第6話 アーザルト・ルートス


 アーザルトお父様はそう長くは無いと感じ始めていたその夜に研究所の奥に来るように呼ばれた。


 奥の部屋へ入ると違和感に気付く、室内が整理整頓されている。


「ナイヤ、夜分遅くに呼び出して悪いね、どうしても話しておきたいことがあってね」


 何時ものテンションの高さはなりを潜め静かに語り出す。


「ナイヤ・・・ワシは後数ヶ月で死ぬ、やっと死ねる・・・ありがとう、この成果と結果に十分満足出来た」


 ただ簡潔に自身の死期と礼を言われた。


「初めは妻と娘を取り戻したかった・・・しかし結果は魂の無い器が出来上がるだけ・・・絶望したよ、絶望した腹いせに研究の過程で出来た不完全な魔導式戦略人造人間を用いてワシの全てを奪った国に協力していた王侯貴族共から同じように奪ってやった、本当に殺したい連中はすでに滅んでいたからね・・・。

 八つ当たりもいい所だが押えることが出来なかった、ふふっ」


 自傷するような笑いをしつつ続きを話す。


「それから10年程無気力だったのだがね、ふと魔導式人造人間を完成させたいと思い始めた、諦めが悪かったのだろう、そうして今に至るまで研究を続けた」


 少しの間を置いてから何かを決意するように口を開く。


「その結果ナイヤ、君が誕生した・・・ワシはあの時、君の問いかけを聞いて・・・そう何というか、満足してしまったのだよ。

 そこからは、本当に早かった薬と魔導、魔力と気力で押えていたワシの時間が動き出した。

 君が目覚めたあの日、ワシは久しぶりに妻と娘のことを思い出した・・・ずっと目をそらし人造人間彼女達に管理するよう命じていた・・・全く酷い夫で父親だ」


 妻と娘が保管されている装置を眺めた後目をつぶった。


「ナイヤ、君と過ごした日々の中、身体の衰えと共に蘇ってくる妻と娘の思い出が楽しみでしょうがなかった・・・次は何を思い出すのだろうとわくわくさえしていた。

 ・・・この妻と娘に似せた器はワシの罪そのものだ。

 顔を見るのが怖かった、だが破棄することなど出来なかった。

 ・・・・・・

 ワシの死と共に全てを消すことにした」


 なんか物騒なことを言い始めたアーザルトおとうたま、これはひょっとして巻き込まれるか?


「だからナイヤ、君はここから立ち去りなさい。

 そして外の世界で自由に生きなさい。

 こんな父ではあるが娘には幸せになって貰いたいと願っている。

 あ~だが、ワシ以外の男には気を付けなさい、年頃の男は下半身で物を考えるケダモノだからな!」


 ・・・どうやら不器用なお父様なりの気遣いだったようだ。

 そうか、独り立ちを進められたか、依頼内容の本人を満足させて欲しいと言う依頼者の希望は叶えられたかな?


「旅立つ際はワシの研究成果以外は持ち出して構わんから好きな物を選んでおきなさい。

 あまり衰えていくワシの最後を見せたくないから出来るだけ早めに旅立っておくれ。

 ・・・夜遅くに済まなかったね、もう戻って良いよ。

 おやすみナイヤ」


「おやすみなさい、おとうたま」


 そう挨拶を交わしてボクは部屋を出た。


 そしてその10日後に準備を済ませてボクは旅立った。

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