第2話

 私の身の回りで縮んでしまった人は、これまで三人いる。

 一人は幼稚園の年長で一緒だったミカちゃん。小学校は別々になってしまったから、その後どうなったのかは分からない。もう一人は、近所のスーパーで働いていた長島さん。当時、小学生だった私と同じぐらいの身長でレジを打っているところまでは見たけれど、その後すぐ辞めてしまったらしい。


 三人目は私の祖母。会うたびに縮み続けていき、手の平に乗る大きさになった初夏の朝に、喉頭がんで亡くなった。当たり前だけど骨格自体が縮んでおり、火葬炉から出てきたそれは焼いたサンマを汚く食べた跡みたいだった。崩さないよう苦労して骨壺に入れたせいで、箸を持つ指がふるふると痙攣してしまったこと。それが祖母に関する最後の記憶になった。


 だから私は、順調に(?)最後まで縮んだ顛末を知らない。消滅して「0」になるのか。それともミジンコほどの大きさになったとしても「1」であり続けるのか。周りの大人たちに聞いても誰も教えてくれなかった。


 仕方が無いので、インターネットで【縮んだ人 最後】と検索してみる。しかし関係ない記事やサイトが大量にヒットするだけで、面倒になってすぐに諦めた。高校の同級生でオカルト好きな洋子は、「真実に辿り着かせないために、何者かが大量のフェイクニュースを流してるのよ」と、陰謀論であることをこっそり教えてくれた。なんて返事をすれば良いか分からなかったので、とりあえずへらへら笑っておいた。


 クリックしたサイトの多くは偽の情報で溢れていたが、いくつか興味深い内容もあった。例えば、「数字を0で割ることは数学界ではタブーとされている」という記事。試しにスマホの計算機で「5÷0=」と入力してみると、確かに「エラー」と表示される。そのことに感心してしまったせいか、自分が何を調べているかの記憶だけがするりと抜け落ちてしまった。その後も何度か検索してみたが、結果はいつも同じだった。

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