第7話 ハニー顔イケメンあらわる!?

「あ、碧ちゃん近い……」

 碧ちゃんの小顔がドアップに迫っている。


「えー、全然近くないよー。近いっていうのはぁ」

 言いながら、碧ちゃんがほたるの腕をぐいと引き寄せた。


 首に巻いた白いモフモフストールがほたるの鼻先をふぁさっとくすぐった瞬間、ムンと、亜熱帯に咲く花のような、甘ったる匂いが立ち昇った。

 途端、目の前がピンク色に染まっていく。くらくらと、のぼせたようなめまいがして、身体がふわふわし始めた。


 この感じ。まるで虫酔い草のシロップを飲んだ時みたい。

 でも虫酔い草のシロップを飲んでも、こんなふうに、目の前がピンク色には染まらない。

 まるで、満開の桜の中にいるようで、心が勝手に浮き足立って、なのに、ちょっぴりせつないような感じは。

 ふっと、幼馴染の篤との思い出が、ほたるの頭に浮かんだ。

 中学生の頃、自転車を押す篤と二人並んで下校した日のこと。

 図書館の自習机にいきなり篤が現れた時の気持ち。


 あの時と同じ、胸のときめきが、ほたるの心を支配していく。


「ほたるちゃん」 

 とろけるような男の人の声が、自分を呼んだ。

 いつの間にか、目の前に神主さんのような着物を着た人が立っている。

 碧ちゃんのワンピとよく似た、鮮やかな水黄緑色の生地の着物を着ていて、袖口と袴の上には、金の糸で楕円形の模様も刺繍されていた。

 その人は、白いモフモフっとした超巨大扇子で顔をすっぽり隠している。

 その超巨大扇子をすすっと下ろして露になった顔。

 ほたるは息を飲んだ。

 くりっと大きな二重が魅力的な、童顔甘甘マスクの青年。

 とろけるようなハニー顔イケメンだ。

 碧ちゃんのようにカチューシャで前髪を全上げしている。それが超絶似合っている。すっごい小顔。

 向尸井さんやアキアカネさんと同じ系統の、人間を超越しちゃったような超絶なイケメン加減。

 ほたるは、ぽーっとつい見惚れてしまった。


「ほたるちゃん」

 耳元で、ハニー顔イケメンが囁いた。


「僕とつがいになってくれる?」

「はい…………え? つがい??」

 夢見心地にこくりと頷きかけたほたる。ハニー顔イケメンがキラキラと迫ってくる。

「わっ!!」

 少女漫画並みの甘々シチュエーション。しかし、恋に免疫のないほたるの頭は、処理不能。ねじがぴんっと外れた。

「ぐえっ」

 潰れたカエルみたいな声がして、気が付けば、ハニー顔イケメンに、全力でけりを見舞っていた。


「は! す、すいません! つい」

(やってしまった!)と、ほたるは慌てて頭を下げる。



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