第29話 祈りの先。


 トトリアさんに紹介された宿屋は普通だった・・・決して悪い意味では無く、シャイニスを預ける場所もあったし、料理もそれなりに美味しい、ベッドはいまいちだったから就寝時だけボク専用の寝具と交換した、前世で品質の良い生活を経験していると、この様な時に比べてしまう弊害が出る。


 朝食も済ませまず済ませておくことはエルナさんからも言われていた成人後の神への祈り、ほぼ間違いなく神からの贈り物スキルギフトが授かるそうだ、でもボクの場合は年齢偽装しているし、この世界の神を信仰していないし、我が女神以外の神など有象無象ですしお寿司。


 実際無視をしても良いのだが・・・エルナさんには色々とお世話になったし、心遣いを無下にするのは我が女神の教えにも反するので勧められた事柄は一通り体験しておこう、「実地に勝る経験は無い」と前世のどれかの師匠が言っていた。


 そんな訳でシャイニスは人目の無い所で、マッドガーデンに移動させてボク1人で神殿へと向かう。


 道順は宿の女将さんに既に聞いているので迷うこと無く到着した。


 ・・・神殿もデカい、儲かっているんだろうなぁ。


 綺麗に整われた柵に囲まれ綺麗な建物、門の前には数人の神殿関係者、多分見習いの類いだろうボクは和やかに話しかけて、成人の祈りは今は可能かを尋ねた。


 その結果、それはそれは懇切丁寧に説明と案内をしてくれた。


 途中で神官の方が引き継ぎ礼拝堂へと向かうが去り際に見習いの方にお礼を言う。


 一般人用の礼拝堂は然程歩くこと無く到着した、神官にお礼と心ばかりの献金を渡して先へと進む、既に様々な方々が十数人程が祈りを捧げているので、ボクも邪魔にならない様に隅っこで祈りを捧げる。


『テステス、ハローモルセニア! ボクの名はナイヤ! アーザルト・ルートスが作、魔導式人造人間718号! そしてその実態は猫女神精鋭部隊『猫の手』! 仕事が終わったので挨拶に来ました、取り敢えず寿命までは居座りますので、それまでヨロシクお願いします。

 追伸、追加依頼はお断りします、悪いがボクは休暇だ』


 祈り?を済ませて目を開けると、そこは良く知っている白い空間『神の呼び出し部屋』だった。


 ・・・周囲調査索敵・・・アストラル体での召喚・・・神体顕現の反応を確認・・・3・・・2・・・1・・・


 光の粒子が集まる演出の後にボクの2メートルにサバトラ模様の短足猫がユッタリとしたローブを纏って2足立ちで現れた。


「ニャアニャアコンニチニャ、我が輩は主神様の代理でまいった、モルセニアの猫神だニャ」


 短い右前足をピコピコ振り自己紹介をする猫神様、主神様ナイスチョイス!


「どうも初めまして猫神様、魔導式人造人間718号通称ナイヤです」


 自己紹介の挨拶を済ませ以前から前世で買い溜めし持ち込んできたアイテムを収納から親善のための贈り物として取り出す。


「こちら、チュール詰め合わせになります、どうぞお納め下さい」


 綺麗に包装された贈り物を猫神様は眼を細めて短い前足で受け取り落とさないようにキュッと抱え込む。


「コレはコレは貴重なしにゃをありがとうニャ、後で楽しませていただくにゃ」


「では挨拶も済みましたのでご用件を伺ってもよろしいでしょうか」


 実際何故呼び出されたのかが分からない? 挨拶だけでアストラル体ごとこの場所に召喚されることはまず無い。


「そうですね、あまり時間も取れませんので用件を済ませてしまいましょう。

 先程も言いましたが、本来であれば主神様が対応されるはずでしたが。

 ここ900年の調に急な調が入りまして手が離せません、ですので我が輩が猫繋がりと言うことで代理を務めさせて頂くにゃ」


 ・・・ん、急な世界樹の調整?


「もはや諦めていた古代に滅んだ世界樹が新たな姿となって復活しましたニャ。

 その復活にともにゃい、溢れ出る膨大な魔力を調整するために主神様が陣頭指揮を執り調整の真っ最中デスにゃ!」


 ・・・ん、新たな世界樹?


