第5話 ナイヤの30日間


 あの騒々しい魔導式人造人間718号(ナイヤ)誕生から30年・・・嘘です、30日が過ぎました。


 お父様もといおとうたまことアーザルト・ルートスは本人曰く歴代最高の魔導錬金術師だとのこと、御年209歳の人間としては超御長寿だそうだ。(この世界での人間の平均寿命は50歳前後らしい)


 その後はハイテンションのアーザルトおとうたまと色々な話をしつつ、この世界についての情報を集めることにした。


 任務として派遣されるのだから事前の情報を貰えないのか?と言われると答えとしてはその時々によるとしか答えられない。


 まぁ今回は事前情報無しで転生したのでこう言った話し合いは色々と助かる、もちろん全てを鵜呑みにはしないが少なくともこの世界で過ごす間はどんな情報も必要な知識だ。


 アーザルトおとうたまに付いて現在分かっていることは一言で言うと、『国潰しのアーザルト』と呼ばれる伝説の人物らしい。


・『国潰しのアーザルト』

 今から100年程前に6つの国々の王侯貴族をほぼ皆殺しにし国を機能停止に追い込んだことからそう呼ばれるようになった。

 その事件は今でも語り継がれており昔話や躾の一環として利用されている。

 要するに「悪いことをすると『国潰しのアーザルト』やってくるぞ」と。


 ・・・アーザルトおとうたま曰く取るに足らない良くある理由で皆殺しにしたそうだ、ただ本当の標的はもうその頃には滅んでいたらしく、関わっていた6つの国々へはほぼ八つ当たりだったらしい。


 今でも欠かさず施設奥に厳重に保存装置に保管されている女性と少女の前で祈りを捧げているアーザルトお父様はとても悲しそうだった。


 を作り出そうとした切っ掛けはソコなのだろうと思う、でもボクは空気が読めるので触れないようにしている。


 先程ボク等と言ったがボクは魔導式人造人間718号なのでその前に717体の姉が存在している。


 まぁアーザルトおとうたまは全て失敗作だと言っていた、肉体は作れても魂までは作り出せなかったそうだ。


 ただ言われた事をこなすだけの人形だと言っていた・・・まぁその割には可愛らしいメイド服を着せてそれぞれに仕事を与え大事にしているようだが、出来の悪い子ほど可愛いのだろうたぶん。


 そんなこんなで30日間ボクの性能テストや世界についての学習、基本的なスキルの習得に実戦訓練とデータ収集等々、アーザルトおとうたまが満足するまで色々な検証に協力しながら日々を過ごした。


「ふむふむ、全ての数値が期待値を遙かに超えている・・・素晴らしい結果だ! その上容姿端麗、少々クールでキャットかぶりではあるが感情豊か、他者への配慮も出来る、んんん~~ん素晴らしいぃ!」


 アーザルトおとうたまはいつものオーバーリアクションドこれまでの結果について喜ぶ、そしてメイドの差し出す真っ黒な液体が入ったカップ受け取り。


 ズズズズゥ~~~!


 気分良く音を立てて啜りながら飲んでいた。


「アーザルトおとうたま、行儀が悪いですよ」


 困ったように注意する、すると彼は懐かしそうな嬉しそうな顔をした。


「良く妻に叱られたよ、お行儀が悪いと娘が産まれてからは「マネをしたら困ります」と困った顔をしながら叱られた・・・でも本気で止めろとは言われなかったなぁ、これはもう癖でね、こうしないと落ち着かないのだ、妻の入れる茶は本当に美味しかった。

 まぁからはコゥチィしか飲まなくなったが・・・」


 コゥチィとはこの研究施設周辺でのみ採取が出来る固有の植物で種を加工した飲み物だ、ようは覚醒作用の強いコーヒーと思って貰えば良い。


 アーザルトお父様は現在は自動で動く車椅子で移動している・・・ここ数日で急激に衰えている。


 おそらく・・・もう長くは無いだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る