他言するな良いな! それと今日は店終いだ、戸締まりしておけ」


「わ、分かったよオヤジ」


 ポルアは普段と違う父親に戸惑いながら指示に従う。


 ボクも自分の作品がどう評価されるか気になり許可を出し、剣と槍をカウンターに置いた。


「これで余計な邪魔は、入らんだろう。

 まずはこのショートソードからだ、ポルアお前からはどう見える?」


「えっと、普通の飾り気の無い量産重視のショートソードに見えるけれど違うのか?」


 戸惑いながらも感想を話すポルアさん、アナタの感想は間違ってはいないよ、ボクがそう見える様に細工をした物だからね。


「まあ見た目は概ねその通りだ、そう見せるために造形されている、見た目通り切れ味はあまり良くは無い、切るにしても技術がいる、通常では叩き切る鈍器と言っても良い」


 うむ、概ねその通りだ、剣での殴り合いを想定した物だ、ドルゴックさんは分かってらっしゃる。


「だが、真にえげつないのはここからだ」


 !? えげつないとは此れは如何に。


「このショートソードには耐久強化・物理魔力耐性強化・硬質強化・修復の付与が成されている、剣の形をした武具破壊器だ。

 硬度・耐久だけでもAランクはある、鉄剣に見えるが特殊な技法を用いた精錬をした別の金属だ、ワシが知る鉄には無い粘りと堅さがある。

 形だけの身綺麗な剣であれば例え魔法剣であっても、打ち合う内に刃がガタガタになるだろうな。

 そしてこの剣の様相はなぁ、そういった剣の性能にうつつを抜かし己を磨かない自信家が、自慢の為の見せしめに真っ二つにしてやろうと思えてしまう傲慢さを呼び起こす魅力のような物を感じる」


 ほう、隠し付与の「衝動誘因」を見抜いたか、武器を持つ者が少なからず思い描く華麗な相手の武器破壊、そんな気持ちが少しでもあればボクの『魔剣ヤイバハミ』を切り折りたくなり一合二合と刃を合わせたくなる、結果として相手の武器がボロボロになってしまう、我ながら意地の悪い物を作ってしまった。


「ポルア、魔法剣と魔剣の違いは分かるな」


 何やら授業が始まった。


「えっと確か、魔法付与の数だっけ、魔法剣が1~2付与、魔剣が3~5付与、それ以上は伝説上の宝剣だっけ?」


「まあそんなところだ、宝剣と呼ばれるのは例えば聖剣・神剣・邪聖剣など様々あるが、ほとんどがお伽話に出てくる物ばかりだ、実際に存在しても表舞台に出る事は殆ど無い、国であれば国宝として厳重に保管している」


 ヘェ~、戦略兵器みたいな扱いかな、強力ではあるが奪われると不味いから気軽に表には出せないとかかな?


「だが重要なのはそこじゃあ無い、例えこのショートソード自体が良く出来ていても、魔法付与4つは不可能だ!」


「・・・でもオヤジが言っていたのは4つだろう? ボケたか」


「ボケとらんわい! 魔法金属でも無いただの金属に4付与も載せる事なんぞ通常では出来んと言っている! そしてその謎も既に目星は付いておる! ここじゃあ~!」


 と勢い良くショートソードの柄頭を指さす、正確には柄頭にはめ込まれたサブマナクリスタルである。


「この虹色の石、いや魔法玉が全ての付与を可能としている! どうじゃ! 当っとるかぁ!」


 ・・・えっ、ボクが答える感じなの? うわ凄い注目されている、仕方が無いボクは空気が読めるから褒めてあげよう。


「正解です!」


 と拍手をしながら答えた、するとドルゴックさん天井に腕を上げ叫んだ。


「オッシャアァァァァァ!!」“ゴイン!”


