第38話 懲りない人は何処にでも居る。


 疲れた! ただただ疲れた! トトリアさんが張り切ってしまい落ち着いて貰うのに大変だった。


 他のギルド職員さんもあの顔に怖がっていた、本人が普通に話していても相手からすれば威圧されているような感じになるから難しいよね。


 ある程度解体を済ませてある肉を解体所に並べて審査と精算をして貰う、トトリアさんはというと解体所現場の長らしき人と話し込んでいる、所長は筋肉ムキムキマッチョマンのおじさんだった。


「おう、この処理をしたのはこの坊、いや嬢ちゃんか。

 良い腕だ良く仕込まれたいる、良い師匠に教わったな」


「はい亡くなった父に教わりました」


 笑顔で答えると、マッチョおじさんとトトリアが目を反らす。


「そ、そいつは悪い事を聞いたなスマン」


「いえかまいません、父も高齢でしたし、母も姉も国の小競り合いに巻き込まれて天に召されたそうなので孤独には慣れています」


「・・・もし食うに困ったらウチに来い、面倒見てやるから俺は解体所所長のサーポンだ、これは買取上限一杯で買い取ってやる強く生きろよ嬢ちゃん」


「ありがとうございます! サーポンさんしばらくお世話になりますね」


 少々ここのおじさんは不幸で素直な女の子に甘いような気がする、まぁボクも狙って受けの良い行動を取ってはいるが、え?良心は痛まないよ、ボクも転生を100以上こなして来た準ベテランなのよ。


 ボクが外で狩ったモンスターとダンジョンで解体したモンスターにドロップしたモンスター肉を一部残して全て買取に回した。


「おいおい、ドロップ品に姿肉が出てるって事は本当に良い腕をしているな」


「?」


「分かってないみたいだが、モンスター丸ごとの肉をドロップさせるには、制限時間内に決められた解体処理を施さないといけない。

 それでもドロップし無いときもあるから貴重なんだよ、だから貴族や商人が縁起物として欲しがるから、冒険者ギルドとしては率先して買い取りたい品だ。

 何せダンジョン産は保護膜を被せたままなら日持ちもするし虫も付かない最高の品さ! 今後も是非冒険者ギルドに頼む」


「冒険者ギルド以外でも買い取っている所があるの?」


 あっ、やべって顔で眼を反らし、少し間を置き話したくなさそうに話す。


「個別で買取を申し込んでくる奴とか、商人ギルドや職人ギルドが冒険者ギルドを通さずに個別で依頼する事がある、特に高額になる品を直接持ち込むように依頼してくる。

 冒険者ギルドの依頼料よりも高くしてな、仕舞いには隠れて腕の良い冒険者を専属として引き抜きまでしやがる。

 まぁ本人の意思だから冒険者ギルドもうるさくは言わないが、元気な内に稼ぎたいのも分かるし・・・・・・」


 何かを思い出したようにブツブツと愚痴が始まる、そのサーポンさんの姿にトトリアさんが仕方ないなと呆れ顔でフォローをし始める。


「ナイヤ気にしなくて良いぞ、アイツは色々と抱え込むから時々ああなるんだ、しばらくしたら落ち着く・・・ただ冒険者ギルドを通さない依頼には気を付けろよ、各ギルドからの依頼であれば問題はほぼ無いが、個人や特に貴族からの個別依頼はキナ臭い事が多々ある、そんな時は出来るだけ『冒険者ギルドを通してくれ』と言っておけ、拒否するようなら断れ、碌な事にならんからな」


「・・・分かりました、目を付けられないように注意します」


 と答えたが、トトリアは少し困った顔をしていた?


「こんな事言うのも酷だが、多分もう幾つかの所が気に掛けていると思うからもう少し活躍すると接触してくるかもしれないぞ、一芸に特化したソロの冒険者はどこも欲しがるからな、特に解体スキルの腕が良い冒険者は人気だ、皆が紳士的な勧誘をするとは限らないから身辺には気を付けろよ」


「分かりました気を付けますね」


 そんな話をしている内にサーポンさんも正気に戻り、買取金の受け取り番号札を渡される、軽くお礼を言い解体所を後にしてトトリアと一緒に受付前広間へと向かう、その際にチョット相談した生活魔法スキルオーブについてアドバイスを貰った。


 トトリアさん曰く、売っても良いし、すでに生活魔法を覚えているのであれば再度スキルオーブで重ね掛けをして、生活魔法のランクやレベルを上げるのも選択肢の一つだと言われた。


