第24話 旅の道中はフラグが一杯?
ナイヤとシャイニスはイスラートを無事に出発し、ダンジョン都市ウルグドへ向けて街道を進まずにがっつり寄り道をしていた。
こちとら何度も転生を繰り返してきたベテランだ、素直の街道なんて歩いていたら間違いなく襲撃フラグが立ってしまう。
ボク自身だったり知らない他人だったり特に面倒なのが身分の高い連中と態度のデカい商人、アイツらは人を見下して上から目線で命令してくる、まともな相手だったこと等は数えるほどしか無いし、なによりピンチの際に都合良く助けが来るのは創作物での物語だ。
大概が間に合わないことが多い、ボクも何度も経験したよ前世で、じゃあどうするのかと聞かれると常にチート級の索敵を巡らせ備えるか、割り切って状況に合わせるかかな。
見捨てることも自己防衛だし、悪い状況で助けると醜聞を嫌う相手だと口封じにお礼と言いつつ殺しに来るからねマジで、いやぁ懐かしいなぁ。
「ほい!」
そんな前世の思い出を思い出しながらスチールツリー製の槍を振るう。
「ぐぎゃ!」「げっげっ!」「ぴい!」「ごぎゃ!」
ごきっ! と鈍い音を立てシャイニスの後ろ脚蹴りがゴブリンに炸裂する、華麗なステップでゴブリン達を翻弄し隙を見てはけりをお見舞いする。
ボク達は今ゴブリンの集団を強襲している、始めは約30匹前後程だったが今では後5匹、あっ4匹になった。
スチールツリーの槍は金属と違い、満遍なく魔力を通さないと強度は落ちるがその分軽い、速度を重視するのであれば使い勝手は良い、威力を求めるのであれば自重のある金属の方が良いだろう。
贅沢を言うのであれば魔法金属か希少金属かな、ミスリルとかアダマンタイトとかかな。
まぁそんな希少金属の武器をボクが持って歩いていたら直ぐに絡まれたのち、難癖付けて奪おうとする連中がいるだろうけれど、面倒だから暫くは安っぽく見える武具で誤魔化そう(実性能は安くは無いけれど)。
「よっと」
最後のゴブリンにトドメを刺し戦闘を終了させるが、血の臭いに別のモンスターを引き寄せては居ないか、残心を残しつつミニマップと索敵、気配の有無を確かめる。
「・・・ヨシ!、シャイニス周囲の警戒をお願い、ボクは後片付けをするから」
「ぴ!」
ボクは収納にゴブリンの死体を次々と回収していく、解体などは後回しで、今は匂いに釣られて他のモンスターを呼び寄せないように風魔法で匂いも散らす・・・ゴブリンは血の臭い以前に臭いのだ。
死ぬと何故か更に臭くなる、用事を済ませるまでは兎に角ゴブリンが邪魔なので一時的に収納しておく。
「良し全て回収したな・・・解体しないで後で埋めてしまおうかな臭くなるし」
この世界のゴブリンは良くある多種族交配をする類いのモンスターでは無い、ただしマウント行為や娯楽として疑似的交配行動をする男女関係なく。
この様な行為は他の亜人型モンスターにも見られるそうだ。
だが、どれも擬似的な行為なので最終的には殺される。
中には卵を穴に植え付け苗床兼産まれた子供の餌として扱うモンスターもいる。
そして、皮肉な事に異種族交配を行うのは、かつて古代の魔法王国が生み出した禁忌の人工戦闘生物『メーティプレス』
外見は肉厚のある巨体で、頑強な肉体と高い環境耐性に旺盛な繁殖意欲、成長は早いが寿命が短い、唯一の救いは適応進化が出来ないこと。
知性は高くないので文明を築くことは出来ず、時折繁殖のために人類種の女を襲い連れ去る、存在を発見されると国や冒険者ギルドが率先して殲滅に向かう程に忌み嫌われている。
臭いのお片付けも済ませて、こちらの用事を済ませよう。
そこには、ボロボロになった遺体があった、ゴブリン達の仕業であるのは分かっているが、遺体の首全てにマジックアイテムが装着されていた、鑑定結果は「隷属の首輪(劣化品)」と出た。
どの遺体もまだ成人していない子供ばかりだ、隷属の首輪はこの国では許可なく使用した場合は重罪になる。
しかも正規品では無く粗悪な劣化品、普通の子供程度なら押さえ込めるが、大人あるいは精神抵抗の高い者なら子供でも命令に対して抵抗出来るだろう。
質は悪いが量産するには丁度良いと言ったところか、子供の奴隷狩り組織・・・以前捕まった元サブマスの関係者か?
