第7話 さようなら・・・。


 あの夜から10日が過ぎいよいよナイヤの旅立つ準備が整った。


 アーザルトおとうたまに言われた通りに持ち出せる物は遠慮なく収納スキルに詰め込んだ。


 転生特典スキルに収納系スキルがあったので大荷物でも余裕だ。


 言い付けに反しない範囲で旅支度を進めた。


 アーザルトおとうたまも「どうせ跡形もなく処理するから遠慮せずに持って行け」と笑って言っていた。


 そして今現在旅立ちの当日、研究施設の入り口前でアーザルトおとうたまを中心して左右後方に補助として魔導式人造人間メイド型を2体控えさせた状態で対面している。


「忘れ物はないかい? 武器防具は持った? 弁当は貰ったか? ハンカチは? 風邪は?・・・掛からないか耐性があるから、だが絶対ではないから体調管理はしっかりな! え~と後は・・・」


 心配そうにそわそわと気付いたことを話してくれる、分かっていても別れが寂しいのだ。


「まぁ伝えることはこの数日の間で伝えた、分からないことがあったら渡してある『メモリーパネル(腕輪型)』で確認しなさい」


 『メモリーパネル(腕輪型)』とは腕輪型の魔導器具で要は記録媒体でありアーザルトおとうたまの研究記録・資料の全てとこの世界についてのおとうたまが分かる範囲での知識が詰め込まれている。


 しかも半透明のパネルを自在に撮し出しデータの検索・更新・閲覧も出来るこの時代ではアーティファクト級の代物で存在を知られると殺してでも奪おうと考える阿呆がいるかもしれない品だ。


 スマフォやタブレット程便利ではないがアーザルトおとうたまがボクのために丹精込めて用意してくれたので必要なとき以外は収納にしまっておこうと思う。


 短い間ではあるが人間らしい触れ合いや語り合いを久しぶりに思い出した事もありアーザルト自身が驚くほどに過保護のなってしまっていた。


「出来ることなら最後まで看取って欲しいと思うが、それはワシの我が儘でしかない、これ以上は悪い方に巻き込んでしまいそうだからな・・・気持ちよく見送れる今が一番後腐れがないだろう」


 どうやら老人介護で良くある、この後にもしかするとあり得る、手の付けられない状態の介護老人になってしまった自分を見せたくないのだろう。


「分かっています、おとうたまとの楽しかった思いを胸の旅立ちますから安心してください」


「そう言って貰えるとワシも安心だ、仮初めではあったが家族ごっこも楽しかったよ、我が娘よ」


「ボクも楽しかったです、おとうたま」


 互いに皮肉を言い合い笑顔で別れを告げる。


(これで取り敢えずは任務完了かな? 結局は依頼人が分からないから確認のしようがないのだけれど、後は自由で良いのかな?)


 そんなことを考えながら再びおとうたまの方に目を向ける。


 !?、・・・・・・・・・問題ないようだ。


「アーザルトお父様! これでお別れです! とてもお世話になりました! 行って来ます!」


 ハツラツした声で別れを告げる、しみったれた別れは今は似合わないから。


「そうか、行っておいでナイヤ! 良い旅を!」


 こちらも力を込めた声で送り出す、娘が躊躇わないように。


「行って来ます!!」


 そう言い終わると共に踵を返し走り去る娘を見送る老人はその後姿が見えなくなるまで手を振っていた。



 人生の最後に娘を見送り様々な思いを巡らせながら全てやり切ったと納得させ最後の仕上げに入ろうと老人は研究施設へと車椅子を向けようとした。


 !?、しかし車椅子は途中半端な状態でその動きを止める。


 魔導式人造人間メイド型の2体も主人が何の指示も出さずに動かなくなった為命令待ちでその場に留まり動かなくなる。


 老人の時が止まる、思考が止まる、そして遙か昔に止まっていた心が動き出した。


 壊れ凍り付き踏みにじられた二度と動く事のなかったはずの心は涙となって零れ落ち、嗚咽となって喉から漏れ、溢れる感情となって老人を泣かせた。


 もはや枯れ果てたような老人は何処にそんな水分があるのかと言うぐらいその顔を様々な体液で濡らし酷い顔になっていた。


 しかしそんな状態でも老人の見つめる先は一つであり決して目を反らすことはなかった、老人が見つめる先には、半透明な女性と少女が柔らかな笑みを浮かべ立っていた。


「おおおおおおおおおっ! ワシは、ワシは! ワタシはなぜ気付けなかった! 側にいたのか? あの頃から? ずっと、ずっと側にいてくれていたのか! ワタシは何て愚かな夫と父親だったのだ・・・おおおおぉぉぉぉ!」


 老人は自らの至らなさを独白し嘆いた。


「こ、こんな事を今更言える資格はワタシにはないのだろう、言ってはいけないのだろう、だがもう後悔はしたくはない!

 あの時守ることが出来なくて済まなかった、そしてどのような形であってももう一度会ってくれて『ありがとう』」


 (・・・、・・・・、・・・・・・・・・・・)


「ああっ、ああっ、ありがとう! ありがとう! 今度こそ最後まで共に居よう」


 こうしてようやく出会うことが出来た家族は最後の時を共に過ごした。



 それから数ヶ月後、『魔境の地』と呼ばれるA級危険地域にて突如大規模なマナ爆発が発生し、その影響で周囲のモンスターが大量に『魔境の地』の外側へと逃げ出す事となり、隣接する周辺国で中規模のモンスターパレードが発生する、その結果それなりの被害を出す事になるが、これはまだ先の話である。

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