「世界樹の復活直後は膨大すぎる魔力膨張で原形を保てずに崩壊してしまう所まで状態が進んでしまい、主神様も必死に崩壊を押えようと各神々と協力してましたにゃ」


 ・・・うん、ボクやらかしたかも。


「そんな時に颯爽と現れたのがナイヤ殿! 新たな魔力構成を使用し、見事世界樹を安定させられた! 主神様含め全ての神々がこの奇跡に沸き立ちましたにゃ!」


 ・・・怒ってない?


「主神様も是非お礼がしたいとおっしゃっておりましたが、新たな世界樹を安定させることを優先されましてこの様な形となりました」


 ・・・ヨシ!


「いえいえ、そのようなお気遣いボクのような者には、それだけで十分なお言葉です!

 世界を管理されている主神様が、まずは優先されることはこのモルセニアの安定でしょうからボクの事はお気になさらないで下さい。

 我が女神もきっとそうおっしゃります」


 他世界の神が絡む面倒ごとは経験上関わるだけ損しかしないので、当たり障り無く「ボクは他所の神の僕なので、気にすることは無いよ」とアピールしておく。


 そう思いながら猫神様に視線を向けると、ウルウルとした眼で上目遣いをしてきた。


「にゃんと、にゃんと、謙虚な御方にゃ! 我が輩感動しておりますにゃ~~~!」


 叫びながら飛び付いてくる猫神様を受け止める・・・あっ、凄く良い毛並みだ・・・・・・たまらん!


 ・・・気が付くとそこには恍惚としたお顔でアヘッている猫神様がいた。


「あ、あ、あ、あのような体験初めてにゃ、猫女神様が絶賛していた『ヘブンフィンガー』の使い手とはナイヤ殿の事だったにゃ!」


 え? なにその『ヘブンフィンガー』って。


 我が女神? 何を吹聴しているのですか?


「はっ! いけにゃい! 時間制限を忘れていたにゃ! 我が輩痛恨の失敗、ナイヤ殿ここからは巻きで行きますにゃ」


 そこからは本来の用事へと移行した、まずはボクに世界樹(輝光樹)のお礼として秘蔵のユニークスキルを頂けるそうだ。


 そして更に本来ランダムで送られる『スキルギフト』のスキルを自由に1つ選んで良いそうだ。


 そして詳しい事情と説明は現在世界に8冊しか存在しない『真実の書』と呼ばれる神聖書を特別に9冊目を頂いた。


 『真実の書』とはモルセニアの過去と現在を知ることが出来る書物で質問に対し対価を支払うことにより真実を閲覧することが出来る、但し大抵の場合は高い対価と真実の重みに耐えきれずに発狂する者が後を絶たないとされるため禁書として所有者及び神殿が封印している。


 まぁ表向きには、そお言う事にとされているけれど都合の悪い真実ばかりで表に一切出せないのが本当で、閲覧の対価に大量の魔力が必要とされ常人であれば直ぐに魔力が枯渇して昏睡状態に陥る、知りたい真実が人類の悪行三昧であることが殆どのため閲覧者は黙るか、逃げるか、口封じされるかで真実は何時も闇へと消える。


 現在4冊を神殿が、2冊を何処かの国が、管理封印しているとの事、残り2冊は行方が分からないとなっている、更にこの神聖書は破壊不可・改ざん不可・上書き不可・干渉不可と不可三昧で隠すしかないらしい。


 ボクが渡された9冊目は特別仕様で対価無しで好きに閲覧が出来る、但し所有者であるボクだけという仕様だけれど。


 そんなこんなバタバタとしている内に時間一杯となり戻ることとなる、猫神様は名残惜しそうにしていたけれど、ボクはモフモフ出来て良い一時だった。


 互いにお礼とお別れをし、次に目を開けたときは先程の礼拝堂だった、周囲にも変化がなくここではほんの数秒の出来事だったのだろう。


 ボクは用事は済んだとばかりにさっさと出て行く素振りをして神殿を後にする。


 ・・・良し尾行は無し! たまにあの手の異変を感じ取れる人物がいるから警戒しておいて損はない。


 では一度宿屋に戻って頂いたモノを確認しよう。





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