第4話 神明大学の多様性カリキュラム

「こら、そこ。寝るな!!」

 低い声で怒られ「すみません!」と、ほたるは、がばっと椅子から立ち上がる。


「あっはっは~。引っかかったー! ほたるちゃんはからかいがいがあるよねー」

「あ、碧(あお)ちゃん??」


 振り向けば、麗しい美貌の持ち主が、ほたるににっこり笑いかけていた。


 神明大学一の美女(ほたるの知る限り)の大水碧(おおみずあお)ちゃんだ。

 いつも、透明感のある水色と黄緑色の中間のような不思議な色味のオシャレなワンピースを着ている。


 いつも、というのは、ほたるが碧ちゃんに会う時は、という意味。

『多様性』を掲げる神明大学は、学生が受講できるカリキュラムも多彩。なので、碧ちゃんに会うのも稀なのだ。


 どういうことかと言うと、ほたるは神明大学文学部文学科を受験し合格したのだが、入ってみたら、文学部でも理系の学科を履修できるし、その反対もしかりで、 もっと言えば、講義の出席数さえ満たしていれば、どの講義を受けてもOKなのだった。


 つまり、実践英語Ⅰの第1回講義を受けて、なんか違うな、と思ったら、同じ曜日の同じ時限の別の講義、例えば英語文法Ⅰとか、または統計学Ⅰとか、国文学Ⅰとかの講義を受けても単位が取れちゃう独自システムになっている。


 だから、その日のその時間の自分の気分次第で、理系、文系、学部の垣根も越えて、講義が選び放題ということ。


 そんな感じなので、それぞれの単位を取得する方法も、試験、課題、教授の手伝いなど、多種多様。

 あまりに『多様性』がすぎて、混乱する学生もしばしばらしいけれど、まあ、そこも、さすが神明大は微妙大ってことで、みんな納得している。


 話を戻せば、この節操のない『多様性』カリキュラムを、友達と一緒に受けるつもりなら、事前にDMを送り合って「今日の〇時限目は、○○の講義にしよー」とか、約束する必要がある。


 実際に、それをやっている仲良しグループもいるみたいだけれど、ほたるはそういうのが大の苦手なので、いつも単独行動。

 その日のフィーリングで、いろんな講義を受けている。

 そして、どうやら碧ちゃんもそうらしい。

 そんなわけで、碧ちゃんも含め、大学で仲良くなった友達と大学で出会う確率は、運次第。

 だから、本日の碧ちゃんとの再会も、随分久しぶりなのである。


 そして、ほたるが碧ちゃんに会う時は、偶然にも、いつも、この透明感のある水色と黄緑色の中間みたいなオシャレワンピースを着ているというわけ。

 だから「いつも」なのである。


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