あれこれってボクもあの時この連中に狙われていたのかな、近くに目立たないように道が出来ている、隠れて馬車が行き来が出来るように、状態としては2年に満たない使用回数かな?
・・・元サブマスの事件から警備が厳しくなって逃げられずに潜伏していたが、今回の騒ぎに乗じてイスラートから逃げ出したまでは良かったが、途中でゴブリンの群れに遭遇して、逃げるために捕らえた子供達を囮にして逃げた、しかも子供達には逃げるなと命令して、と言うのがボクの憶測による推理だけれど、どうかな?
〈ボクは 語り掛ける 物言わぬ骸に ボクは 問い掛ける 答える事の出来ない魂に ボクは 聴き遂げる 声無き心の叫びを 弔いの門は開かれた 安らかに昇れ 輪廻の輪の元に 帰れ 還れ〉
『
ボクは魔導眼に映る子供達の霊魂を「昇天の呪歌」で輪廻へと送った、その際に幾つかの情報を記憶から読み取っておいたがほぼ推測通りだった。
ボクは英雄でも勇者でも主人公でも無いので、実にタイミングが合わない、やるせないな本当に。
遺体は出来るだけ回収してもう少し景色の良い場所に埋葬してあげることにする。
さて気分も最低だが、寄り道は続けよう、案外人さらい共が逃げた先で更に襲われているかもしれないし、今回の魔力爆発でモンスター達が殺気立っているから今は凶暴化してる状態だし。
・・・・・・フラグが立った! ボクは悪くないよね。
しばらく進んだ先で、怪しい馬車が横転している。
気配を消し、隠蔽スキルで姿を隠し、スニーキングミッションを開始する。
横転した馬車の周りには、ハングリィウルフ群れが群がっていた。
そしてその状況は先程とは比べ物にならない程に酷い有様だった、文字通り血まみれだ! 地面が血と臓物で赤黒い。
アレを除き全滅だろう、ボクの探知にも2人分の反応しか無い、横転した馬車の上で槍を必死にハングリィウルフへ突き出し牽制している悪党2人分。
「くそっ! クソっ! 糞っ! ツイてねぇ!」
「うるせえェ! 文句言ってねェでウルフ共を殺せェ!」
2人は背中合わせでハングリィウルフを牽制しながら、隙を見ては攻撃しているが、目に見えて疲労している、ハングリィウルフ達もそれが分かっているのか、相手を休ませないようにグルグルと馬車の周りを回って、手薄な所から攻撃を仕掛けるフリをして相手が疲弊するような動きをさせている。
そしてその数分後にはその攻防も近郊が崩れる、糞ツイていない男が疲労困憊で突き出した槍をハングリィウルフに噛み付かれ綱引き状態になる。
「てめえ、くそっ放せ! クソがぁ!」
そう叫びながら槍を取り戻そうと力の限り引くと、ハングリィウルフは微かに口角を上げあっさりと噛み付いていた槍を解放する。
足場も悪く疲労によってフラついていた糞ツイていない男は、そのままたたらを踏みながら後方へと下がり、背中合わせのもう1人の男を押し出してしまう。
「なっ? てェんめえェ! 何しやがあぁぁぁぁぁぁっ」
前のめりで馬車から落とされた滑舌の悪い男は、急いで馬車に登ろうとするが、複数のハングリィウルフが四肢に噛み付き地面へと引きずる下ろす。
「いでェ! いでェよ~、助けてくでェ~、ばやぐだずけぼ~!」
のどに噛み付かれ最後は何を言っているか分からない有様だったが、それでも最後まで
「お、俺の所為じゃねぇ~、ひっ! く、来るな! 俺に近づくなぁ~!!!!!」
もはや襲いかかるハングリィウルフを追い払う術の無い糞ツイていない男は、そなままハングリィウルフの糞になる運命となった。
その後ボク達は人の味を覚えたハングリィウルフを討伐した。
被害者の魂がアンデット化しないように「昇天の呪歌」で輪廻へと送り届けその場を後にする。
こんなはずでは無かったのだが、寄り道をしているのにトラブルに遭遇する。
真っ直ぐ目的地に向かった方が良いのかなあ。
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