第36話 初心者ダンジョン・5


 わざとらしい嘘泣きを止め、ここからが本題デスとまだ巫山戯ながら話し出す。


『外部からの結界破壊を不可能にする事で内部からの結界破壊は条件が揃えば簡単に可能となります』


「その言い回しだとその条件とやらをボクに何とかしろって言いたいの?」


『Exactly、もちろん報酬はお支払い致します』


「あー、いやいいか、その報酬って何?」


『この現在初心者ダンジョンと呼ばれる前の上位ダンジョン〈

ホーリーマリオネット〉に蓄積されている財宝の全てが報酬でございます』


 恭しく従者の礼をしながら人形の口角が上がり三日月の様な形になる、いやらしくそして姑息だ、人の欲を突いてくる、更に厄介なのはボクがその誘いにまず乗ってしまう事だ。


「何をさせたい?」


『我が主の思い人が残された使い魔を退治して頂きたい』


「使い魔」


『ネクラマンサー尾根倉命が封印間際に作り出した最悪の狩人「ライフリーパー」を討伐して頂きたい』


「・・・ライフリーパーか、ここに居るのか?」


 辺りを見回しながら問い掛ける。


『討伐を承諾して頂ければ封印を解除します』


「封印されているのか? ならそのままでも良いのでは?」


『ライフリーパーの封印は通常の封印ですのでいずれ自力で破られるか、事故や不測の事態で解除される場合があります、そしてこのライフリーパーがネクラマンサー尾根倉命の封印を解除してしまう存在なのです』


「ライフリーパー以外に封印解除が可能な存在は?」


『我が主以外は存在しません、己が身を全て懸けた封印です、魔力はダンジョンからほぼ無限に供給されます』


「まあ上位ダンジョンを下位ダンジョン以下にまでする程の魔力を使用しているようだからなこの封印に、容易に出来る事では無い」


『ご理解頂き恐悦至極に存じます、ではご依頼お受けして頂けますか』


「その前に質問だ、解放されたライフリーパーの目的は主の封印の解除で間違いないな、そして封印解除の方法は?」


『ライフリーパーの目的はご指摘の通りデス、解除方法は同胞である地球からの転移者を生け贄として最低でも10人の命を刈り取り捧げる事デス』


 そう話す人形の表面に僅かな亀裂が入り始めた。


「・・・分かった引き受けよう」


『ありがとうございます、実はかなりギリギリでした、ライフリーパーの封印は定期的に術式の整備をするように管理者に伝えてあるはずだったのですが、ここ十数年まったく補修されておりませんでした、あなた様がここに訪れなければ巻き添いを含めてもどれだけの犠牲が出た事か、それを知った我が主も悲しみます』


「管理者の怠慢、あるいは伝達が途切れたか、良くある話だな。

 合分かった! その依頼、猫女神精鋭部隊『猫の手』所属、魔導式人造人間718号、ナイヤ・ルートスが引き受けた! さあ! 封を解け! 戦いの鐘を鳴らせ!!」


『お  ねが  い しま    す』


 すでに人形の亀裂は全身に行き届き、表面の装甲がパラパラと剥がれ落ちていく。


「・・・さあ、始めようか!」


 ボクは短槍をライフリーパーへ向け構える。


『刈ッ、刈刈ッ、刈刈刈刈ッ、刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈刈ッ!!!!』


 ボロボロと崩れ落ちる装甲の下からは艶やかで滑らかな皮膚が現れ、全てが剥がれ落ちた後には妖艶な全裸の美女が立っていた。


「ライフリーパーか?」


『・・・あはぁ♡』


 突如ボクとの間合いを詰めるライフリーパー、左手でそっとボクの首に指先を触れようとするが、ボクは瞬時に短槍出払いのける、払いのけたスチールツリーの短槍に僅かな切れ目が出来ていた。


『おしいぃ♡ あと1㎝足りなかったぁ♡』


 愛おしそうに自身の指を舐めるライフリーパー。


================


名前 ライフリーパー

Lv 69

種族 ラブドール(特殊個体)

性別 メス


筋力 A

体力 A

器用 S

速力 S

知力 B

魔力 A

幸運 C


スキル

〈種族スキル〉

・愛舞 ・刈り取り ・刃形成 ・特殊プレイ ・縄術 ・形状変化 ・房中術 ・暗殺術 ・加速装置


〈称号〉

・命の狩人

・ネクラマンサー尾根倉命の使い魔


================


 ・・・強いな、そして厄介なスキル構成だ、一瞬だが指先が鎌のように変形し頸動脈を狙ってきた、寸前で躱すのは危険だな通常状態だと、しかし人形の中に封じていたのか、あるいは浸食されたのか、管理を怠ったツケなのか、作為的なモノなのか、考えたら切りが無い。


『アナタは地球人? それとも日本人? どちらで無くても私にその命をマコト様の為に刈り取らせて、オネガイ♡』


 甘い口調で強請る様に身体をくねらせ間合いを詰めてくるライフリーパー、会話は可能なのか?


