第18話 その先へ。


 プレーリーウルフ、群れを成す肉食モンスター、奇襲・待ち伏せ・強襲・誘導・罠など戦略とチームワークを用いて狩りをする狼、単体でも十分脅威だが群れを成し連携すると脅威度が増す恐ろしいモンスターとギルドの図鑑に載っていたが、ボクが前にここを通り過ぎたときは二度襲われたが簡単に返り討ちに出来て収納の肥やし状態だ。


 シュレイト、小規模な群れを成す草食モンスター、走ることに特化しており、高速で長時間の走行が可能、討伐及び捕獲は子供か成体なら走り出す前に行うこと、一度走り出せば追跡は困難とこれまたギルドの図鑑に載っていた、素材としても希少であるが騎獣としても超優秀らしく、大金を積んで欲しがる貴族もいる、もちろん自己顕示のためにだが。


 ただ、シュレイトについてはギルド情報は不足でアーザルトお父様の資料から推察するとボクの智識では所謂「走り屋」と呼ばれる方々に類似していると思える。


 物事の取り決めが全て走りで決められる、群れのリーダー、求婚、争いの決着方法等を長く速く走れる者が勝者となる。


 特の求愛の時期はより速い雌がモテ、多くの雄が求愛のためにレースで争い上位3から4匹が協力して求愛する。


 求愛のルールはいたってシンプル、雄が雌の前を走り雌に追い抜かれること無く一定の距離を走り抜くこと、まあ細々な他のルールもあるが簡単に言えば、雌をリード出来る速い雄のみが子作りをする事が出来る!


 雄達はこの子作りの権利を得る為に命を掛けるのである。


 比較として雄は身体が雌より大きく最高速度が若干速い、雌は体格と速度は劣るが持久力が遙かに優れている。


 通常であれば雄達がスリップストリームしながら協力して雌に追走し、雌が若干疲弊したところで本命の雄が雌を追い越し先頭で走るコースをリードしながらエスコートする、ただし疲弊の度合いを間違えると雌に拒否され求愛の走りが中断する。


 雌がそのエスコートに満足すると一鳴きして求愛を受けることを知らせる、その後は2匹で寄り添い走るウエディングランをした後に子作りをする。


 雄にとってはこの求愛の走りに全身全霊を掛けるため、成功しても失敗しても身体に支障が残るため、生涯で2~4が限界とされている。


 そして今目の前でそのせいしを掛ける走り合がおまけ付きで行われている。


 プレーリーウルフは既に置き去りになっている、もう息の絶え絶えの状態で獲物を見送っている。


 求愛の走りは・・・ぶっちぎりで雌が雄達に差を広げ独走していく、ユニーク個体かな?


 あっ、雄達が諦めた、そしてとぼとぼと引き返し始めた、おいお前達! そのまま戻るとプレーリーウルフと鉢合わせるぞ! あっ、双方気付いて追いかけっこが始まった。


 しかし、あのシュレイトの雌は速かったな、ボクなら追いつけるかな? スキル全開で挑んだらどうなるかな? 今度会ったら挑戦してみる? あっでもテイマーのスキル持ってなかった。


 対象に認めて貰ったらスキル生えるかな?


 その日はそれ以上は進まずにマッドガーデンで一夜を過ごすことにした(引き返すにが面倒くさかったから)。


 早朝、すっきりとした気分で目覚めマッドガーデンから出る(これだから未だに中位サバイバル術Lv5が一向に上がらない)。


 外は朝露がビッチョリと付着した草々が生い茂っていた・・・歩くだけでびしょびしょになりそう、昼までマッドガーデンで寝てようかなと気持ちが萎みかけたとき、彼女は現れた。


 彼女は朝露を撒き散らし草原を駆け抜けて行く周囲に散った朝露は朝日を受け虹色に輝いている。


「おおっ、ファンタジー♡」


 その神秘的な光景に見とれながら気が付くと身体が動いていた、草原を走り抜けるシュレイトに興味が湧き魅了される。


 わくわくする心が挑戦しろと囁く、ボクは走り出した!



