第6話 ひいじいじと「招きむし」

 ほたるの横にぴとっと張り付いて歩く碧ちゃんは、さながら、ご主人様が大好きすぎるチワワのようだ。尻尾があったら、超高速でブンブン振っていそう。

 

(碧ちゃんと一緒だと目立つなぁ)

 講義室を出て、ガラス張りのカフェテリアのらせん階段を下りていくほたるたちを、男子学生たちの熱視線が追いかけてくる。


 彼らは碧ちゃんの美しさに見惚れた後、期待たっぷりに隣のほたるに視線を投げかけて(マジか?)と、残念な顔をする。失礼なやつらめ。


(美女の友達が美女じゃなくて悪かったですねー)

 ほたるは碧ちゃんに気付かれないようにぷうっと頬を膨らませた。


(てゆーか、なんであたしの周りには、こうも美男美女が多いのか)


 幼馴染の篤もイケメンだったし、小学校から仲良しの紗良は元々美少女だったけれど、この前、チーム田園の同窓会で会った時、また一段と綺麗になっていた。


 そのチーム田園の同窓会の日に出会った死神……じゃなくてアキアカネさんも、それからむし屋の向尸井さんも人間を超越した超絶イケメンだ。

 いや、実際あの二人は、人間ではないのかも。

 てゆーか、たぶん、人間じゃない。 

 でも、その辺りを考えると沼にハマりそうなので、深堀りするのはやめておく。


(そういえば、ひいおばあちゃんのアカネさんもお人形さんみたいに可愛い人だったなぁ)

 亡くなったひいじいじがまだ元気だったころ、「アカネさん」と愛読書に挟んだ古い写真を見せてくれたことがある。

 そこに写っていたアカネさんは、ほたるのひいおばあちゃんのはずなのだが、うちの家系には似つかわしくない美人さんだった。


(そういえば、アカネさんの写真って、おばあちゃんには見えなかったんだよね)


 おばあちゃんを生んですぐに、アカネさんは亡くなったせいで、おばあちゃんは実の母親であるアカネさんの顔を知らないと言っていた。写真もないと話していた。


 でも、ひいじいじが亡くなった後、ほたるがひいじいじの形見として貰った愛読書を開いたら、やっぱり写真はあった。


 その写真を覗き込んだおばあちゃんは「ひいじいじは、こんな古びた紙きれをしおりに使ってたんだねぇ。言ってくれれば、ちゃんとしたのを渡したのにねぇ」と、苦笑するだけだった。


 もしかしたらあの写真は、むし屋のアルバイト募集の張り紙と同じ、通常の人間には見えない『むしインク』なるもので現像したものかもしれない。

 ひいじいじは昔、あのむし屋でアルバイトしていたみたいだから。


 ひいじいじは、アカネさんに出会えたのは自分の中にいる珍しい「むし」のおかげだと言っていた。

 その珍しい「むし」はほたるの中にもいて、おかげで、ほたるはむし屋でのアルバイト(見習いだけど)をしぶしぶ許可されたのだった。


 確か「招きむし」という名前のむし。


 どんな「むし」かはわからないけれど、向尸井さんとアキアカネさんの口ぶりからして、貴重な「むし」のようだ。


(もしかして、あたしの周りに美男美女が多いのも、その「招きむし」のせい?)


「ほたるちゃん、どうかした?」

 ふと気が付けば、碧ちゃんが長身をかがめて、ほたるの顔を覗き込んでいた。


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