 鍛えなくても同型のスキルオーブ使用するとランクとレベルが上がるのは知らなかった事だ、ただし嘘か真かは検証した者が居ないが鍛え上げたスキルの方が、重ね掛けのスキルよりも質が上だという話があるらしい。


 まぁ要は時間を掛けて質を上げるか、時間を短縮して普通で妥協するか、本人次第と言う事らしい、取り敢えずは収納の肥やしかな。


 何事も無く受付に戻ると、トトリアさんが買取金を用意するから少しの間隣の併設している休憩所で待っているように言われた。


 休憩所では普通に飲み物やアルコール濃度の低い酒類に軽食が販売されている。


 主に待ち合わせや軽い休憩、クエストボードに新しい依頼が出るのを待っていたりと個人によって様々だ。


 ボクもお勧めの果実水を購入して空いている席で一服する、空いていたのはカウンター席のみだったので、チビチビと果実水を飲みながら周囲の気配を探ってみると、いくつかの視線を感じるのに気が付く。


 今の所は敵意は無い、好奇心かあるいは興味があるのか分からないが、実害が無ければ問題ないボクだって他者に興味が湧くときもあるので無視を決め込む。


「ボーネク! 早く来てくれ! 逃げられちまうかもしれない!」

「はぁ、ピロック慌てるなよ、大体本当にいるのか? ギルドの建物内で面倒は御免だぞ」


 何だか五月蠅いのが来た、揉め事か関わりたくないな周囲の視線も騒いでいる連中に向いている、あれ? 索敵に反応が出た1人は真っ赤で殺意すら湧いている状態だ、もう1人も赤ではあるが悪意を持っている反応か、他4名は中立の黄色、さっき建物に入ってきた連中か・・・なんでボクに殺意と悪意? ボク何かしたっけ。


「でもさっきギルドに入るのを見たってトムが言っていたから、逃げられる前に治療費をぶんどらないと!」

「おい物騒な事を言うな、まずは話し合いからだ、ピロックが怪我をしたのは事実なんだから治療費ぐらいは何とかなるだろう」


 ちらっと見たがあれは初心者ダンジョン2階層でボクを襲った(?)おデブ君ではないか! 包帯をわざとらしく右腕以外にもグルグル巻きにしているけれど治療はしたのかな? う~ん、包帯で巻いただけだね、もしかして全身の包帯もボクの所為にするきかな。


 周囲の冒険者も苦笑いと酒の肴が来たとコソコソ話している、明らかに言いがかりを付けるきだと見られているようだ。


「ナイヤこっち来い」


 そんな騒ぎの中トトリアがカウンターから手招きしてボクを呼ぶので飲み終えたコップをマスターに返し「美味しかったです」と一言言い大籠を持って受付へと向かう。


「あ~~~~~っ、おまえ! やっと見つけたぞ!」


 まあ当然発見されるが無視して進む。


「止まれ! お前だ! お前! 無視するな!」


 おデブ君は仲間の制止を振り切りボクへと詰め寄り、まともに動く左腕でボクの襟首を掴もうとしてきたので、今度は手加減+払い除けるインパクト時に一瞬防護魔法で攻撃を軽減して無傷で左手を払う。


 “パシン!”と軽い音がした瞬間“ゴキリ”と別の音が続いて響いた。


 ボクがおデブ君の左手を払ったまでは良かったが、おデブ君が貧弱なせいで左腕は斜め上に勢い良く跳ね上がり反転しその勢いで肩が外れたようだ。


「ひっ、ひがああああぁぁ! いっいでええェェェ! おがあじゃあああんんん! いでぇぇぇぇぇよぉぉぉぉ!」


 1人阿鼻叫喚な状態のおデブ君ことピロック君、唖然とするお仲間達、ワクワクしながらことに顛末を見ている冒険者ヒマ人達、一部始終を見ていて頭を抱えるギルド職員の皆さん、無視してトトリアの所へ向かうボク。


「ナイヤ、何だアイツは?」


 簡単に初心者ダンジョンであった事を説明する。


「ああ、それなら今のも含めてアイツが悪い! 渡してある冊子にも書いてある、〈やってはいけない冒険者への敵対行動〉に該当する。

 それに軽く手を払われた位でああなるなら能力不足だ、後衛職であっても冒険者には向いてないな」


 トトリアさんがハッキリと他にも聞こえるようにボクに説明してくれた。


 痛みで泣き叫ぶピロック、こちらを睨むボーネク、オロオロするトムと仲間達、ギルド職員に言質を取ったボク、もう一騒動して欲しくて彼らを小声で煽る一部に冒険者、すかさずスキル威圧を掛け黙らせるトトリアさん、冒険者ギルドはカオスと化した。


 でもボクは悪くない!


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