「その前に質問をしても良いか」


 試してみよう。


『あらぁ、ナニかしらぁナニが聞きたいのぉ?』


 そう答えながら、指先全てを鎌状の刃物へと変化させ抱きしめようとしてくる、良く見ると身体からも昆虫の大顎のように鎌が大口を開けて待ち構えていた。


 咄嗟に躱し距離を取る、コイツは会話を捕食の手段の一つとしている、会話による情報の習得は無駄だろうな、意味を成さないだろうから。


 その後も何度も話しかけながらボクを捕捉しようとするライフリーパー、長い黒髪をロープ・ムチ・鉤爪・茨触手になどに変化させ攻撃を仕掛けてくるが、ボクとシャイニスは持ち前の速度で易々と躱す、ただ受け流しに使用していたスチールツリーの短槍が途中で切断されてしまい、ちょっと落ち込んでしまったお気に入りだったのに。


『アアぁぁああぁぁアア亜あぁぁぁぁぁぁ阿ぁぁぁぁぁぁ! ナゼ狩れない! 何故刈らせ無い! マコト様の糧にナゼならない! 同胞なら命を捧げよ! マコト様が故郷へと帰るために! その命! 刈り取らせろぉおぉぉぉ!!!!!!』


 形振り構わず暴れ回るライフリーパー、少し哀れにも見えるがここで見逃して解き放てば死体の山が出来るのは明白だ。


 しかし地球への帰還のためにダンジョンを爆発させるつもりだったとはね、でも残念な事にそれじゃあ無理だ。


 大陸が半分が吹っ飛ぶ程度の力では地球への転移は出来ない、平行世界でならともかく異世界同士の場合はそもそも使用される力そのものが違う。


 ・・・そろそろ終わらせよう。


 (偽装解除、メインマナクリスタル解放、サブマナクリスタル生成、マナ粒子集積加速、余剰マナ粒子放出、エフェクト発動)


 本来の戦闘モードに強者感が漂う虹色のオーラ、ライフリーパーが始めて後退る。


『なぁにソレ?・・・・・・何だと! 聞いているでしょうがアアアアアアぁぁ!!!』


 ほぼ全身を刃物と変え飛び掛かってくるライフリーパー、ボクはゆったりと脱力した構えをして迎え撃つ。


 脱力状態からそのまま崩れるように倒れ込みその力を利用した状態で加速系スキルと縮地を併用使用する、ボクは結構色々と織り交ぜてスキルを使用する事がある、弊害もあるが有用性も多いので多用してしまい、希に新スキルを生み出してしまう。


 ライフリーパーは目の前の獲物が倒れ込む姿に刈り取るチャンスと全身と髪の毛も使用して後方からも包み込むように襲いかかる、だがしかし確かに目の前で倒れたはずの獲物を突然に見失ってしまう。


 そして気が付いた時にはその獲物が自身のコア部位急所に手を当てていた、おかしい? 何故そこに居る? ナゼコア部位が表面に出ている? そしてこの七色の不快な光は何故私を分解させている? なぜ? 何故? ナゼ? Why?


「じゃあな、ライフリーパー『神打輝光掌しんだきこうしょう』」


 ナイヤが打ち込んだ掌底は、ライフリーパーの刃物だらけの胸元を分解消滅させコア部位を曝け出させる、そしてコア部位にそっと触れマナ粒子を輝光樹の力と掛け合わせて、ライフリーパーを浄化の光で包み込む。


 浄化の光に包まれ崩壊していくライフリーパーは愛しさと切なさが入り交じる声で最後の言葉を呟いた。


『もうしわけございません マコトさま こころよりお・・・』


 最後まで言い切る事無く消滅したライフリーパーの跡をしばしボク等は見つめる、ライフリーパーの気持ちは理解出来ない訳でも無い、ボクにも大切な我が女神がいる、でもだからといって共感し解放するつもりは無い。


「ボクがここに居合わせた事を運が悪かったと諦めてくれ」


 しばしの黙祷を捧げた後、エリア中央に無造作に山積みと成っている財宝にこれをどう処理しようかと頭を悩ませるが、取り敢えずは収納に仕舞っちゃう事にした。


 あっでも初回のみで出るアイテムはどうしよう・・・うん適当にこの〈生活魔法〉のスキルオーブで良いか。


「・・・では良い夢を」


 ボクは誰も居ない空間に話しかけそのまま出口用の転移陣へと入る。










『・・・・・・・・・ありがとう』


 もう誰も居ない場所で微かにそんな声がした。

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