第6話-①
マコトはますます縮んでいく。ぺちん、の回数や時期に法則性はなくて、私たちの意識が日常に溶け込んだことを見計らってやって来る。だから、縮む瞬間を見た者は誰もいない。
マコトのご飯茶碗はいつしかお猪口になり、しょうゆ皿におかずを盛るようになった。唐揚げやら卵焼きやらを細かく刻むために、母のエプロンの前ポケットにはキッチンバサミが常備されている。
「そろそろ、おままごと用の食器セットを買おうかしら」
「あらやだ、ピンクばかりで男の子用が少ないわね」
「木製の食器は可愛くてステキだけれど、お値段は可愛くないわ」
母は独り言ちながら、玩具の通販サイトを眺めている。なんだか楽しそうなのは気のせいか。ちなみにマコト専用のテーブルと椅子は、DIYが趣味の父が器用に作ってくれた。
中学校に登校するのが大変だという理由で、マコトは自宅学習に切り替わった。学校も認めてくれたらしく、国から支給された小型のタブレットを弟は物珍しそうに眺めている。
「もし学校に通いたいなら私が連れて行こうか。鞄の中に入っていれば、寝てても登校できるしさ」
「それはいい考えだね。でもお姉ちゃんが大変でしょ」
「早起きは嫌いじゃないから大丈夫だよ」
「でも、これ以上小さくなると鞄の中は危険だよ。ノートやお弁当箱に潰されて圧死すると思う」
「じゃあ制服のポケットなら?」
「お姉ちゃん自転車通学でしょ。きっと振動が凄くて、ポケットの中で吐いちゃうんじゃないかな」
「駄目かぁ」
学校に行けなくなったマコトは、日々の大半を机に向かって過ごした。タブレットには、中学校の教科書以外にも様々な書籍・図鑑・専門書がダウンロードされていたので、飽きることはないらしい。暇さえあればゲーム機を触っていた頃の弟が好きだったが、その姿を思い出すことはもうできない。
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