第12話 閑話 気になるあの子


 冒険者ギルド・イスラート支部は今日も忙しい、辺境ではあるが多くの冒険者がこの地に集まってくる。


 季候も良く年中稼ぐことが出来る良い場所だ、ただしA級危険地域『魔境の地』を含む『滅びし聖地』の近くであることを除いて、『滅びし聖地』は3層に区分されており、一番外の層を『帰らずの森』、中間の層を『境界の草原』、最深部の層を『魔境の地』と呼ばれ、そして全てを総称し『滅びし聖地』と呼称している。


 危険地帯ではあるがその恩恵も大きく無視も出来ない、イグルート大陸の中央に位置しているため多数の国と隣接しており、幾多の国が開拓をしようとして手痛い失敗をしている。


 開拓は諦めても資源の回収は出来るので、監視と共にモンスターパレードに備えての要塞を建築する様に王命を受け出来上がったのが「辺境都市イスラート」である。


 今でこそ辺境伯となっているが初代は当時流民であったエーイチと呼ばれる冒険者で、とある功績の褒美として男爵の爵位と国王の第8王女と共にこの領地を賜った。


 *初代の日記には自身の扱いに困った王侯貴族か結託し政略的に価値の無い第8王女を押し付け、爵位で縛り辺境に押し込んだそうだ。

 そんな逆境にもめげずに初代エーイチ男爵はその持てる力と知識をフルに発揮し「辺境都市イスラート」を築き上げた、次第にその影響力を無視出来なくなり、一部の王族や貴族が計略を用いて陥れようとするも、彼を慕う頼れる仲間や家臣達と共に退けて行き、ついには一代で辺境伯にまで上り詰めた。

 その日記は今も一族の書庫に原本は厳重に保管されており資料として幾つもの写本がある。

 

 そんな素晴らしいエーイチ・ミズキ・イスラート辺境伯は様々な政策を残しており、その一部が冒険者ギルド・イスラート支部にも残っていて今も続けられている。


 要するの地元冒険者の育成と子供達の保護と教育を目的とした政策だ。


「人材は無限では無い有限だ、領民は道具では無い人間だ、智識と技術は財産であり領地の宝だ、領主は領民と領地を守る義務がある」         エーイチ・ミズキ・イスラート


 貴族として領主としても人々に慕われた人物でありその子孫達もそんな初代を尊敬し敬愛した。


 現在イスラート支部で行っている事は、12歳からの冒険者見習いのギルド証発行、14歳からのFランクギルド証の発行、それらの教育と保護を主としている。


 領民以外の14歳以下に対しても同様の措置を執っている、他所からすると恵まれている、予算の無駄だ、ガキ共よりもオレ達を優先しろ等と言う声もあるが、領主様が率先して支持されているため、あまり身の程をわきまえないと衛兵さんが詰め所の牢屋にご招待してくれる。


 馴染みに子供達や周辺の村から様々な理由で冒険者として登録に来るが、正直夢見がちな我が儘なガキとか、子供特有の万能感から危険なことをする阿呆ガキ、都会に浮かれ受付嬢に熱を上げるマセガキ、注意はしているが悪い大人に騙され行方が分からなくなる子等、毎日が忙しい。


 そんな最中に現れたのが、顔立ちも良く丁寧な態度で接してくるナイヤと名乗る14歳の少女だった。


 仕事も丁寧で大人の話を良く聞き、注意事項はきちんとメモを取るまじめっぷり、思わず何時もいい加減なギルドの若い新人共にも見習わせたいと思ってしまい、つい口に出してしまった。


「えっ、メモを取ることは良いですけど、ボクを引き合いに出さないで下さいよ、逆恨みされると困りますから」


 その時に見た目よりもしっかりしているなぁと思って「そんなことはしませんよ」と返事をした。


 その後も私が受付にいるときは必ずと言って良いほど私にクエストの確認処理を任せに来る様になり、良く話す様になった。


 あまり未成年者を特別扱いするのは増長する子がいるので良くないのだがナイヤちゃんはその辺はしっかりとしている・・・いやしっかりとし過ぎている。


 日に日に装備が微妙に変化している、初めて会ったときも子供の装備にしては使い込まれていて良く馴染んだ良い装備だった、その時点でおかしいのだ、子供用の使い込まれ良く馴染んだ装備? 真新しいもしくは馴染んでいない中古品装備なら多く見ているから分かるよ、なのに成長中の子供がなぜそんな体型にフィットした装備をしているのか疑問に思った、しかも使い込まれて違和感の無い、私にはそれが微妙な違和感として残ってしまった。


 その後も隠してはいるけれどおかしな事が幾つかあった、何時も硬貨を入れている腰巻きのポーチ、潰れ顔の猫さんが可愛いけれどそれマジックポーチよね、後その色々な道具を横に結びつけている大籠もマジックアイテムでしょ! 分からない様に偽装しているけれど、ごめんね私は中位鑑定スキル以外に〈レアスキル〉『真贋の眼』を成人の儀で神様から頂いたの、だから僅かな違和感も見破れとしまうの・・・でも結構凄い偽装ね疑問に思わなかったら見破れなかったわ、しかも完全には鑑定出来ないし。


 あれ? 装備の全てに付与魔術が掛かってない? ・・・絶対普通の子供で無いでしょうナイヤちゃん! 


 まあ人は誰しも隠し事や後ろ暗いことはあるけれどさぁ。

 ・・・あっ短槍の鑑定通った! はあぁ、『スチールツリーの短槍』!


 ス、スチールツリーってこの辺りだと・・・『魔境の地』にしか存在していないはず、ナイヤちゃんそれどうしたの?

 うわぁ、槍の穂先もスチールツリーだ、カタカマ?片側の根元だけ小さい刃が出ているのね、変わった形ね、いつもカバーを掛けているから気付かなかった。


 あっ、柄の中間辺りに結びつけている飾り綺麗、虹色の石かな? げっ鑑定出来ない! 何あの石?


 あ~どうしようこれって報告案件だよ、でもしばらくは様子見かな? ギルマスも無茶はしないだろうし、15歳まで後一月前だしさり気なく注意をしておこう、成人してからが冒険者の本番だから今の内に。




 あ~~~~~~っ、何考えてるのよ! あのサブマス! ゴミマス! コネマス! 寄生虫マス! ギルマスが領主様の所に行っていない時に何勝手なことしてるのよ~!


 あのクズ、子飼いの冒険者にナイヤちゃんの身辺調査命じていたなんて!


 しかも気付かれて逃げられた挙げ句、逃げた先が『帰らずの森』ってもう18時じゃない!


 明るい内なら危険性は少ないけれど夜の森なんて子供がソロで過ごすなんて、くっ今から行けば助けられるかも。




 はぁ! そんな事実は無いから勝手なことするなぁ! サブマス命令って本気で言っているんですか!


 こいつ! 自分のミスを握りつぶすつもりだ。


 なっ、ガキが勝手に森へ向かったことだからギルドには関係ないって、・・・(ブチッ)あn!? へっなに?・・・あっギルドマスター!

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