================


名前 無し 

Lv 69

種族 シュレイト・ソニッツ(ユニーク個体)

性別 雌


筋力 B

体力 A

器用 B

速力 S

知力 B

魔力 B

幸運 C


スキル

〈種族スキル〉

・身体強化 ・超加速 ・神速 ・千里脚 ・超感覚

・風魔法 ・空間魔法


〈称号〉

・音速の乙女

================


 ・・・スゲェ~! なんかカッコイイ!


 ボクは次第に速度を上げていく段階的に超身体魔力強化、超身体魔力回復、超スキル強化、マナ粒子操作。


 強化される身体をしっかりと制御しながら速度を上げ徐々に彼女との距離を縮めて行く。


「ぴぃ!」


 彼女もこちらに気付き一声鳴く、警戒音なのか、それとも挑発か。


 そんな彼女の左斜め後ろから口角を上げニコリと微笑み返す。


 すると彼女も答える様に速度を上げボクとの差を広げる。


 ここからは真剣勝負! ボクはマナ粒子を全身に巡らせて加速!


 シュレイトのルールに従い、先頭を走る彼女がコースを決めそれをボクが追いかけそして追い越す、追い越したら次はボクがコースを決め走る、それが追い越されるまで続く。


 決着は彼女がこちらを認め一鳴きすればボクの勝ち、彼女に付いて行く事が出来ず置いて行かれたらボクの負け。


 要は彼女次第だ!


 互いに加速して速度がどんどん上がる、身体の周囲には魔力やマナ粒子で防壁を張り障害物を弾いて行く、もはや草一本でも擦れば薄皮が切れる速度に達している。


 彼女の後方に付きスリップストリームしながら動きを観察するまだまだ余裕そうだ。


 不意に直進から彼女がコースを替え小高い丘へと向かう、草原とはいえ常に平坦というわけでは無い、遅れずに後へ続く。


 丘を越え、林を抜け、肉食モンスター群れを蹴散らし、ボク達は走り続けた。


 この手の勝負で挑戦者が一番キツいのは目標が不透明な事だ、今回であればシュレイトの彼女がボクを認めることで勝負に勝てる、でも何処までやれば認めてくれるのか?

 通常であれば先の見えないストレスで疲弊していくが、ボクは違うそんな理不尽、前の人生で何度も経験した、しかも縛り有りの時もあった。

 だが今は制限無しのフルブーストありありだ!


 そして何よりボクは今この時を楽しんでいる!


「さあ! 始めようか!!」 『マナブースト始動!』


 メインマナクリスタルにマナ粒子が収束され内部で加速し始める、加速してマナ粒子は増幅され全身を巡る。


 増幅され全身を巡るマナ粒子は周囲へと溢れ虹色のオーラに包まれる。


 ボクの異変に気付き彼女も切り札のスキル「神速」を切る! 彼女の纏う空気が一変して神々しさを放つ!


 そしてここから、意地の張り合いが始まる!


 互いに前を譲らず突き進む白く輝く光と虹色の光弾。


 互いに差しつ差されつ進み、時には交差し、弾ける様に離れては再度近づく、その際に障壁激突の衝撃波や走行時のソニックムーブで周囲が弾け飛ぶ! 迷惑とも言えるようなレースは周囲の関係の無いモンスター達を巻き込み吹き飛ばしながら、境界の草原を1周するまで続いた。


 結果としては、彼女は非常に満足しボクを強敵トモとして認めてくれた。


 互いに競い認め合ったボク等に絆が芽生えた時!


『シュレイト・ソニッツがパートナーテイムを求めています』


『シュレイト・ソニッツの求めに答えますか』


『ハイ・イエス』


 うん、良くある強制選択肢だ。


「もちろんボクは両方選ぶよ!」


『シュレイト・ソニッツとのパートナーテイムが成立しました、これにより〈レアスキル〉テイムマスターを習得しました』


 予想の少し上を行ったがほぼ予測の範囲だ。


 うん? ああそうだね、まずはキミの名前を決めようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る