「うるさい! 近所迷惑だろうがクソオヤジ!」


 ポルアさんがドルゴックさんの頭に被った金属製の帽子をハンマーで殴り正気に戻らせる。


「・・・すまん取り乱した、嬉しさのあまりガキの様にはしゃいでしまった、失礼な事をして本当に済まなかった」


 う~ん、本当に嬉しくてはしゃぐ事をボクは悪い事とは思わないけれど、相手によっては侮辱されたとか侮られたと感じてしまう事もあるか、人の機微は複雑だからね。


「おほん、改めて次に行こうか、この短槍についてだが柄に使用されているのは希少素材のスチールツリーだ、金属の様に堅く、そしてしなやかさを持つ、魔力を通せば更に堅くなる、加工前の状態でもこの短槍分で最低仕入れ額が金貨一枚から始まる」


 そんな高級素材を気にせずにバンバン使用していますし、在庫もかなり抱えてます。


「だが問題は槍の穂先だ、ポルアこれが何か分かるか?」


 カバーを外してポルアさんに短槍を見せながら問い掛ける。


「・・・金属では無いよね、モンスターの硬質部位を削り出して磨いた? 牙や爪とも違う、角も違うか、甲羅、いや鱗? この刃渡りを可能にする鱗って、ドラゴン?」


 息を飲みその単語を絞り出すポルアさんにドルゴックさんはにやりと笑う。


「おう、正解だ! しかもサンダードラゴンの鱗だ、武器に雷属性が付いていやがる、製作者の腕が良くなければ素材の属性を武器に付ける事は出来ん、魔法付与とはまた別の技術だ、それに飾りには例の魔法玉が吊るされているが、吊るしている紐も見た事の無い素材だ、鑑定が弾かれた程だ」


 ああそれはシャイニスをブラッシングした際に抜けた抜け毛を糸に加工して編み込んだ物です、いや~加工には苦労したよ、常にキラキラと光っていてツヤ消しが一番大変だった。


「だがなポルアよ、ワシが最も驚いたのはこれ程の希少素材を使用して出来上がった物が、いかにも見た目がよくある普通の槍と言う事だ! ワシには出来ん!! ワシの感性がおかしいのか? 素晴らしい技量だ! ワシには無い技法だ! ほぼ飾り気の無い性能を追求した魔槍だ!」


 ・・・あれれ? 褒められているような、そうじゃ無いような、職人として納得がいかないのかな・・・う~~~~ん、分かるはその気持ち! ボクだったらこうしたこう出来た、自分の腕で試してみたい! エゴでありプライドでもある。


〈自分だったらこう作る、いや作らせろ!〉


 は言い過ぎだが何処かで考えているはずだ、いかんな・・・分かっているだろう・・・面倒ごとを嫌がるくせにボクは・・・本当に好奇心に勝てない奴だ。


 ボクは大籠から出した様に見せかけて、サンダードラゴンの素材と幾つかの希少素材をカウンターに置いた。


「こ、これは一体何の真似だ、ナイヤ嬢ちゃん」


 困惑の表情を浮かべては居るが目線は既に素材をガン見している。


「ドルゴックさんでしたらこれらの素材で何を作ります?」


 ゴクリとノドを鳴らし、指先がわなわなと震え出す、そして絞り出すように問い掛けてきた。


「い、いいのか? ワシの好きにして・・・」


「ええ、ドルゴックさんが思い描く様にその衝動を開放して下さい♪」


 弾けるように動き出したドルゴックさんは素材を抱えて作業場へと駆け込んでいった。


 その光景を呆れたように眺め、ボクに対して済まなさそうにポルアさんが謝罪した。


「わるいね、こんな事になってしまって」


「いえ、ボクも煽るような事をしてスミマセン、好奇心に勝てなくて、これは依頼料の前金です」


 そう言って金貨を5枚カウンターに置いた。


「いやこれは受け取れないよ、素材だけでもとんでもないのにその上、金貨5枚なんて貰えない!」


 受け取りを拒否されたので言い方を変える事にする。


「では武具製作の技術料と、ドルゴックさんの監視役としてのポルアさんへの依頼料と、当面の生活費と、少し早い出産祝いと言う事で、受け取って下さい、あの手の職人はオモチャを与えると寝食を削って打ち込みますから監視をお願いしますね」


「・・・あ~分かったよ、ありがとうね! 期限はあるかい?」


「当分はダンジョンに挑戦しているので、様子見で1月後に顔を出します、用事があったら冒険者ギルドのトトリアさんに伝言をお願いします」


「ああ、あの強面のおじさんね、分かったわしっかりと見張っておくから安心してちょうだい」


 ついでだからと、また大籠から出すフリをして酒瓶を5本渡しておく。


「一応お近づきの印に渡しておきます、酒精の強いお酒ですので飲み方に気を付けて下さい、火気の近くだと燃えますから」


 とスピリタスを渡した。


「はぁ、燃えるってどんなお酒よ!」


 ポルアさんもいっぱいいっぱいだった様で思わず叫ばれてしまった。

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